坪田智夫「橙魂特急」
「オレンジエクスプレス」。オールドファンであれば一度は聞いたことのある法政大学の異名だ。その中心にいた選手の一人こそ、現監督である坪田智夫さんだ。
高校時代名の知れた選手が必ずしも入ってくるわけではなく、むしろ前々回大会ではシード権獲得も厳しいのではないか?という私の予想を覆し、最終10区で見事にシード権獲得を獲得。前回では一時は3位を争う大健闘を見せた。
令和のオレンジエクスプレスを作り出す下地は確実にできている。
注目されるべき坪田監督の「育成力」
個人的に坪田監督は駒澤大学などに隠れてこそいるものの高い育成力を持った指導者であることは、もっと言われるべきだ。
東京オリンピックにおいて青木涼真選手と坂東悠汰選手が出場したこと。そして彼らは必ずしも高校時代トップレベルの選手ではなかったということだ。もちろんそこから現在に至るまでには彼ら自身の努力があったから。しかし、自らで考えて行動する「個性派集団」については何よりもその大将でもあった坪田監督にとっては何も問題はなかったのだろう。
また、そうした彼らの意識が現在の法政大学をがらりと変えたことは言うまでもない。
坪田監督もインタビューにおいてこのように語っている。
「今ある環境からでも日本のトップを目指せる」。
こうした希望にも似たモチベーションが今の選手たちに強く感じられる。そしてそれは今、確実に法政大学というチームに前向きなエネルギーをまとわせている。
そのように感じてならないのだ。
価値ある2022年度
全日本大学駅伝こそ逃してしまったものの、出雲駅伝では過去最高タイとなる7位入賞を果たすと11月の記録会では自己ベストを連発する選手たちが多発。一部主力選手たちにケガが出てしまったものの、箱根駅伝でも過去最高順位の5位に限りなく近づいた7位でフィニッシュした。
大会を振り返り坪田監督はこのように選手をたたえた。それは結果が出せなかった悔しさよりも「自分たちでも3強に食い込んでいける可能性があるんだ!」とさらに前を向かせる。そういう力強い気持ちで新たに迎えられるシーズンとなるということを示している。
実際に1区を走った松永くん、大腿骨骨膜炎でエントリーから外れた小泉樹くん、8区で区間賞を獲得した宗像直輝くんと柱となるであろう選手は多く残る。
もちろんレースには「まさか」という展開もありうるため必ずしも額面通りに事が進むことは無いだろうが、少なくとも来年の法政大学も決して侮ることはできない。という表現よりも「何かを起こすかもしれない」と言わせていただきたい。
それだけの可能性は秘めている。
令和の超特急旋風、吹き荒れるか?
それでも坪田監督はあくまでも「選手の自主性に任せる」という方針をぶらさない。むしろ集団での金太郎飴のような選手を育てる指導はしたくないというのが本音の様子。
だがそうした指導の中で出てきたのが坂東選手であり青木選手なのだ。そして、その中から確実に「次の柱」は確実にでき始めている。選手たちが気づき、体や心と対話しながら自らを高めていってほしいと心から願っているのだろう。
46歳となり、指導歴も早くも10年以上が経過した。その中で、徐々にではあるが、令和のオレンジエクスプレス旋風が巻き起しそうな兆しを感じている。
その過程の中で、箱根駅伝総合優勝が唯一無いというのも何とも法政大学らしいが……いい意味で尖った彼らならば、きっと思わぬ形でかっさらって行ってしまうかもしれない。そんな俄かに信じられないようなレースが1度くらいあっても面白いじゃないかと思うのは、私だけだろうか。
思い返してほしい。あの時誰よりも尖っていた法政のエースは坪田さんだったのだから。