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酒井俊幸「耐えて勝つ」

「苦しい2日間でした。12月に入ってから、コロナやインフルエンザに加えて、疲労骨折する選手も出た。今まで指揮を執ったなかで、コンディションの面で一番苦労しました」

https://number.bunshun.jp/articles/-/856189

監督就任から早くも14年で、3度の総合優勝を経験してきた酒井俊幸監督をもってしても、今シーズンの東洋大学のシード権は極めて難しいものとなってしまったようだ。

連続シード獲得こそ成し遂げた今季だったが、本来見せてきた「無慈悲なまでの強さ」を感じられなかったのは酒井監督自身に耐えるときが訪れているからなのかもしれない。

就任1年目での総合優勝

華々しい実績が1年目で「転がり込んできた」といってもよかった。

31歳で右も左もわからない中で彼には柏原竜二という最強にして最高の「戦術」がいて、それを支える設楽兄弟と柏原さん以外にも多くのすぐれた選手たちに恵まれていた。
もちろん彼の才能を見抜いたのは酒井監督ではあったわけだが……。

前任監督でもあった川嶋伸次さんやのちにスカウトへと転身する佐藤尚さんと環境にも恵まれた。結果として就任1年目から総合優勝を達成すると、2年目こそ柏原さんの不調もあって総合2位も3年目は圧勝。4年目も2位で終わるも翌年優勝。

ここまでのインパクトで言うならば間違いなく酒井監督は「運がよかった」ことに間違いはないだろう。とはいえ、監督として運が良いだけでは当然、箱根駅伝の優勝を成し遂げることはできない。

下支えした高い指導力と挑戦心

それを下支えしたのはやはり卓越した指導力があってこそでもあるのだ。実際にこの14年間で箱根駅伝では10位を下回ったことは一度もなく、11年連続3位以内という実績を含めて10度の3位以内、4位が1度という高い安定感を保つことは難しいものもある。

また、言うまでもないが設楽悠太選手に服部勇馬選手、西山和弥選手といったマラソンでの圧倒的な実績を持った選手に加えて相澤晃選手のようなスピードランナーの育成もまた酒井監督の手腕と言ってもいい。

山本憲二選手は現在34歳ながら息長く選手として活動をしているし、この10年で「東洋大学出身の長距離ランナー」というだけでも「強い」という印象を大きく与えるに至っているのだから。

今シーズンは夏に上級生が北海道マラソンに挑み、駅伝シーズン開幕直前には主力がこぞって1500mのレースに出場するなど、新しいチャレンジを敢行。また、オレゴンで行われた世界陸上にエースの松山和希くんと石田洸介くんを連れていき現地で合宿も敢行した。

「失敗しても、それで学ぶことができれば経験値になる。それができるのが学生かなと思います。常々アップデートは必要だと思いますし、指導者としても、新しいことに取り組み、気付きがあったほうが面白いですよね」

https://number.bunshun.jp/articles/-/856189

このように語る通り、酒井監督もまた変化することを恐れずに様々な形と探りつつあるのだろう。決して本来の東洋大学であれば10位という結果は芳しいものではない。

だが、主将でもあった前田義弘くんは前へと進む強い意志を示してくれた。柏優吾くんはマラソングランドチャンピオンシップの出場権を獲得した。10位という結果の中にも「蒔いた種」は確実に形となりつつあるのだ。

「耐えて勝つ」。形になるときは来る

また、酒井監督と同郷でもある大八木監督はトークショーも行った間柄で現在でも親交が深い。指導者就任の当初に手を差し伸べた監督の一人として大八木さんがいたというのもまた、興味深いものがある。

その大八木さんもまた、コーチ・助監督から監督へと昇格した後、箱根駅伝では4度優勝している。しかもそのうち2度はここ3年でのことだ。長らく苦杯をなめさせられたのは青山学院大学であり、そして東洋大学だった。
大八木さんでさえも監督になってからは4度なのだ。この3冠を達成したことで退任をされる彼からもまた、酒井監督に激励が贈られたという。

「やっぱり長くやってると我慢するときがある、という話は常々いただいていまして、その中でも常に世界を見据えた指導はしなきゃいかんぞとは言われていました。選手と同様、指導者も襷を受け継ぐつもりでやっていきたいと思います」

https://4years.asahi.com/article/14811005

かつて野球では古葉竹識さんは「耐えて勝つ」を座右の銘としていた。必ずしもいい選手が入学してくるわけではなく、時には伸び悩んでしまう時もある。必ずしも上手くいくことばかりではない。
その中でも着実に勝つ可能性を高めていくことを懸命に行う。

この苦しみを抜けた先にこそ、また東洋大学が再び上位に返り咲き新たな酒井俊幸という監督の様を見せてくれる。そのように私は考えている。

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