佐藤圭汰「成長」
全日本大学駅伝のレース中のことだ。彼の走りを見ていた私は大きな変化が表れていることを感じたのだ。それは肩の筋肉がついているということである。
常に世界を目線として世界のトップクラスの選手たちと張り合う。彼は常にそういったものと戦い続けてきた。そんな彼はこの1年で身長も伸びそして体も大きく成長した。そんな彼がとうとう、箱根路でベールを脱ごうとしている。
悔しい思いをした正月
昨年の箱根駅伝で彼は出走することなくチームの三冠を見届けた。その驚異的なスピードはすでに高卒ルーキーの中でもとびぬけていて、昨年からすでにその才能は群を抜いていた。おそらく佐藤くんが走ることが決まっていれば、より早くに駒澤大学の優勝に大きく近づいていたことは間違いない。
その悔しさをばねに、彼はアジア室内選手権3000mを皮切りに、織田記念5000mは外国人選手をも従えて優勝。日本選手権4位の悔しい結果を受けて、WAコンチネンタルツアーの一戦であるナイト・オブ・アスレチックス(ベルギー)5000mに参戦し、10月のアジア大会では5000m6位に入っている。
すでに彼は「大学生」ではなく「社会人」を相手にして戦っている。だからこそ見えてきた彼の中での課題がさらに彼を高いレベルへと突き動かしているのだ。そんな圭汰くんには越していかなければならない2つの背中がある。
田澤廉と三浦龍司
一人は現在も駒澤大学を拠点に練習を積む、先輩の田澤廉選手。昨シーズンは新型コロナウイルスにかかった後にも関わらず2区を1時間06分台で走り切り、10000メートル走でも日本歴代4位のタイムを持つ強さと速さを併せ持ったランナーだ。
強気な発言に加えて大八木弘明総監督と対話をしながらハードな練習に励む田澤選手を見ながら現在も鈴木芽吹くんと篠原倖太朗くんの3人で研鑽を積む。そしてその結果が八王子ロングディスタンスで結実した。
日本学生歴代2位となる27分28秒50を初の10000メートル走でマーク。改めてその怪物ぶりをアピールして見せたのだ。なお、歴代3位には主将の鈴木くん、そして5位には篠原くんが並んだ。その異次元的な強さと速さは日常的に田澤選手とともに積み重ねてきた研鑽の賜物だろう。
そして、三浦龍司くんからも刺激を受ける。すでに「世界の三浦」となっている彼は高校の2学年先輩にあたる。圧巻ともいえるそのスピードは洛南高校時代より定評があり、3000メートル障害では世界相手に入賞を成し遂げているのだ。
高校と大学、それぞれ日常の中に日本トップクラスのランナーたちとの研鑽を積み重ねてきた彼が一つも慢心することが無いのは何も不思議ではないのだろう。
「去年よりは自信を持っています」
唯一粗を探すとすれば、佐藤くんの距離への不安だろうか。まだ彼はハーフマラソンの距離や箱根駅伝の距離を公式に走ったという記録が無い。当然練習などで距離を踏んでいるとはいえその点は未知数と言えるだろう。
しかし、佐藤くんはこれについても「ないということはないですが、去年よりは自信を持っています」と語る。12月の上旬の選抜合宿での距離走で余裕を持って終われたこと、スタミナがしっかりついてきていると自分でも感じられていることが自信のもととなっている。
そう考えると、エントリーされた3区で彼は驚異的な記録をたたき出しそうだ。そう、例えばヴィンセント選手がたたき出した区間記録59分25秒に肉薄するような。
今から世界へと羽ばたいていく彼にはそれくらいのノルマがちょうどいいとさえ思うのは、私だけだろうか。
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