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機能解剖学を学ぶ時に気をつけたいこと

私は運動指導者として生計を立てている身ですので、当然「機能解剖学」という分野を勉強してきましたし、これからも折に触れて学び続けていく所存です。
私と同様に運動指導者として生きていくつもりであれば、間違いなく学ぶべき分野ですし、自身がアスリートとしてより成功したいと考えている場合でも身体の仕組みを学ぶことは大いに役立ちます。

そもそも「機能解剖学」とはどういった学術分野なのでしょうか。
スポーツやフィットネスの分野で機能解剖学を学ぶ人が、恐らくその初期段階に手に取る『身体運動の機能解剖』という、医道の日本社から出版されている「あの緑の本」の第1章の第1文にはこうあります。

機能解剖学は身体の動きを筋肉の働きから科学的に分析する学問で、骨格と筋肉の構造もこれに含まれます。

身体運動の機能解剖P.1

ということで、機能解剖学では筋肉(骨格筋)がどこに付着していて(起始、停止)、それが収縮することでどの様な関節の運動が生まれるのか(機能)を学んでいきます。

その為に、筋肉だけでなく骨の名前や関節の種類や名前も覚えなければなりませんし、解剖学用語と呼ばれる特殊な言葉も覚えていく必要があります。
そして筋肉とはそもそも何なのかということや、それは何故動かすことが出来るのかといったことも学びます。

ある意味では暗記物の学問と言えますから、自分の身体を動かしながらひとつずつ憶えていくしかありません。
また厳密に言えば人体において骨格筋は600個ほどあるとされていますので、全てをまるまる憶える必要はありません。
テキストを何冊か持っておいて、折に触れて見返す習慣を付けることで記憶しやすくなるでしょう。

また最近ではVISIBLE BODYに代表されるアプリでも、機能解剖学に関する情報を得ることが出来ますので、時間のある時に色々と見てみることをお勧めしています。

そして、この機能解剖学という学問を学ぶにあたっては注意しなければならない点があります。
この点についても、『身体運動の機能解剖』の第1章を引用します。

機能解剖学を学ぶ学生は、しばしば木ばかり見て森を見落とすという誤りを犯します。すわわち個々の筋肉ばかりに目を奪われてしまって、身体の中で多くの筋肉がいかにシステマティックに働いているのかについては注意を払っていないのです。(中略)たしかに筋肉の付着部の詳細について学ぶことは極めて重要なことではありますが、機能解剖学の知識を実際に応用できることの方がより大切なのです。

身体運動の機能解剖P.1~2

こういったテキストは、どうしてもこの様な序文や第1章の部分はテストに出ないことが多いですから見落としがちです。
しかし、引用の通りとても重要なことが書かれているのです。
この重要な文言には、私が機能解剖学の研修を依頼された時に、過去の研修資料をアップデートする為にこの本を手に取った時に改めて気付きました。

これは機能解剖学に限ったことではありませんが、何かを学問的に学んでいくと、時として必要以上に深掘りすることによって視野が狭くなってしまうことがあります。
まさに❝木ばかり見て森を見落とす❞ということですね。

私がnoteで『「そこまでする!?」社会人アスリートが速く走る為の考え方~短距離選手に贈る指南書~』という、1冊の図書に匹敵するボリュームの記事を書いたのも、アスリートの皆さんが❝木ばかり見て森を見落とす❞という状況で迷子にならないように、まさに「指南書」として著した次第です。

機能解剖学においては、各所で専門家を名乗る人たちがセミナーを開催中です。
「専門家を名乗る人たち」と称したのは決してその人たちが大学の先生とかそういう立場にないことが多いからですが、それはさておき、どうもそういったセミナーでも「そんなこと現場で役立つの?」みたいな細かいことに言及するケースが多いようです。
確かにそういった細かいことを知っていることは素晴らしいことなのですが、「それを知らなかったら指導者としてヤバいです」みたいな煽りが暗に含まれているのは、あまり好ましいとは思えません。
「機能解剖学的に正しい」と言うなら、それが「運動学的には正しくない」という反論をされた時にどういう反応をするのかが気になるところですが、何はともあれ人間の運動が何かひとつの学問だけで説明がつくと思わないことです。

スポーツやフィットネスの分野で指導者としてやっていくなら、機能解剖学はとても大切です。
しかし生理学や運動学や心理学も大切です。
そして何より、指導者としてやっていくなら学習者の目標達成をサポートできることが重要で、アスリートであれば目標達成することが重要です。
結局どの学問も、その学問の研究者になるのでなければ、何かの為の手段であるということを忘れてはいけません。

そんなことを、機能解剖学の講座を準備しながら思ったのでした。

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