読書記録「基礎科学で未来をつくる」

本について


「基礎科学で未来をつくる 科学的意義と社会的意義」田村裕和 他、丸善出版(2019年)

概要

 本書は、2018年12月17日に日本学術会議物理学委員会主催で開催された公開シンポジウム「基礎科学研究の意義と社会ー物理分野から」をもとに構成されている。 
 登壇者のジェンダー比に問題があること、また、登壇者個々人の問題提起とアンサーについてはやや不完全燃焼な部分もあるが、多様な立場から論じられており、全体としてみると、いま、科学行政で何をするべきなのかが浮かび上がってくると感じた。また、一般向け講演をベースにした書籍であるため、平易で読みやすく、現在の科学技術政策に疑問を持つ学生の最初の一冊としてお勧めしたい。


感想

これから取り組むべきことへの示唆


 日本の科学技術力低下が指摘されるようになって久しい。本書第1章「なぜ、基礎科学が必要か」、第4章「基礎科学研究と社会」で指摘されているように、停滞を実感している今だからこそ、過去の成功の理由を分析し、今一度我が国の科学に関する総括をすべきである。一方で、失敗を失敗であったと受け止めることができるのかについては疑問もあり、この総括そのものを、1つの大きなプロジェクトとして官学連携のもとに取り組むべきであると強く感じた。

夢でお腹を膨らせたい


 一方で、岡本拓司先生による第3章「日本の純粋科学を支えたもの、およびそれへの批判」では、21世紀の基礎科学が抱えるアンビバレントな課題が明確化されていると感じた。インターネットが普及するにつれてあらゆる情報へのアクセスがしやすくなったことに伴い、国家プロジェクトに透明性が求められるようになった。さらに、バブル崩壊から続く長い不況のせいもあり、国民の税金がどのように使われるかに対しての目が厳しくなったこともある。→応用科学のための基礎科学への需要の高まり。しかし、本書の他の登壇者や名だたる日本人ノーベル賞受賞者が指摘するように、基礎科学が社会実装されるには時間を要する。岡本先生のご指摘の通り、現在の基礎科学には夢が圧倒的に足りていない。しかし、夢ではお腹は膨れない。となると、夢で稼ぐか、社会全体に夢を見る余裕が出るまで待たないと問題は片付かないのだろうか?「夢で稼ぐ」という言葉そのものに私は夢を感じるので、今後はその方法についても考えてみることにする。



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