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石原翔太郎「苦難」

その涙はこれまでの苦労が滲み出ていた。全日本大学駅伝3区で獲得した区間賞のインタビューにて石原翔太郎くんは言葉に詰まり、こみあげる涙を抑えていた。
「全く走れない」。その苦しみや葛藤を抱えながら復活ののろしを上げる激走となった。

順調だった2年春に起きたアクシデント

大きなストライドと強気な走りが特徴的な石原くん。そんな彼は2年春の関東インカレでも留学生に真っ向勝負を挑み10000メートルで2位に。しかし、そのあとから股関節を負傷して戦線離脱をすることに。
エース不在の影響は東海大にとって非常に大きく、出雲駅伝9位、全日本大学駅伝は12位に落ち込むと、箱根駅伝も11位に終わり、8年ぶりにシード権を失った。

股関節の負傷は長引き、本格的に練習へと復帰できたのが3年生になってから。その後も全日本大学駅伝の予選会は回避させるなど両角速監督も冷静に起用する状況を探ってきた。

結果、東海大学は危なげなく予選を通過し、石原くんもまた夏に練習を積んで秋の予選会シーズンを迎えたはずだった。石原くんは予選会でも序盤から攻める走りを見せチームを牽引していく。しかし、それ以上に彼の身体はまだ十分に長い距離に適応した状態とはなっていなかったのだ。

東海大学に続く受難

その後、全日本大学駅伝では復活の区間賞と相成ったわけだが、東海大学を取り巻く状況は決して良いとは言えない。
5区での快走を期待されていた吉田響くん、7区で活躍した越くんのエントリー漏れ。主力として期待されていた選手たちの欠場が決まっていることと、インターネットでの内部崩壊という噂……。

もちろん、こうした物に踊らされることは決してポジティブな事とは言えないし、できることなら言及は避けるべきなのだろう。しかし、明らかに東海大学はこれまでよりもチームとして状態が良くない。

こうしたことが分かってしまったのだ。レースでもアクシデントが続出し、今一つ波に乗り切れないまま最後の箱根の大舞台に進まざるを得なくなってしまっている。

もちろん、ポジティブな要素もある。それが1年生たちの台頭だ。花岡寿哉くんや鈴木天智くんと言ったフレッシュな選手が停滞したチームを大きく変えてくれる可能性はある。まだあきらめるには早いのだ。

だからこそ、石原くんの激走にかかるミッションは大きいものとなる。
「エース」としての走りを見せる、という重要なミッションだ。

苦難を乗り越えてこその石原翔太郎だ

私はまだ、石原翔太郎くんは復活を遂げた……とは思っていない。予選会での脱水症状を起こした走りや、全日本大学駅伝での走りを見る限りはまだまだ復活と呼ぶには程遠いと思う。
もちろん苦しみに顔をゆがめながら走る姿は彼らしいとは思うが、2年前に彼が出てきたときはもっと軽やかだった印象が強い。それは3年生という重責を担っているからなのかもわからないが、いずれにしても完全復活と相成っているかと言えば微妙だ。

スピードや実力はこれまでより高まっているだろう。
恐らくこのまま箱根路を走ってもある程度の結果を出すことは出来るとは思う。しかし、果たしてそれが石原翔太郎という選手の完全復活と呼んでいい物だろうかとも思うのだ。

もし、完全復活を求めるのであれば。今危機的状況にあると言われる東海大学を救う激走を見せる。それが彼に課された最後の試練ではないだろうか。当然これは私の勝手な願いでしかない。だが、もしそれを成し遂げることが出来たのならば。石原くんはもう2段階ほどレベルの上の選手となるのではないか。

両角速監督がそれを見越して2区に配置するのかは分からない。だが、並み居るエースたちをなぎ倒し箱根路を駆け抜けていく様こそが、彼本来の姿……いや石原翔太郎という選手と言えるのではないか、そんなことも思っている。

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