中野孝行「誤算」
「育成の帝京」と名高かったここ数年の帝京大学において、中野孝行監督も思わぬ誤算が多くあったのが今回の箱根駅伝だった。下級生時はしっかりと地金を鍛え、上級生になったときに強さを発揮する本来の帝京大学からはいささかかけ離れた展開になってしまったのだ。
1区で本来の力を発揮できなかった小野隆一朗くんをはじめとした、一からの立て直しを図りにかかる帝京大学。しかし、その「誤算」は直近2年のレースを見ればかすかながらも兆しが見えていたことも、また事実だ。
大きすぎた絶対的存在
帝京躍進の原動力となったのは、遠藤大地さんと細谷翔馬さんというWエースの存在が大きい。
3年時の総合順位は8位も往路成績は4位で復路成績は11位。この時は6区の選手がレース中に疲労骨折が判明したことによるブレーキもあったが、翌年は往路成績は2位も復路成績は17位。総合順位も9位とシード権獲得はぎりぎりだった。
結果タイムを稼ぎ出すことができる絶対的存在が卒業してしまった影響は大きく、また「育成の帝京」らしからぬ育成の面でもあまり状況が芳しくないまま先の箱根駅伝を迎えることになってしまっていたのだ。
こちらについて中野監督はこのように振り返る。
地金を鍛えなければならない時期に強化ができなかったこと、また「育成の帝京」の触れ込みから徐々にセンスがある選手が入学してきたことが、中野監督の計算が狂ってしまった面も少なからずあるだろう。やっぱコロナって糞だわ
一方で、だからこそ選手たちも大きく意識が変化しているという。
ファイアレッドは必ずまた燃え上がる
帝京大学は早さよりも「強さ」を求める選手たちが多くそろう。星岳選手にしても遠藤さんにしても決して、高校時代から期待をされていた選手ではない。それだけに厳しい練習に加え、将来性を見込まれた選手でレギュラー格でない部員は合宿所のバイトに従事させ人間力をも鍛える。
必ずしもトラックのタイムだけに限らない、人間的な面も重視する中野さんらしい指導ともいえる。改めて中野監督も原点へと回帰した、ということだろう。
一度「挫折」を味わうことで再び、ファイアレッドが燃え上がるための燃料を投下することができたのかもしれない。中野監督もこのように語る。
決していい選手が入ってくるわけでない帝京大学において「強い」選手を再び一から作り出すために泥臭く、そして丁寧に。地金を鍛え続ける時間が今もなお続いている。
元々は養護教諭などユニークな経歴を持つ中野監督。じっくりと耐え成長を待つことはお手の物だろう。また、下級生を多く起用した箱根でも多くの気付きを得ることができたはずだ。
耐え、そして成長を続けた先にあるもの。
それが、今年味わうことができなかった景色であり、ファイアレッドが箱根路でさらに躍動するために必要だった1年となるはずだ。