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児玉真輝「心臓」

「明治大学にはエースが居ない」。これは多くの駅伝ファンであれば聞いたことがあるキーワードの一つではないだろうか。実際に私自身も何度も聞いているが、本来ポテンシャルが高いはずの明治がどうしてここまでかみ合わないのかがどうしても分からないのだ。

「エースが居ないから」という理由でひとくくりにしたくもなるが、理由は様々ある。選手育成には長ける、スカウティングは良いのだが駅伝となるとまた別の要因が働くことやどの選手も「平均的に」良い選手だということ……。突き抜ける「何か」を持っている選手が中々出てこないというのも山本監督も悩まれていることだろう。

その中で大エースだった阿部弘輝選手の背中に憧れ、Mのユニフォームにそでを通した男はこの1年確実に成長を遂げたことは言うまでもない。

トラックレースで絶好調

前回の箱根で3区区間14位に終わったが、その悔しさをバネに関東インカレでは10000メートルで4位入賞・5000メートルでは自己ベストの13分47秒を記録した彼は入学当初からエース区間である2区を希望していた。

それは彼の実家が2区に近いからというのが理由だった。物怖じしない度胸とその才能から間違いなく明治を背負って立つ存在になると思われていた。1年時は右足の足底を痛めてトップには1分以上離され、区間16位と不本意な結果に。

前回も肺気胸を患った影響からかシーズン通して不調だったが、今年はそのうっぷんを晴らすかのように絶好調。トラックシーズンでの結果は極めて上々と言ってもいいだろう。

その実力は全日本大学駅伝でも発揮される。
任された区間は2区。三浦龍司くんや佐藤圭汰くん、葛西潤くんといった他大学にとって「心臓」ともいえる区間に児玉くんは配置されて区間4位と大健闘。特に3位の三浦くんからは8秒差とくらいついての走りで本人も「95点」と自己評価をするほどだった。

しかし、明治はシードを落としたことが痛かった。チーム内にも危機感が生まれている中、やはりここで出て来なければならないのは「エース」という存在であり、それは児玉くんにならなければならないということ。

誰よりも自覚があり「大エース」に憧れた存在であるからこそ。

エースは「負け」が許されない

ここで考えてみよう。
「エース」と呼ばれる選手たちがどんな選手たちなのかという事を。

  • 安定感がある

  • 他大学に勝てる

  • 良いタイムを持っている

この3つの条件を持っていることが重要だ。
それを考えた時、児玉くんは昨年よりも明らかに他大学と比較しても良い勝負ができるようになった。少なくとも「負ける」ということはここまでしていない。
また良いタイムも持っている。これはクリアしているだろう。予選会でもスタミナのある一面は見せたのでその点も大丈夫そうだ。

しかし「走ってみなければ分からない」という不安要素は確かにある。その点で言えば富田峻平くんにも可能性はあるが、復路で走ってきた彼のことを考えると復路の切り札として取っておきたいというのも山本監督が考えていることではないだろうか。

だが、往路の1区と2区は力のあるランナーが居ることもまた重要なだけに、富田くんと最後まで争う。そんな可能性も大いに考えられる。

そこでもし、彼との競争に勝利し実家に近い2区を走ることとなれば。間違いなく児玉くんは「エース」として誰もが認めることになるであろう。思うと、そういう厳しい競争が無かった…というのも明治大学において歯車がかみ合わなかった要因ではないだろうか。

憧れた阿部弘輝

そして、憧れた阿部弘輝選手は元々ポテンシャルは高かったが、どちらかというと大学に入学後人間力含めて力を付けてきたタイプの選手であるということだ。

彼は予選会敗退後、自らの意識を強く変え自らを律し、そして強い気持ちを持って「明治大学のエース」へと登りつめた男だ。2年次にその決意を固めて迎えた3年の予選会では沿道の観客と衝突する事故もあった。しかし、そのようなアクシデントを乗り越えて走り続けた精神的にも強い男である。7区区間記録を持っているのもうなずけるほどの「強い」ランナーであることは疑いようがない。

だからこそ、その道は果てしなく遠いものとなるだろうが、しかしとても価値のある挑戦となることだろう。

この1年での彼が明治の心臓になるべく挑んだこと。その答えがいよいよ明らかになる。負けが許されないからこそ、厳しい研鑽の先で……。児玉くんの答えはもうじき明らかになることだろう。

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