榎木和貴「優男の眼光」
レース中、大八木監督のように大きな声を出すわけでもなく淡々とそして選手に刺さる言葉で鼓舞を続ける。それが榎木和貴監督だ。
目の奥を見れば、選手たちのことを厳しくそして暖かく見守る。決して叱り飛ばすことはせずとも、淡々と冷静なその様はスタンスや競技こそ違えどかつて中日を指揮した落合博満さんにも通ずるところがある。
すでに実績については言うまでもない。就任1年目で下馬評を覆しシード権獲得を達成し、2年目で往路優勝含む総合2位。3年目4年目こそ優勝争いに絡んではいないものの、戦国時代とも呼ばれる箱根駅伝において4年連続シード権獲得は立派な快挙だろう。
創価大学の躍進に隠された榎木さんはどのようにチームを変えたのか。
「寂しいチーム」を変えた練習量の増加
就任当初、練習人参加できたのは30人の部員中でたったの10人。最後に箱根出場してからすでに2回連続で予選敗退していた最中であった。
箱根駅伝を走りたい、結果を出したいという選手も多くいた中であったにも関わらずだ。
そこで榎木監督がまず着手したのが過去の予選会からデータを洗い出し、どこに課題があるのかということ。そこから導き出したのは過去の予選会のデータなどを見ると、15km以降の走り。
そこで榎木監督は選手を説得するために具体的なデータや数値を取り出しこうした課題があると選手に明示、納得をしてもらったうえでチームとして練習量を増加させていった。
加えて、ケガ明けの選手が練習にいきなり復帰させることがないようにプロセスを踏んだメニューも作っていった。
ケアなどもしっかりと行うようになった結果、96回箱根駅伝ではコニカミノルタに所属する米満怜選手がいきなり区間賞。復路では苦戦するものの嶋津雄大くんが最終10区で大きく巻き返して見事に9位フィニッシュ。その後の躍進に大きく貢献している。
「機械的」でないにじみ出るやさしさ
榎木監督の経歴は少し変わっている。小林高校から中央大学を卒業して旭化成に就職するというエリートを歩みながら、途中女子選手の育成にも携わったり、フリーで指導者をしたり。加えて、勉強会に参加するなどその様はとても活動的だ。
シード権獲得したのちに4years.さんで受けたインタビューで榎木監督はこのように語る。
穏やかながら冷徹な印象すらある榎木監督の信頼が厚いのは、女子チームの指導にかかわった部分やその後もトヨタ紡織の指導者としてかかわった経験が大きいからなのかもしれない。
また、そこで思わぬ出会いもあった。それが大八木監督だった。総合2位に入った際、大八木監督との対談で榎木監督はこのように振り返る。
異例ともいえる対談の中で、のちにフリーの指導者ともなった彼がこうした勉強なども含めて選手たちへのかかわり方を学んでいったこと。それがただ冷徹な印象を与えない「優男」の姿なのだろう。
しかし、ここまで順調に来ていたとしても。来シーズンは難しいものとなるかもしれない。それが駅伝男でもある嶋津雄大くんの卒業だ。
真価はここで発揮されるはず
元々、創価に入学してくる生徒というのは、必ずしも駅伝やトラックで実績がある選手とは限らない。しかし、高い育成能力があることについてはすでに言うまでもないことだ。
そして「自分たちはやれる!」という明るいチームを作り出していた原動力こそ嶋津くんの存在だったのではないか。もちろん、第二の嶋津くんを作ることは容易ではない。彼の人柄やそしてやりきる強さ。そういったものは、ある意味で才能でもあるのだから。
だからこそ、今一度真価を発揮する場面が来たということ。実際に彼以外にも米満選手や三上雄太選手、そして葛西潤くんといった強い選手の育成に成功している。
選手と寄り添い、落ち着いた姿で見守る眼差しの先には来季への可能性が必ず見えているはずだ。
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