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ゴミを拾うお客さん

伏見稲荷ハイキングツアー。
6名の参加者の中に、今回書きたいアメリカ人カップルがいる。
彼らは真っ黒のTシャツ、ダメージ加工の黒ジーンズを着て、顔のあらゆる所にピアスというスタイル。腕のタトゥーには仏様や漢字が刻まれている。今はIT関連の仕事だが、以前はギターやボーカルでバンドをしてたと話してくれた。

ツアーが始まり、私は先頭を歩く。そして積極的でおしゃべり好きなお客さんと話していた。そちらが盛り上がると、止まらない。しかし同時に全体も気になる。
大体のゲストが私の周りに集まっていたが、そのカップルは見えないほど後ろを歩いていた。私はみんなに等しく声をかけながら進みたいが、喋っている最中にキョロキョロ後ろを振り返るのは、横のゲストに失礼だと感じて中途半端な気持ちだった。とにかくツアーを楽しんでくれていると願い、遠い目線で彼らを見ていた。

途中、京都名物「白味噌ソフトクリーム」の店に立ち寄った。1人のお客さんが珍しがって購入。白味噌の自然な甘さの中に塩味があり、独特でやさしい味がウリだ。「キャラメルのような味ですよ」と説明はするが、最後まで食べきれない人もいる。そのゲストも、半分強食べたところで止まったようだ。そして残りのアイスをずっと手に持ちながら歩いていることに気がついた。私はいつもリュックに入れているスーパーの袋を出して、すでに溶け始めているアイスを入れてもらった。

この様子を見ていたカップルの男性が、自分のリュックを全開にして道路に置いた。そして私に、ゴミのビニールを入れていいよと促してきた。私は「ノンノンノン!」と言って勢いよく断った。それを聞いて彼は、そうなの…というような雰囲気で下を見ながら無言でチャックを閉めていた。

「あれ?彼に対する反応を間違えたかな」と不安になった。
ただ、彼の突然の申し出に少しびっくりして、勢いが増してしまった。
それにしても、自分のゴミでもないのに、瞬時にリュックに入れてくれと言えるだろうか。そんな優しさを見せてくれたにの、強く断りすぎた自分に反省した。

いよいよ山道に入った。その時、後ろから「シオリー!」と呼ぶ声。カップルの女性が何か持ってこちらに近づいてくる。見るとゴミだ。私は全く気が付かず素通りしていたが、彼女は見つけて拾ってきてくれた。泥でぬかるんだ所に埋まっていたようなスーパーのビニール袋。彼女はそれを差し出して「さっきのビニール袋に一緒に入れて」と言う。「拾ってきたよ!」とアピールする様子ではなく、ため息を吐いていて浮かない顔だった。

私は溶けたソフトクリームがリュックの中でこぼれないように、ビニールの口をキツく結んで入れていた。まさかもう一度開くとは思っていなかったから。ビニールを解いている間、ふと思った。今までは「日本の道にはゴミが落ちていないから感動している」と伝えてくれる人ばかりだった。それを聞くたびに日本人代表のように嬉しがっていた。今回は日本人代表で情けない気持ちだ。

その後も、彼らはゴミを拾い続けた。
私もビニールをリュックに毎回片付けることをやめて一緒に拾った。
色んなゴミがあるものだ。木に結ばれている目印の赤い紐が落ちてゴミになったもの、お菓子の袋、茶碗のかけらなど、気にし始めたら結構落ちている。拾ったゴミは、ちょうどMサイズのビニールで半分くらいまで溜まった。それはよかったが、彼らが山の散歩を楽しめているのかは心配になった。

山を越えて、伏見稲荷神社に入ると「四つ辻」という見晴らしのいい場所がある。
いつもそこの大きな岩場に全員立ってもらい記念撮影をする。京都市内を背景に、大きな空とゲストの爽やかな笑顔が好きだ。まだ半分の道のりだが、アップダウンが激しい山を一緒に歩いてきているので、目には見えない繋がりができている。カップルも笑ってくれていた。そして2人は私に「山歩き最高だね」と伝えてくれた。

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(余談)

「春(秋)の京都、たくさんの外国人であふれかえっています。地元では観光の悪影響も懸念されています」というニュースが定番のように流れる。

「もう、歩けやしまへんやろ」と言う地元の人がインタビューされている。

「コロナ後の観光客増加を喜ぶ一方『環境公害』が問題になってきています」こんな言葉も出はじめている。

私はこの報道にいつもモヤモヤしている。

ニュースを聞いた人は「外国人」「観光客」はマナーが悪くて来てほしくないと思うんじゃないか。「外国人」「観光客」全員のことだ、と一括りにしてしまうんじゃないかと。

「そうでもないよ」と一つの経験をここで伝えたかった。


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