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吉居大和「explosion」

その走りに迷いは感じられなかった。

5kmを過ぎて独走状態となった吉居大和くんは、いきなり箱根駅伝の難しい1区という区間において15年間破られなかった驚異的な記録を更新することとなった。だが、この1年間決して吉居くんは順調に調整を重ねていたわけでは無い。そんな彼は、どう試行錯誤しながら爆発的な走りへとたどり着いたのだろうか。

U20日本記録と箱根路の挫折

昨シーズンから既に話題となっていた吉居くん。彼の優れている点は何といってもハイペースで押し通すことができるということだろう。実際、大学入学後のタイムを見ても、やはり彼のスピードが如何に図抜けているのかが良く分かる。

日本選手権での5000メートル走で20歳以下の日本記録を樹立し、日本人大学生歴代記録でも7位、箱根駅伝予選会でのハーフマラソンのタイムは20歳以下の日本記録歴代3位と1年生にして持っている能力が図抜けていることは十分に証明したルーキーイヤーだった。

しかし箱根駅伝では、その難しさに直面することとなる。ゲームチェンジャーとして期待されて起用された3区では思うようにリズムを刻むことができずに区間15位と大苦戦。長い距離への対応ができないまま臨んだ箱根はとてつもなくほろ苦いものとなってしまった。

それ以降、吉居くんは苦しむことになる。アメリカのプロクラブでの練習やREADY STEADY TOKYOでは最下位。質の高いトレーニングをこなすことだけにいっぱいいっぱいとなってしまい、十分な練習を積むことができなかったことも大きかった。

繰り返した試行錯誤

それでも夏合宿からは徐々に上向きになってきた。中央大学の藤原正和監督からも「これまでにないほど走りこめた」としっかりと距離を踏み、予選会ではチームトップの13位で全日本大学駅伝でも1区で区間記録を更新したうえで区間2位と健闘。春までの不調を吹き飛ばすような快走が続いた。

唯一の失敗したレースは八王子ロングディスタンスくらいで、その1週間後の日体大記録会では調整目的で出ながらも28分03秒90と自己ベストを記録。これもまた、20歳以下の日本記録歴代3位となった。その中で吉居くんがこだわっていたのは「細かな動き」だ。

脚が流れないように、蹴り返しを大切にしています。そのためには肩の位置を前に出さないこと、肩を上げず、ある程度下の位置に保つこと……。無駄な動きをしないようにすることによって、高いスピードとそれを維持できる力を付けてきた彼にとって、箱根の挫折から始まった冬から春は取り戻すために少し苦労をしたのだろう。

そして、その苦しみの中でも積み重ねてきた物は、秋から冬を経て箱根駅伝で1区区間新記録という形で結実し、中央大学は10年ぶりとなるシードという形で歓喜の輪を作ることとなった。

更に爆発的な成長も、もうすぐだ

この1年間で、学生ランナーの成長は著しいものがある。順天堂大学の三浦龍司くんは3000メートル障害の日本記録を樹立し、駒澤大学の田澤廉くんは10000メートル日本歴代2位のタイムを記録した。洛南高校の佐藤圭汰くんは1500m・3000m・5000mの高校日本記録を引っ提げて駒澤大学に進学する。

吉居くんもまた、秘められた才能が彼らに引かれていくように才能がまた爆発をする瞬間が訪れようとしている気がしてならない。アメリカの記録会では思うようなタイムが出なかったようではあるが、関東インカレからオレゴンを賭けた日本選手権。

吉居くんの名が、三浦くんや田澤くんと同じ日本代表として轟く瞬間も、もしかしたら遠くないのかもしれない。

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