小野隆一朗「帰還」
このように語るのは主将の西脇翔太くんだ。待ちわびていた帝京大学のエースである小野くんが11月の記録会で復帰。記録会にも全日本大学駅伝にも出走せず力をためていたエース。
昨年も彼について書いたが、それ以上の試練に彼とチームは見舞われていたようである。しかし、彼らはその試練に屈することなく力強く。そしてたくましくなって帰ってきたようだ。
コロナ集団感染に苦しんだ予選会
箱根予選会の1カ月前には部員13人が新型コロナウイルスに集団感染。そうした状況に見舞われた帝京大学は主将の西脇くんも40度の熱に見舞われた。予選会こそ何とか間に合わせて走り切ったものの、結果として西脇くんは全日本大学駅伝では振るわず。区間22位という大ブレーキとなってしまった。
一方で小野くんはトラックシーズンこそ好調だったものの、コロナ後はレースにも出走することなく予選会にも間に合わなかった。全日本大学駅伝でも出走することが叶わぬまま、チームの苦戦を眺めることしかできなかったのだ。
しかし、合宿などで鍛え上げてきた帝京大学の「強さ」は決して変わることはない。むしろチームとしての底力を見せる3位通過と全日本大学駅伝での奮闘ぶりは見事なものだった。それに呼応するかのように、12月2日の日体大記録会では10000メートルの自己ベストを更新。
試練が襲った帝京大学の中で箱根では確実にやり返すという空気、そして小野くんのモチベーションは相当高いとみていいだろう。
流れをもたらす存在に
2年時には流れを持ってくる堅実な走りで区間8位をマークした小野くん。3区には遠藤大地さんという「湘南の神」がいたとは言え、序盤から上位でレースを進めることができた要因は間違いなく彼にある。
しかし、昨年は絶対的な柱がいなかったこともあってか(むしろ小野くんがその柱として活躍しなければならなかったわけだが)、区間16位と苦戦。終始低空飛行のまま帝京大学がレースを終えることとなってしまった。
序盤から流れを引き寄せるためにも1区の存在は極めて重要だ。だからこそ、中野監督は小野くんを予選会にも全日本大学駅伝にも起用せず、本来の目的である箱根駅伝のシード獲得を目的として彼を「塩漬け」させることとしたのだろう。
帝京大学にとって最高の流れを引き寄せてもらうための存在として。
今度こそ「快走」を
小野くんが今年求められるのは「良い走り」ではないと私は考える。「快走」と呼べるくらいの強さを求められていると私は思う。前回はマークされたという面もあったのかもしれない。
しかし、今回はそのマークも確実に分散される。1区にもし佐藤圭汰くんが出走すれば……。そのスピードに追い付こうとするかしまいかで確実に集団は「ばらける」。
そうなれば、間違いなく小野くんにとっても好都合になるはずだ。何よりもチームとしての手ごたえを誰よりも感じているのは長年チームを率いてきた中野監督である。
その手ごたえを確実なものにするためにも小野くんの快走は間違いなく必須になる。ファイアレッドに「点火」する役目を担うのは、帰還したエース・小野くんの役目だ。
私はそのように考えている。