【映画レビュー】after sun/アフターサンを観た
はじめに
映画公開時、話題になって観に行きたいなぁと思っていたものの
観に行けなかったが、気が付けばアマプラで配信が始まっていた。
ポスターなどにも書かれている通り、
20年前のビデオテープを通して、11歳のソフィが離れて暮らす父カラムとトルコのリゾート地で過ごすひと夏の思い出を描いたヒューマンドラマ。
それだけ聞くと何とハートフルで心温まるドラマなのだろうと思うが、今作にはそういう温かさと同じかそれ以上の切なさ・辛さが共存している。
20年後、大人になったソフィが父との記憶を辿りながら、当時は理解できなかった父の一面や心の葛藤を見出していく。ビデオの映像を通じて、過去と現在が交錯する構成となっている。
感想
おそらくこれが父と過ごす最後のバカンスだったのかと思うと、胸が締め付けられる。
この作品は20年後のソフィ視点で回想される物語だ。
なので、当時の父との思い出や父の姿はソフィが見ていたまま映し出されているはずである。
ただ、風呂場で一人むせび泣くシーンや、夜の海に歩いていくシーンは、カラム1人しか映っていない。これは当時のカラムのとった行動ではなく、
20年の時を経て、「父は当時こういう気持ちだったのではないか」とカラムの苦しみを理解したソフィ(現在:31歳)の想像なのだと思う。過去と現在が交錯するとは、まさにこういうことだろう。
カラムの苦しみに寄り添うと、誕生日をみんなに祝われたときに、表情が逆光で見えない演出や、
スキューバダイビングのシーンで、インストラクターに「30歳まで生きられたことに驚いている」「40歳まで生きられるとは思えない」と打ち明けていたところを観ると、涙が出てくる。
そして最後父と別れる無邪気な11歳のソフィと、(おそらく自殺する直前の)カラムの対比が凄まじい。
どれほどカラムの感情がグチャグチャだったのか…
ただきっとカラムはソフィを真に愛していたし、ソフィもこの31年カラムを愛しているはずだ。(カラムに買ってもらった高級絨毯を使い続けている点からソフィの父への愛を感じ取れる)
悲しいでもない、切ないでもない、何とも形容しがたい感情に襲われる。
とにかくソフィ役のフランキー・コリオの演技が素晴らしい。余りにも自然に思春期の娘を演じきっている。
しかもこれが俳優デビュー作というから驚きだ。
カラム役のポール・メスカルとの掛け合いも全く違和感がない。
そしてそのポール・メスカルもよくこの難しい役を演じきったと思う。
娘に対する優しさや愛は正真正銘本物で、でも心の真ん中に葛藤や辛さを抱えていて…そんな不安定な父親の役を20代で演じるとは…!!!
観終わった瞬間に高揚感や悲壮感を味わうわけではない。
じわじわと余韻に浸るような作品。
ポスターにある「あの時、あなたの心を知ることができたら」という言葉がものすごく刺さる。
アマプラで配信中なので、ぜひ夏の間に。
Filmarksひっそりやってます。