そのストレッチは必要なのか?
アスリートが運動指導者として活躍する為に必要な学びを提供しているメディアです。
私は主にパーソナルトレーナーとして仕事をしています。
ここ最近では従来の「パーソナルトレーニング」というサービスに加え、「パーソナルストレッチ」と呼ばれるサービスが増えてきました。
「パーソナルストレッチ専門店」があるほどです。
スポーツの現場では「ペアストレッチ」とも呼ばれることもあります。
要は自分ひとりでストレッチするのではなく、誰かにストレッチをしてもらうものです。
ストレッチもトレーニングの一種ですが、どうしても「パーソナルトレーニング」と聞くとムキムキマッチョなイメージが先行するようですので、「パーソナルストレッチ」とあえて差別化を図ることはビジネス戦略上悪いことではなさそうです。
今回はそんな話題の「パーソナルストレッチ」について考察していきます。
ストレッチとは?
私も現役時代は誰かに背中を押してもらってハムストリングスを伸ばすなどしたものです。
しかし、そのストレッチは何の為に行っているのでしょうか?
これはペアストレッチに限らず、ストレッチを行う目的とは何なのか?ということを考えないといけないということです。
「ストレッチとは何か?」と言われるとどう答えるでしょうか?
簡単に言えば、「筋肉(骨格筋)を伸ばす行為」と答えるのが一般的ですかね?
では骨格筋を伸ばすというのはどういうことかというと、これもかなり簡単な表現ですが「筋の起始と停止を遠ざける」ということになります。
例えば先述のハムストリングスのストレッチというのをとても簡単に言えば骨盤と膝の裏を遠ざけるように、膝を伸ばしたまま太ももと胸を近づけるようにすればよいということになります。
ストレッチの目的とは?
少々辛気臭い展開で恐縮ですが、それではなぜ筋の起始と停止を引き伸ばすようなことをするのでしょうか?
これは恐らく「筋の柔軟性を高める為」だというのが一般的な解釈です。
ここで、筋の柔軟性を高める目的は何かと問われた時にどう考えるかが問題です。
筋が柔軟になれば、関節可動域(ROM)が改善され、怪我をしにくくなるというのがこれまた一般的な解釈なのですが、ではそのストレッチで筋が柔軟になっているでしょうか?
目的を達成しえない手段は不適切な手段であるというのは、指導者としてはよくよく考えないといけないことです。
ストレッチってきつくない?
例えばハムストリングスのストレッチについて考えましょう。
もともと柔軟性が高い人は問題なく出来るでしょうが、いわゆる身体が硬い人は痛くて辛いというのは容易に想像できる話です。
ちなみに私はお世辞にも柔軟性が高いわけではないので、長座で背中を押されたり仰向けで脚を持ち上げられたりするハムストリングスのストレッチをされるのはとても苦手ですし、出来ることならそっとしておいてほしいと思います。
ストレッチで筋が緊張する
筋が硬いということは、筋が必要以上に緊張している状態であると解釈できます。
硬くなっている筋に苦痛を覚えるような刺激を入力すると、どの様な反応が出るでしょうか?
また筋が緊張してしまうのです。
経験のある人も多いことと思いますが、硬い筋を無理矢理伸ばすと翌日に筋肉痛の様な不快な症状が残ることがあります。
これはよくよく考えればおかしな話です。
ストレッチの目的は筋を柔軟にし、ROMを改善することであったはずです。
他にもリラクセーション、怪我の予防、疲労の回復等、様々な効果があるとされるストレッチですが、やってみて現れた反応が「痛み」とか「不快感」だなんてどうかしているわけです。
そのストレッチと呼ばれる手段は目的に対して不適切である、もっと言えば間違っているということになるのではないでしょうか?
筋の緊張を緩和する!
では、どうするべきなのか?
ポイントとなるのは「緊張の緩和」です。
まず、筋を伸ばして痛みが出るのであれば、それはやりすぎですね。
痛みの出ない範囲で行うことが重要です。
身体が硬い人であれば痛みや不快感は早い段階で現れますが、それで構いません。
「こんなに硬かったら怪我しますよ」なんて言って無理矢理押したり引いたりしたらそれこそ「怪我しますよ」ということです。
適切なROMを知っておこう
またROMを改善すると言っても、適切なROMというのは世間で言われているよりもそんなに広くないものです。
股関節屈曲なら90度、開脚も90度~100度ぐらいで十分です。
新体操やクラシックバレエ、相撲などをするなら話は別ですが、長座体前屈でお腹が太ももに引っ付けたり180度開脚をしたりする必要などないのです。
各関節の適切なROMは調べれば分かることですから、是非確認してください。
ストレッチにこだわるな!
そもそも緊張を緩和させる為に取る手段が、筋を伸ばすことでよいのかという発想も大切です。
筋を揺らしたり簡単な体操をしたりする方が緊張は緩和されるかもしれません。
或いは普段の姿勢や身体の使い方、生活習慣に問題があるかもしれませんし、心理的な要因があるかもしれません。
何故硬くなっているのか?何故緊張しているのか?というところを考えていくと、何でもかんでもストレッチで解決できるわけがないということが分かってくるでしょう。
むしろ古典的なストレッチで解決できない問題がほとんどです。
私も以前はパーソナルストレッチをサービスとして提供していましたが、最近ではもうやらなくなりました。
「ストレッチが好き」というのならそれでよいかも知れませんが、「ストレッチは嫌い」という方が多かったというのもありますし、それよりももっといい手段はないかと考えるようになってきたのです。
基礎学習と実地の経験の組み合わせ
この様に、何となく常識的に行われていることが、実は抜本的に見直す必要があるということは往々にしてあるものです。
これは運動指導の仕事をしていると、常にその思考が必要であることを意味します。
目的を達成させる為に手段は、教科書通りとはいきません。
実地でこそ得られる経験に基づいたアレンジが必要になってきます。
しかしだからといって基礎学習をすっ飛ばしてはいけません。
筋の起始と停止は理解しておく必要がありますし、筋とはそもそも何なのかということは分かっていないと話になりません。
その上で「果たしてこれはどういう意味があるのだろうか」とか「これは違う視点から見ればどういう意味を持つだろうか」といった具合に、現場の状況にも照らして思考を巡らせるようにして見ましょう。
そうし続けることが指導者としての成長であって、活躍する為には必要不可欠なことであると考えています。
注釈
ストレッチには様々な種類があります。
今回主に引き合いに出したのは静的ストレッチング(スタティックストレッチング)というものです。
指導者として筋の起始停止を理解する為には有効な手法ではありますし、場合によってはとても秀逸な手段となることもあります。
ただ万能ではなく、時として目的とは大きく外れた手段と成り得ることもあるということをご理解頂けると幸いです。
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