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「他に方法はありません」あらすじと試し読み


はじめに

- この記事は

五冊目となる「他に方法はありません」のKindleでの配信が開始されました。
初めての長めのラブストーリーです。
amazonの規約上10%まで試し読みとして公開できるので、noteで公開いたします。
(区切りのいい所までにしたので、正確には9.5%くらいです)


- あらすじ

寄宿舎で暮らす水曜生まれの菜陽(なび)。「水曜日のこども法」により、彼女は卒業後は見知らぬ男と結婚して男児が産まれるまで子供を産み続けることを義務付けられている。
近付くリミットに怯える中、新しい校医・橋本良為(いする)がやって来た。菜陽のことを管理番号ではなく名前で呼んでくれる彼に好意を抱くも、難しい恋なのは明らか。二週間に一度、検診に来る彼と徐々に近付くが……。
閉塞の中での恋と性、そして忘れ得ぬ友情を描く。


- 注意事項・レーティング

以下の要素により18+(成人指定)です。
児童虐待、性的暴行、性描写、暴言、暴行
※これらは試し読み版にも一部含まれます。


「他に方法はありません」試し読み版

- Wednesday’s Child Act

 Once upon a time, と言っても本当は過去なのか未来なのか。
 円の価値が底をつき、弱体化する日本はもはや諸外国の干渉を甘受していた。環境破壊、人口問題など社会発展の歪みが限界に達する中、「七分の一の日本人を、彼らの意思や人権と関係なく使役できれば多くの問題が解決する」という予測結果が発表される。
 そして一ドル二万円を突破した翌日、ある法案が可決した。人々はそれをこう呼ぶ。
 水曜日のこども法Wednesday’s Child Act、と。

- プロローグ

 轟音の中だ。肌をびっしり覆う水気と、体の下にある岩。裸で横たわり、寒くて、あちこちが痺れるほど痛くて。
 あの日を思い出しながら、私は今涼しい喫茶店にいる。
菜陽なび、聞いてる?」
「聞いてるよ。で、この機械は何?」
 じっと見ていても答えは出ないから、向かいに座る彩夏あやかに尋ねた。
「ノートパソコン」
「いや分かるけど」
「インターネット」
「ふうん」
 新しくパソコン買ったから見せたかったんだな。一人でそう納得しかけた矢先、彩夏はニヒッと笑ってテーブルに身を乗り出した。
「検閲をね、」
 耳元で囁かれてくすぐったい。
「うん」
「検閲をすり抜けて、世界中に情報を流せる」
 インストールされているのは「MTRブラウザ」というもの。セキュリティを何重にも経由しているため、どの機関の追跡も受けずにネットができるのだという。
「エムティーアール……ブラウザ」
「マトリョーシカが名前の由来なんだって。これで、どこに何流しても私達捕まらないよ。だから告発にもってこいなの」
 告発、というキーワードに思わず顔を上げた。
「制度の実態を……菜陽が、私達が受けたことを、知らしめることができる。やってみよう」
 彩夏は私の方へノートパソコンをぐいっと押しやる。テーブル上で三杯のメロンソーダと一杯のルイボスティーがカタカタ揺れた。
「菜陽、あんたしかいない。電源ボタン押して始めるの」
「私が?」
「切込隊長。今ではそう思ってるし、あの頃から一目置いてる子達はいたよ」
 そんな風に思ってたんだ。嬉しくも照れくさい。
「文章は真里まりが書いてくれたのを使う。電子書籍という体裁で公開する予定」
 プリントアウトされた白い紙は、詩のようでいて具体的な序文で始まっている。端的な言葉で感情を揺さぶる、最短距離を突きつけられた気がした。
「これ、胸にくるね。さすが神が与えた文才。私なら自分語りに終始しちゃうかも」
「いいんじゃない? そういうのも」
 彩夏の言葉に気を良くした私は「書こうかな」と呟いた。
「お、菜陽のも載せよう」
「じゃあ……」
 書き出しはこうだ。

