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 まだ、「初めまして」も言っていない相手、すなわち、見ず知らずの全く初対面の相手に対して英語で話し掛ける人がいる。最初から最後まで。終始、相手の理解も反応もお構いなしに。往々にして、一方的に。まるでリスナー不在の独(ひと)りラジオのように。

 そのような人を私は個人的に「エスパー」と呼んでいる。


 拙著「エスパーの実様を求めて ~変態的フィールドワークと妄想的省察の往還~」(○海社新書 2018 ) によれば、エスパーはどうやら、相手の容姿を見ただけで彼/彼女の出身国や国籍がわかるようだ。(それは大抵がアメリカを始めとする英語圏の国。もしくはせいぜい、ヨーロッパや東南アジア、中東の小学生でも名前くらいは知っている国。) さらに不可思議なことには roots とする国のみに留まらず、その人の使用言語さえも難なく把握できるのである。(それは大抵が英語。あるいはせいぜい、フランス語やロシア語、中国語やベトナム語などの大学で第二外国語として習うような言語。)


 さて、前置きが長くなったが(安定の冗長さだぁね。はい。)、要旨が判然としない駄文をここまで読み通した知的にタフな君達なら既に見破っていることだろう。そう、エスパーは「ペテン」であると。
(あと、言わずともお察しかと思うが、私は本を一冊も著していない。上に示した拙著はまるまる嘘だから、amazon でポチろうとしても無駄だ。悪しからず。)


 何度でも書こう。

 人は容貌のみではどこで生まれたかも、どこに籍があるのかも知り得ない。ましてや、何の言語を話すのか、それはより大きい意味であれば、意思疏通のためにどのような方法を用いるのかなど知りようがない。


 私は誰かと初めて会ったとき、相手の見た目や雰囲気に関わらず、まずは母語によって対話を試みることにしている。もし、母語でコミュニケーションを図れないときは相手と一緒に通じ合うためのより良いやり方を探すまでだ。

 なぜなら、それは決して自らの母語が社会の大多数の人に通じるからではない(寧(むし)ろ、通じないケースが多い)。結局のところ、それは他者との対話において自身が最も「誠実」であるための方法が、他ならぬ母語だと考えるからだ。


 対話、あるいは interaction (相互作用) は人と人との共同作業だと思う。

 したがって、対話に失敗したときや共同作業そのものが全くできなかったときに、十分な根拠も省察もなしにその原因が自分か相手の一方のみにあると決めつけるのは nonsense であろう。(結果として、そうであったとしてもだ。このような不合理な予断は自他を徒(いたずら)に傷付け責めることに繋がる。) ましてや、「意思疏通のできない重度障害者は殺してもいい」という度の過ぎた優生思想はすべての人の基本的人権を侵すものだ。対話が共同作業である以上、その不具合や齟齬(そご)の理由は自他の両方に帰属するケースが大半ではないだろうか。


 大切なのは共同作業を誰とでも一発で成功することではなく、うまくいかないときに better な方法をメンバーが一つとなって模索することだ。求めれば、道がある。

 言葉の壁があるなら、越えればいい。越えられないなら、壊すのもいい。壊せないなら、大声で叫んでみないか。案外、聞こえるかもしれないよ。叫べないなら、壁を迂回して相手を直に訪ねるのもありだと思う。訪ねられないなら、もういっそのこと、衛星中継しよう。もしも…… もしも万が一、何をしても interaction できなかったときは、愛を込めて相手を抱き締めればいい。(この抱擁ができたならば、あらゆる戦争の半分がなくなる気がする。)


 最後に上に述べた方法模索の action も対話における誠実さの一つである。そして、その「誠実であること」こそが人と人とが通じ合うために何よりも大切だと、冬の間久しく待ち焦がれた雪解けに思う。


P.S. 1/2中

 相手の出身国とか国籍とか年齢とか職業とか、兄弟についてとか、親の生まれとか馴れ初めとか…… こういうの全部「個人情報」っていってな、不必要に人に訊いたら駄目だから。マナー。ね。わかった? ましてや、初対面で訊くとかあり得ないから。君、さっきから親のことばっか質問してるけど、親と出会ったのか?君は。君の前にいるの私だけれど。親、ここにいないけどさ。ぁのさ。聞いてる? … ぁぁ、そうか。… もしもーし? あっ、もしかして、君、親が見えてる? 見えてるとしたら、それ、幻覚か、生き霊だよ。…… いずれにしろ、やばいよ。…… あ、ふーん。…… うん、あ、あぁ。わかった。っておい! ハーフの人が愛想悪いとか話聞いてくれないとか、何言ってんの? 話聞いてないのは君だよ。…… ってか、ハーフの人って誰? 自己紹介したよね?私。名前、別に長くないけど。覚えられない? … 疲れる。っうか、ハーフじゃないし。……… 息が苦しい。…… あ、察し。なーる。なるほど。わかっちゃったもんね。……… 私に関心ないなら… うん、ないよね。ないない。ね。うん。君は私に関心がない。だから、私帰るよ。うん。ね。… 不快。…… ねぇ。つうか、なんで、親友じゃない、どうでもいい関係性の人とか、初めましての人に自分のファミリーヒストリーをおっぴろげなきゃいけないの? 訊かれても、私がわからないこともあるし。… むぅ? ぅーんと。ぃゃぃゃ、そうじゃないだろ私!! 必要もないのに訊くことがそもそもマナー違反なんだよ。訊くのがおかしいのよ。うん、うん。話したくないし。うん。話す必要ないし。うん、私の教える義務も君の知る権利もない。ないない。うんうん、んじゃ。ばいばいぼー。……… あ、あと最後に一つだけ。毎回恒例の美醜評価やめろ。本人と家族全部レビューするあれ。殺意が湧くだけよ、本当に。


P.S. 2/2中

 他者の roots を玩具にした「戦争ごっこ」をいい加減やめてほしい。


 不快。


 「○○人はXXの敵だ。」

 「●●人は□□を愛してる。」

 「△△人は人ではない。」



 何?



 何がしたい?

 ブリキの軍艦代わりに、
 人の roots を
 黒い海に握り締めて。


 何が愉(たの)しい?

 決死の戦闘機のように、
 人の roots を
 虚(うつ)ろな空に飛ばして。


 何と何を戦わせる?

 戦時下の如く、
 人の roots を
 不合理と不如意の深海に圧(お)し殺して。



 わからない。



 何?



 何が見える?



 責任も人権もまるでない、無知と不寛容を原動力とする戦争ごっこが時に敵味方を捏造(ねつぞう)し、時に愛憎を妄想し、また時に在りもしない神を崇め、また時に人を人にあらずと辱しめる。



 今まで何人の identity を殺した?

 偏見の核によって。


 あと何人の identity を殺す?

 差別の核によって。





 やめ給え。



 やめ給えよ。












































 君だよ。


【 お し ま い 】





私が自殺を遂げる前にサポートしてほしかった。