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インドネシアの島めぐり33日目 南マルク州を巡る アンボン島の温泉
アンボンまで来ると、この旅もいよいよ終わりが近づいてきた感じがする。
南マルク州は、温泉と香辛諸島というテーマには欠かせない場所だ。それでいてとても行きにくい場所としても知られている。
特にバンダネイラと、ヌサラウットは、移動時間が読めないため、時間に余裕のある人だけが行き着くことができる場所と言われている。
日本で言えば、わたしが死ぬまでに行きたい場所に入れている小笠原諸島が近いかもしれない。
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バンダネイラと香辛料
テルナテ島とティドレ島がクローブの産地として覇権を争ったのに対し、バンダネイラはナツメグの産地として知られていた。さらにオランダの策略でテルナテ島とティドレ島のクローブの木々が根絶やしにされたあとは、アンボンと周りの島だけがクローブの木を植えることを許された。
列強諸国が競って進出してきた場所で、中でも有名な島はルン島だろう。
ルン島に行ってみたいというのが、温泉がないのにわたしがバンダネイラに行きたい理由だった。
ルン島はナツメグが大量に生えていた島で、最初イギリスが占領していた。オランダはこの島が欲しかったので、アメリカに持っていたマンハッタン島とルン島を交換してもらった。
香辛諸島の歴史の中で、キャッチーさではトップクラスの逸話だろう。
わたしはマンハッタン島は何度も行っているので、ルン島にも降り立ち、この目で歴史の現場を見たかったのだ。
サパウラ島とヌサラウット島
これらの島はオランダの植民地化に抵抗した国民的英雄たちの島だ。
サパウラは旧1000ルピア札に使われたパティムラの出身地。
ヌサラウットは抵抗運動を繰り返し、捕まってジャカルタに奴隷として運ばれる途中で病気で亡くなったマーサ・クリィスティナ・ティアハフの出身地。
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そしてこれらの島に共通しているのは温泉があること。
火山島なのだ。
香辛諸島を周っていると、火山の噴火により土地が肥沃になったおかげという表現がそこかしこに出てくる。わたしの常識では、火山灰や溶岩が肥沃な大地をもたらすことはなく、むしろ土地が痩せ栽培できる作物が限られるという印象だった。
しかし、事実としてクローブが自生していたのはテルナテとティドレの火山地帯だし、ナツメグが自生していたのもバンダネイラの火山地帯だ。そして土地の養分のおかげで品質は高いらしい。
アンボンの温泉を楽しむ
アンボン島には2つ温泉があり、スリ温泉(air panas suli)とトゥレフ温泉(air panas Tulehu)。
町の中心から東に20キロくらい行ったところにある。
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スリ温泉
幹線道路を東に向かって進んだ後、温泉のある浜辺に向かって道を外れる。
途中で道を聞きながら進んでいくと、浜に面して温泉はあった。
海沿いにありきれいな景色を眺めることができ、また遠浅の浜辺で海水浴もできるが、残念ながら打たせ湯しかない。
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え?まさかこれだけのわけないよね?とキョロキョロしてみたが、本当にこれだけだった。
温度はぬるめ、無味無臭の単純温泉と思われる。
景色はこんな感じに見える。できれば温泉に浸かりながら眺めたかった景色だ。
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中腰になってお湯に打たれながら海を眺めていると、自分は一体何をしているのか不思議な気持ちになる。
海に来たのに海に入らず、温泉に来たのに温泉に入らず、中途半端な楽しみ方をしているせいだろう。
トゥレフ温泉
スリ温泉を出て、トゥレフの港に向けてバイクを走らせる。
港をすぎ、温泉はこちらの矢印に従い、山に向かって左折する。
思ったほど坂道ではないし、道も悪くない。
途中川を横切るところがあり、地域住人が洗濯をしたりバイクを洗ったりしている。
桃太郎の世界はまだここでは健在のようだ。
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道を突き当たりまでいくと温泉らしき建物がある。1人5000ルピア(50円)支払い、中に入る。
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温泉の浴槽は3つに分かれており、手前が一番熱く43度くらい。真ん中がぬるめで39度くらい。一番奥が一番ぬるく37度くらい。
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源泉はすぐ隣りに3つある。いずれも底からお湯が湧き出ている。
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信じがたいことに源泉の中にゴミが浮かんでいる。今までゴミだらけの温泉はたくさんあったが、さすがに源泉にはゴミは捨てられていなかった。
本当に困ったものだ。
3つの浴槽にそれぞれ入ってみたところ、温度調整は水を入れて薄めることで行っているようだった。
つまり一番ぬるい浴槽には一番たくさん水を投入していて、一番熱いのには何も入れていない。
熱いお湯は舐めてみると少し塩気を感じた。ナトリウム塩化物泉と思われる。
温泉を管理している親子と話をしていたら、「モリシタ」という日本人の話になった。イカン・カユ(木の魚)を作って輸出しているという。もしかして鰹節のことを言っているんじゃないかと思い色々質問したところ、多分合っていそうだった。
噂好きのインドネシア人なので、モリシタさんの個人情報をかなり掴んでいて面白かった。温泉に入りにきたおじさんも話に参戦し、奥さん情報を事細かに説明していた。何であんたまで知っているんだよ!とつっこみたくなる。
どうやらもう1人日本人がおり、モリシタさんの会社にいるタナカさんという。
アンボンは大きな都市と思っていたが、案外田舎なんだろうか。
アンボンの街並み
大都市と言っていいだろう。
見た感じバンドン、マカッサルと同レベルの街の大きさ、人と交通量の多さだ。
そしてこの街の特徴は坂が多いこと。中心街を貫く道路はアップダウンとカーブを繰り返す。
また、オランダの植民地らしく、立派な街路樹が並ぶ道がそこかしこにある。
それでいて、植民地時代の建造物をあまり見ない。
ユネスコの音楽都市になっている
正直なところ初めて聞いた名称だ。
最初、町を歩いていて、道路の模様に楽器が書かれていたり、楽器を弾いている人の銅像があったり、音楽で売り出している町のように見えた。
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そしてユネスコの文字とCity of musicを確認し、ホテルに戻って調べてみたらわかった。創造都市ネットワークプロジェクトという取り組みがあり、音楽は7つの分野の一つになっている。
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日本では唯一浜松市が音楽都市だ。
インドネシアは他にジャカルタが文学都市、ペカロンガンがクラフト&フォークアート都市、バンドンがデザイン都市に認定されている。
創造都市ネットワーク(そうぞうとしネットワーク、英: Creative Cities Network)は、チャールズ・ランドリー(英語版)が1995年に発表した「Creative city」を、2004年にユネスコが採用したプロジェクトのひとつ。文学・映画・音楽・工芸(クラフトとフォークアート)・デザイン・メディアアート・食文化(ガストロノミー)の創造産業7分野から、世界でも特色ある都市を認定するもの。「グローバル化の進展により固有文化の消失が危惧される中で、文化の多様性を保持するとともに、世界各地の文化産業が潜在的に有している可能性を、都市間の戦略的連携により最大限に発揮させるための枠組みが必要」[1] との考えに基づいている。
明日はとりあえず朝からトゥレフの港に行って、船のスケジュールを確認してから今後の予定を考える。
全く頼りにならないホテルスタッフで、船のスケジュールを知らないし調べてもくれない。