- 日常と出会い

 痛みを隠して生きている。昨夜も両膝が鋭く痛んで、怖くて眠れなかった。寝不足の中、私は教室でまどろんでいる。
「偶数クラスは健診のため検査室に移動してください」
 無慈悲な放送で叩き起こされた。他の教室のと反響して、ぐわんぐわんといつまでも
「移動してください……てください……ください」
と響いている。管理番号順に並んで、私達は長い廊下を歩き始めた。
「どんなお医者さんだろうね」
「またおじいちゃん先生じゃない?」
 揺れる紺色のプリーツ。
「やだ、エロ医者」
「おじいちゃんってだけでエロ認定しちゃうの?」
 二週間に一回の健診。今回から新しいお医者さんが来るらしい。昨日からその話題で持ちきりだ。真っ白な壁にある「健康に気を付けて、社会に貢献できる大人になりましょう」というポスターを通り過ぎ、
「はい、二組ここで待機」
の声にピタッと立ち止まった。理科教師の西本が腕組みしながら私達を見てニヤニヤしている。
 私は彼が大嫌いだ。健診中に間違えたフリして検査室を覗いてくることがあるらしい。噂では全裸になって健診するべきだと主張したこともあったとか。目が合った気がして、さっと顔をそらす。
 私がここに来た最初の日から、いつも彼に貶されている。
「どうして水曜日生まれだけ奴隷にされるんですか?」
 初めて寄宿舎へ到着し、調書を取られた時。浮かんだ疑問をそのまま口にした。こちらの問いに対して、西本は嘲るように鼻で笑う。
「なぜ?」
 見開いた小さな目。そのずっと上にある眉は情けなく両端が垂れている。この世への憎悪を全て込めたような強い負の感情を表現するなら、多分こんな顔だ。
「そういうものだからだ」
 おちょぼ口から吐き出される息は煙草臭かった。
「お前らがやらなかったら世の中はどうなる」
「水曜日のこども法ができる前も社会は破綻していませんでした。他の人達が快適に過ごすために犠牲になるなんて、水曜日生まれの人権はどうなるんですか?」
 すると彼は人差し指を振って私を示した。まるで指先で身体中を打ちのめす代わりのように。
「やっぱりこれ、完全に馬鹿だ」
 これ。その代名詞が自分だと気付いて、怒りで手が震える。
「分からないか。ま、そんなことも分からないんだよな。そのくらいお前は愚かだ」
 私は彼のような人がいるところで暮らすこれからを想像した。目の前は真っ暗で、自分には何一つ変えられない無力さに打ちひしがれる。
「三十九番、早く脱ぎなさい」
 拒否はできない。入所ガイダンスで、逆らうと厳重監視下に置かれると説明があったからだ。更に状況が悪くなることだけは避けたかった。着てきた中学校の制服もブラもショーツも脱いで、足元のプラスチックカゴに入れる。
「三十九番は胸があんまり大きくないなあ」
 悔しい。悔しい。こんな世界に疑いなく適応しているなんて、みんな狂ってる。

