駒澤と青学の違いを楽しむ
すでに駅伝好きの方々であれば気が付かれている方も多いことだろうが、駒澤大学と青山学院大学は駅伝の強い学校であるが、そのベクトルは明らかに違う。
それは「未来」か「今」か。この二つの違いが、だ。選手たちにとってどちらも重要となるこの2つの選択肢の中で、選手としてどうありたいのか。私が今言えるのは「どちらも正しい」ということだ。
「未来」を見据える駒澤大学
箱根から世界へ。それをマインドとして誰よりも意識しているのが駒澤だ。学生三大駅伝で最多となる29勝を達成し、平成最初の4連覇を達成した平成の王者は、令和になっても勢いを衰えることを知らない。
オリンピック代表こそ中村匠吾選手1人にとどまるが、世界陸上出場した選手は10名、マラソンやトラックレース、ニューイヤー駅伝での卒業生の活躍は目覚ましい。
どの選手も長くに活躍を見せているのは大八木弘明総監督の中にある「世界と戦う」という強いマインドにある。負けず嫌いで厳しい言葉を練習中に飛ばし「男だろ!!」という厳しい言葉をかけることで知られる彼が選手に欠ける口癖は「箱根だけで終わってはいけないよ」なのである。
そうした大八木総監督のマインドは、現在の選手たちにも大きく受け継がれており、他大学からも「実業団」と評されるほどのレベルの高いランナーたちを多く輩出しているのだ。
最終的に世界へとたどり着くことが叶わなかったとしても、指導者としても活躍する人も多い。ひとえにこれも大八木総監督が駒澤大学に残したマインドであり、それを現監督の藤田敦史さんや高林祐介コーチにも受け継がれているのだろう。
それが田澤廉選手や、佐藤圭汰くんにも間違いなく「駒澤の教え」として見事に焼き付いているのだ。
「今」にこだわる青山学院大学
方や青山学院は「学生の今」にこだわる。選手のポテンシャルを最大限に発揮させ、「箱根駅伝で結果を出す」ということを主眼に置いているように思える。
実際に箱根駅伝で目覚ましい活躍を見た選手は多くいる。一方で……。実業団で伸び悩み現役引退するケースも少なくない。記憶に新しいのは出岐雄大さんのケースである。
大学3年時のびわ湖マラソンで2時間10分02秒した彼が25歳で現役引退をした理由は「箱根駅伝以上の目標を見つけられなかった」とこぼしたのは有名な話だ。裏を返せば、箱根駅伝に向けてそこまでコンディションを整えているということである。それは体調だけでなくメンタル面でもだ。
原監督と大八木総監督の違いはそこにある。おそらくやっている練習メニューはそこまで大差はないだろう。だが、学生長距離の競技で何よりの花形でもある「箱根」に合わせてそこに向けて最善を尽くす原監督はまさしく「学生の今」に誰よりもこだわっている。
だからこそ、フレッシュグリーンはこの10年勢いをとどめることなく躍動しているし、7度も箱根路で栄冠を掲げることにつながっているのだ。
だが、青山学院大学=実業団で活躍しない、選手は育たないと断じるのはあまりにも軽率と言える。下田裕太選手は2時間7分台を記録しているし、ハーフマラソン日本記録を小椋裕介選手は現在も所持している。
また、田村和希選手は10000メートル走の日本歴代5位の記録を持っている。これらは全員青山学院大学を卒業した後にそれぞれ記録されたものでもある。結局は自分次第となるという雑な結論となってしまうが、そうした「今」と向き合うからこそ見えてくる道もあるということは理解しておきたい。
「未来」と「今」。正しいのはどれか?
自分の中では「未来」にこだわる大八木総監督の考えには共感するが、だからと言って原監督の考え方を否定する気は毛頭ない。これはもう、進学する学生たちの優先順位の問題になってくる。
例えば箱根駅伝で活躍したというキャリアや駅伝を走るために頑張ったといういわゆる「人生としての実績」を作りたい、実業団で活躍するかどうかはいったん置いておくというのであれば青山学院大学に。
「選手としての実績と実力」を身に着けて未来を見据えるのであれば駒澤大学に。こういった選択肢はあってもいいと思うのだ。どちらが正しいかではなく、だ。
未来は今の延長線上にある。卵が先か鶏が先かという話ではあるが、何を優先したいかで選ぶことは何も箱根駅伝に限らず大事だよねという話でした。
「どちらも正しい」からこそ、やっぱり見ていて面白いよね。それでは。