見出し画像

貴腐ワイン トカイ・アスーのルールを破る?

1970年に外国産ワインの輸入が自由化され、日本の一般家庭でワインが飲まれるようになったのは高度経済成長期1970年代前半のことです。その時、ワインブームを牽引したのがドイツの甘口ワイン「リープフラウミルヒ」(ドイツ語:聖母の乳)でした。甘くて飲みやすいということから人気になったようです。甘い飲料や食物に溢れている現代社会で、ワインを飲み慣れてきた為、料理に合わせやすい辛口ワインが主流となり、甘口ワインの人気が衰えてきたのは少々残念な事実です。

 私の甘口ワイン初体験は二十歳の時、カナダ旅行のお土産にもらったアイスワインでした。冷たくて甘くておいしかった記憶がありますが、その後、トカイのワイナリーのひんやりした地下セラーで蝋燭の灯りで頂いたトカイ・アスー5プットニョシュと6プットニョシュの格別な味は記憶に新しいです。8℃くらいに冷やされたトカイ・アスーはグラスの中でゆらゆら、きらきらと黄金色に美しく輝き、アイスワインにはなかった、柑橘系の酸味、キノコや僅かな塩味を感じる旨味があり、なんとも複雑な味わいでした。

私の試飲したトカイ・アスーを造ったグランド・トカイのチーフワインメーカーであり、ハンガリーの著名ワインメーカーが選ぶ2020年度最優秀ワインメーカーのカーロイ・アーチさんはトカイ・アスーについてこう語っています。
「初めて、アスーを使ったメイン・コースを味わった時の衝撃は忘れられません。牛のフィレ肉の煮込みにレーズンライスを付け合わせにしたメインだったのですが、ソースの中にアスー5プットニョシュが密かに使われていたのです。これはトカイ・アスーの楽しみ方はデザートとして、デザートと一緒に、という長く当たり前のように型にはめられていたトカイ・アスーを、新しい世界に開放した新しい楽しみ方の提案を、始めて経験した瞬間でした。もちろん、トカイ・アスーが真夏に水辺で楽しむタイプのワインでないとは思っています。でも、やはりルールは破るものだとも思っています。
アスーを1本(500㎖)造るのに3本のブドウ樹から貴腐ブドウを収穫する必要があり、これほど貴腐ブドウの濃縮感が味わえるワインは世界でも類をみないと思っています。
こんなことを考えながらも、貴腐ワインはちょっとしたお祝いごとに楽しむのがいいと思うのです。ルールを破った方がいいと言いながらも、このアスージレンマに悩まされつつ、私にとっては食事の後にしみじみとトカイ・アスーをすするのが最高のデザートになっています。」

濃厚で複雑な味わいは、日々の生活の中に取り入れるのは、とてもハードルが高く感じますが、お正月の楽しみ、お節料理との相性がいいのではないかと思います。はっきりした濃いめの味は濃厚なトカイ・アスーに負けず、お料理の甘味がトカイ・アスーの甘味と酸味に非常に合います。特に、伊達巻、黒豆、栗きんとんとのペアリングは今年も楽しむ予定です。
カーロイさんに今度会ったら、この組み合わせについて話してみようかなと思っています。
ルールにとらわれないトカイ・アスーの楽しみ方をトカイ・アスーが生まれた国から遠い土地で見つけていきたいです。
今度は、キノコと合わせてみようかな。

いいなと思ったら応援しよう!