 あれから二年経つんだなと、ぼんやり健診の順番を待つ。卒業まであと一年しかない。
 月曜日と火曜日のこども達は守られる。木曜日も、金曜日も、土曜も日曜も。なのに、水曜日のこども達は傷付けられる。やっぱり未だにおかしいと思うんだ、「水曜日のこども法」は。
 人権を奪われてここに集められ、本人の意思は無視して配属される。私はどこに行かされるんだろう。新しい仮決定通知には、一般家庭と書いてあった。備考欄の「早く結婚して跡継ぎをご所望」という文字列を思い出す度に心の中は真っ黒だ。
「次、三十九番」
「はい。失礼します」
 番号を呼ばれて検査室に入ると、椅子に座っている男性が「どうぞ、掛けてください」と私に促した。思ったより若い。
「こんにちは、医師の橋本です」
 目、でか。最初の感想はまずそれ。次に「かっこいい」だった。彫りが深く、目鼻立ちがくっきりしていて私の好みだ。整ってる中に強い眼差しがある。ただ圧倒されて「こんにちは」とだけ返した。それ程までに衝撃だったのだ、彼の容姿が。
「えーと、北見菜陽さん」
「え?」
 カルテに向き合う横顔、鼻も高くてラインが美しい。見惚れながら発した疑問に、彼は再度こちらを見た。
「読みは菜陽さんでよろしいですよね」
 聞き間違いではなかったらしい。ここに来てから初めて、大人に名前で呼ばれたってことだ。
「はい、そうです」
 この人の前で脱ぐなんて無理。ためらいながら胸元のボタンに指を掛けると
「ああ、服はそのままでいいから」
と当てられた聴診器。布越しに、彼の指を感じる。体温までは分からないけれど、確かに押し当てられる感触。
「息して。……もっと、大きく」
 動揺を悟られまいとした。
「何か痛むところ、気になるところはありますか」
「いいえ」
 極めて事務的に対話を済ませ、検査室を出る。教室に帰っても、前回までの健診とは違って誰も愚痴を言っていなかった。かえって不思議だ。どうしてみんな、あのお医者さんの容姿について何も言わないのだろう。
 なんとなく、健診に関して口に出してはいけないような薄い膜が教室を覆っている気がした。

 ここは変な世の中、しかもつまらない。私が思うにそう。だからこそ突如沸き起こったときめきは昼休みになっても褪せることはなかった。あのお医者さん、橋本って名前なんだ。学食ベンチでずずっと紙パックの紅茶を啜る。鮮やかなブルーの空にもくもく膨らんだ雲。眺めていたらなんだか楽しくなってきて、小声で好きな歌を口ずさんだ。
「歌が好きなの?」
 いきなり隣に座ってきたのは同じクラスの六番、長野彩夏だった。私よりも幾分か長いロングヘアがさらっと広がり、肩の辺りでまとまる。配給シャンプーはみんな同じもののはずなのに、いい匂いがした。
「歌ってる時は自由だから」
「いいなあ、そういうの」
 しっかり者で落ち着いていて、話しかけづらい美人。そんな彼女が肯定してくれて、嬉しくなる。
「長野さんは歌は歌わないの? 上手そう」
「私は覚えられないから……北見さんはどうしてるの」
「なんとなくかな。物覚えはいいの」
「へえ。そう言えば英語の成績いいもんね」
「英語は……好きだから」
 彼女の手には図書館から借りたであろう、えんじ色の本が握られていた。窓際に置いてある小さめの観葉植物が風に揺れる。
「水曜生まれじゃなかったら、もっと英語勉強して海外で仕事したかったな。海の向こうには明るい町があるんだって。大きな椰子の木が生えてて……」
 思い切って、久しぶりに口にした本音。それにもかかわらず返ってきたのは冷たい言葉だった。
「そんなこと考えない方がいいよ」
 スッと席を離れた彼女の背を見つめる。嫌な人、と思った。

