児玉真輝「紫紺」
大正期から箱根路を駆け抜けてきた大学の中で今もなお「常連校」に名を連ねる明治大学。毎年入れ代わり立ち代わりで良い選手こそ入学してくるが、今一つ殻を破ることができないまま今に至っている。
そこには「走るべき選手」が箱根に間に合わなかったり、中間層が育成されていなかったり。その時その時に応じてどうしても勝てない要素が出てきてしまう。
この夏、明治は思い切った監督交代を行われた。古豪復活に託された「本来走るべき選手」である彼が最後の箱根でどれだけ活躍できるのか。
2度の箱根と1度の怪我
児玉くんの実力については言うまでもない。1年次から箱根駅伝の主要区間を走った実力者だった彼は1年は1区16位、2年は3区14位と苦戦。
と当時を振り返るように、本来持っている能力を生かすことができないまま、結果としてシード権獲得……さらには総合優勝を期待された陣容ながらも厳しい結果が続いた。
ただし、それは実力が無いわけではない。実際に3年時にはすでにエース格として期待されていたし、アキレス腱の怪我さえなければ2区出走はほぼ確定していたほどだった。
1区を走った冨田峻平選手が区間賞を取り、3区で快走を見せた森下翔太くんが良い形でゲームチェンジャーとなっただけに、2区に児玉くんが万全のコンディションで走っていたら……。何よりも悔しいのは児玉くんのはずだ。
「エース」としての責任は果たした1年
全日本大学駅伝の予選会では1組で全体3位に入るも、他組の結果は芳しいものではなく10位で予選敗退。チームを押し上げることができないまま、前監督になる山本佑樹さんが退任。
後任となった山本豪監督の下、夏を越えると秋の箱根駅伝予選会では全体25位でゴール。チームではトップの成績だったとはいえ、最終盤はやや垂れてしまった印象もあった。それでも予選会を全体2位通過したのには、やはり本来持っている選手たちの総合力は素晴らしいものがあると考えていいはず。
チームとして冨田峻平選手のような突出した選手こそいない。とはいえ、その中でチームトップの成績を残した彼はだからこそ、エースと呼ぶにふさわしい存在となった。
往路1区で佐藤圭汰くんが爆走をかます。そうなったときに明治の選手たちに太刀打ちができるというと、厳しいだろう。そうなったときに児玉くんの地元を走ることとなる2区での巻き返しは必須だ。
エースとして、彼にはチームの流れを変える。そういう走りが求められている。
紫紺の矜持を見せられるか
本人もこのように語っているように、2区で流れが止まる……というケースが続いているのは確かだ。当然どの区間も重要なのが今の駅伝だが、チームの柱でありエース区間でもある2区はやはり趨勢を決めるには極めて重要な区間だ。
近年は前監督へのバッシングを始めとして駅伝に関して明治大学の評判は芳しくない。個人的にはそうした雑音を封じるにはやはり結果を出すしかないと思っている。
かねてより希望していた2区で彼が本来持っている走りを披露することができれば、目標とする区間1桁は十分に達成できるだろう。それはネットでの雑音を封じるには第一条件だ。
そして、一丸となってチームが走り切ったとき……彼らは初めて「黙る」。そろそろ彼らが持っている紫紺の矜持を私は見たい。心からそう思っているのだ。