 健診が二週間ごとなのには理由がある。卒業後は他の曜日に生まれた人達の「社会」を豊かにするための駒として生きる私達。使い物にならなかったら困るからと、こまめにケアすることが義務付けられているらしい。
「今日かな」
 検査室へ移動するよう放送が流れた。憂鬱な私は自分の手の甲を見つめる。水曜日のこどもは、卒業の一年前までに管理用マイクロチップを入れないといけない。多分、今日はそれがある。既に私以外の全員が挿入済みらしい。
 痛いのだろうか、何かにぶつかって体の中で割れたりしないだろうか。そんな基本的な恐怖と、強制的にそれを負わされることへの怒り、更に管理されることへの反感。
 廊下を歩いている途中、まだ授業中のクラスを通りかかった。英語の授業なのだろう、マザーグースの説明を誰かが朗読している。
「マザーグースは、イギリスで親しまれてきた童謡です。教養の基礎の一つとなっており、小説、映画など様々な芸術作品に引用されています」
 水曜日生まれが犠牲に選ばれたのは、そもそもマザーグースのせいだ。なんだっけ、月曜生まれの子は美人とかなんとかいう詩。最初の文を思い出せずにいたら、朗読の続きが聞こえてきた。
「有名な詩には『月曜日のこども』があります。生まれた日が月曜なら美しく、火曜なら優美、水曜は悲しみに満ちている、といった風に曜日ごとに特徴が割り振られています。この詩は『水曜日のこども法』の元となりました」
 最悪な詩。どこの誰が作ったんだよ、それを採用する欧米かぶれのこの国も狂ってる。朗読はなおも続く。
「さて、残りの曜日を見ていきましょう。木曜生まれは長い道を行かなければなりません。金曜は愛し与え、土曜は働き詰めですが、日曜は『魅力的で朗らかな上に善良で陽気』とあります」
 苦々しい表情で検査室に入ると、先週の美形のお医者さんがいた。
「こんにちは、橋本です」
「三十九番です。よろしくお願いします」
「はい。三十九番の北見さんね」
 会えた嬉しさを抑えて、お決まりの面談で「問題なし」と申告する。昨夜も膝が痛かったけれど、「使い物にならない」という判定を受けることだけは避けたい。
「ありがとうございました」
「北見さん、ちょっと待って。今日は君にマイクロチップを入れるよう言われてる」
 さっと自分の頰が強張ったのが分かった。なんとか拒否できないだろうか。そんな甘い考えが頭をよぎる。
「え……手の甲に埋めるんですよね」
「そう」
 看護師が私の手をテーブルに載せ、消毒し始めた。
「あの、痛いですよね」
 全開にした窓から強い風が入ってくる。室内は吹き荒らされ、机の上の書類が飛び散った。拾おうとした看護師に
「拾うのは後で私もやりますから、まず窓を閉めてきてもらえますか? 一応、向こうの方まで全部」
と橋本先生がお願いした。
 まず近くが閉められ、だんだん検査室の端へ。看護師が遠ざかると、橋本先生は私に顔を近付けて
「大丈夫?」
と小声で尋ねた。気遣ってもらえるなんて思ってなかったから、びっくりした。自分を制御しようというせめぎ合いが胸の中で数秒あって、それから
「悔しい。悔しいよ」
と呟く。彼の手の甲が目の前に差し出された。
「俺も入れてる。自分の意思で。ほら、触ってみる?」
 おそるおそる私よりやや日に焼けた肌に触れる。人差し指でツン、それから皮膚がわずかに凹むくらい押して。
「痛くないんですか?」
「全然大丈夫。鍵やクレジットカードの代わりに使えるし。まあ入れる時は痛かったよ?」
 改めて「入れていい?」と私の瞳を覗き込む彼に頷く。
「分かりました。どのみち拒否できないなら」
「その通りだ」
 看護師が部屋中の窓を一巡する前に、彼は手際良くキットの黄色い袋を開けて、私の手の甲に針を刺した。一瞬の圧迫感の後、何もなかったように抜かれて
「頑張ったね」
と目の前でアップになる少し困ったような笑顔。マイクロチップを埋められたところがじんじんする。
 看護師が戻ってくると彼は背筋を伸ばして、私との距離もまた遠くなった気がした。まるでさっきの会話なんて存在しなくて、ただ針を刺しただけってみたいに。

 この施設で一番の新参者が私。大抵は小等部か中等部から実家を出てここに来る。だからもうすっかり、この社会システムに疑問なんて抱かずに自分達が犠牲にならなければ社会が発展していかないって信じきってるのだ。
 マイクロチップを入れられた日の夜、私は夜給食の最中に教師に楯突いた。
「必要でもない、痛みを伴う医療行為なのに本人が拒否できないって虐待じゃないですか?」
 周りは白けた表情で黙々とシチューをかきこんでいる。穏やかだと皆に好かれている女性教師が私をなだめている時、理科の西本が来た。
「なんだこの騒ぎは! またお前か!」
 頭を拳で力一杯殴られて、床に倒れた私は天井から垂れ下がるオレンジのライトを見上げた。
「今回は二十四時間だ」
 独房。そう呼ばれる部屋がある。壁も床もグレーのコンクリートで、ところどころに赤茶色の大きなシミ。拷問用に設計されたらしく水を溜める小さな浴槽もある。死亡者が多発したために今は監禁だけに使っているようだ。
 監視員は三十くらいの女だった。髪を後ろで一つに束ね、ぼさぼさの三つ編みにしている。意地でも動じないつもりだったが時計のない部屋で何時間も過ごして眠気も限界だ。三十九番就寝、と言われて床に横になる。すぐに眠りに引き摺り込まれ、次に目を覚ますと真っ暗だった。鉄格子窓の外も。
「なんだ、まだ朝じゃないんだ」
 そう呟いて、ふと至近距離でギラギラ光る二つの瞳に気付く。監視役の女は激しい憎悪を込めたような表情で私を無言で見つめていた。怖い。もう嫌だ。全身が震える。それでも睡魔には勝てず、再び朝まで眠ってしまった。
 監禁中の飲み物は水だけ。それも、拷問に使われていた水槽に溜まった水だ。空腹でお腹がキリキリ痛んだ。硬い床で寝たせいか、膝の痛みも強くなった気がする。
「もうふざけたことはするなよ」
 監禁の途中経過を記録しながら西本は私の脛を爪先で蹴った。
「商品に傷付けていいの」
「黙れ!」
 分かってる。反論できないから、こちらの言論を封じるしかできないんだよね。
 お腹空いた。だけど言ってしまえばこいつらを喜ばせて「しつけの成功」だと思わせるだけだから、絶対に言わない。
「あの……トイレは一人にしてもらえますか」
 監視役の女は昨夜とは打って変わって正気のない目で「不可です」と告げる。後ろから見られながら、私はトイレットペーパーが張り付いたままの汚いトイレでおしっこした。跳ね返ってこないように、なるべく力を入れて少しずつ。
 こんなところ逃げたい。だけど、逃げたら暮らしていけない。逃げてきた「水曜日のこども」を雇ったら企業に罰則が課されるって習った。最高賃金の存在も。つまりのたれ死ねということだ。車も持てないんだっけ。海にドライブ行きたいなあ、そういう時間が人生の中で一回でもあれば良かったなあ。
 手の甲をそっと撫でた。

 私には妹がいる。マザーグースで「可愛い」だの「明るい」だの褒めちぎられる日曜日生まれの。つまり、彼女は無罪放免だ。いつか縛られる私と、ずっと自由な妹。
 両親は周囲から私を施設に早く入れるよう言われ続けていた。私自身、不安だった。早く入った方が早く慣れていいところに配属されると聞いたことがあったからだ。
「愛してるからよ、愛してるの。菜陽ちゃんがとっても大切なのよ」
 母はよく私にそう言って、入所延長書を毎年書き続けた。
 愛してる、の、呪縛。
 学校で教師に「まだ行かないの?」と言われる度に板挟みで苦しくなった。
 一度、施設に行かなくていい方法はないか聞いたことがある。
「水曜日に生まれたこどもを提供しなければ、土地財産の三分の二が没収されるんだ。そんなことをしたら北見家が潰れてしまう。先祖代々の土地が、お前のせいで継げなくなるんだぞ」
 父は声を荒らげ、母はそんな父を落ち着かせていた。
「ねえ菜陽ちゃん、菜陽ちゃんにもしたいことはあるだろうけど仕方ないよ。お願い、分かってね」
 分かってる。法律は分かってる。損得も分かってる。だけど、守ってほしかった。


試し読み分はここまでになります。
お読みいただき、ありがとうございました。

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