MBAで何が身につくのか バンドン工科大学の場合
MBAを取るメリットはたくさんあります。
今回はいくつかあるなかで、ビジネスの世界で優秀な人間になることをテーマに書いてみたいと思います。
字数が限られるのでかなり絞り込みます。なので、それだけじゃないだろというご意見はたくさん出てくると思います。そこは少し我慢していただければ。
仕事ができる人というのは様々なタイプがいます。地頭系、人徳系、やり切る系、優秀系など。
その中で優秀系について、わたしの30年のビジネス経験で、優秀さを3段階に分けると以下になります。カッコ内がざっくりとした構成比率です。
出来が悪い:問題を理解できず、答えることもできない(70~80%)
読解力がない、かつ知識もないことが原因です。
優秀:問題を理解し、答えることができる(20~30%)
読解力も知識もあるが、経験がないまたは性格の問題です。
とても優秀:自分で問題や課題を設定できる(3~5%)
出来が悪い率が高い感覚があるかもしれません。
この場合の問題とは選択問題ではなく記述問題です。答えに至るまでロジックを組み立てないといけない問題です。
あと人口比です。わたしの過去所属した組織は比較的うわずみが集まっていましたから、優秀層の比率は高めでした。
とても優秀でいうところの、自分で課題を設定できるという能力は、単純な頭の良さというよりは、センス、性格、経験(運)によります。普通に生活のために働いているだけでは身に付かないです。
これを訓練によって効率的にできるようにするのがMBAだと思っています。
MBAは優秀系のビジネスマンを人工的に作ろうとする仕組みなんです。
1.問題/課題設定能力が大事な理由
まずこの能力がないと管理職にはなれません。もちろんこの能力だけあればいい訳ではありません。一番大事なのは人間力です。上に行けば行くほどそうなります。
でもここでは問題設定能力に絞ります。
問題設定能力とは何か、曖昧な言葉なので詳しく説明させてください。
(1)会社、部、課の方向性を決める、あるいは方向性が決まっているなかで具体的な戦略を設定するのに不可欠な能力
あるべき姿(理想)とありのままの姿(現実)とのギャップをどうやって埋めていくかが戦略です。
(2)問題が発生しているときに、、問題や原因を分解して解決案を考えるのに不可欠な能力
(3)戦略が正しく実行されているかモニタリングし修正していくのに不可欠な能力
別の言葉で説明してみます。
戦略を決めるには、多くの要素を同時に検討しなければなりません。
まず内部要因、外部要因があります。どの要因への対応を重視するか優先順位つけをするには、起こりえる確率、起きた場合のインパクトを想定しなければなりません。
これらはすべて想像の世界です。言い換えれば仮説です。
これが起きたら何が起きる?この要素とこの要素は関係しているのか、要は順番に起きるのか?増大させるのか?無関係でランダムに発生するのか?
起きる問題について、どういう打ち手が考えられるのか?その打ち手を制限する要因、制約は何か?など。
これらを漏れなく、ダブりなく、検討して計画にまとめる必要があります。
自分独りでやるわけではなく、専門家や詳しい人を交えながら検討していきます。
このプロセスでは質問力も重要です。状況を正確にいち早く理解するには、質問を繰り返していかないといけないのです。
質問するのは、仮説力がないとできません。もしこんなことが起きたらどうなる?もしその通りにならなかったら?なぜそれを先にやらないといけないのか?
さらにキーとなる要素を推定して絞り込んでいく能力も必要です。限られた時間とリソースの中でやっているので、永遠に質問をし続けたり調べ続ける訳には行きません。
これは質問だけでなく、モニタリングにも必要になります。
戦略を効果的に実行するのに必要な構成要素を元に、何ができたら成功したといえるのか、成功の確率が高まるのか、いわゆるKPI(Key performance Indicator)を設定し、経過を見ていくのです。
実行過程では思いもよらないことが起き、前提条件が変わりますし、読み違いもありますから、都度修正が必要になります。
仮説作業が続くことになります。
2.必要な知識と訓練
経験を積み、必要な知識を得ていけば、ある程度の素養と意欲がある人であれば、MBAに行かなくても身に付くと思います。
例えばわたしのケースですとこんな感じです。
ベンチャーキャピタル業界にいたので、たくさんの事業計画を見てきました。事業計画の説明もたくさん受けます。
また、事業計画を一緒に作ります。
事業計画は決まった構成があり、検討要素がもれないようになっていますし、書いていく順番があるため思考回路も整理されます。
まず外部要因からスタートします。市場をどうやって見るか、経済や競合の影響、新しい技術やサービスの影響はどうなのか、ターゲットはどう絞るのか、それはなぜなのかです。これまでの実績を元に想像していきます。
それに対して内部要因も検討します。戦略を立てる上での制限要因になるからです。人がいない、資本がない、情報が足りない、製品やサービスが必要なレベルに達していない。ないことを前提に立てる、どうやって補っていくかを考えます。これも想像の世界です。
これらの検討を通じて、片方を立てるともう一方はできなくなるとか、悪い影響を与える、これとこれはセットで考えないといけないとか、分かり始めます。「風が吹くと桶屋が儲かる」ということわざがありますが、この連想力です。
さらに、たいてい計画通りにはいかないので、なんで失敗したんだろうと計画にさかのぼることも可能です。数多くの失敗を見ることができるところが、ベンチャーキャピタルのすごいところです。
失敗するのが当たり前の世界、失敗が許される世界というのは、ベンチャーキャピタル以外にあまり無いと思います。
会社が生まれて成長して死ぬという一生のサイクルを高速で経験し見ることができる環境にあります。5,6年いれば、人によりますが最低でも30社をまじかで見て、100社を横目で見る感じです。
たくさん見ているうちにパターン化ができ、連想力がついてきます。
これはセンスと才能の要素が大きいです。早い人間と遅い人間がいます。これはしょうがない。センスのない人は時間をかけるしかありません。
ベンチャーキャピタル業界のよいところは、先輩、同僚たちから考え方や情報を共有してもらえるところです。多くの気づきがあります。
もちろん勉強もたくさんします。大量の本を読みます。
情報を短時間で大量に得るには本が一番早いのです。Youtubeなどの動画で1時間かけてしゃべる内容は、本で読めば10分かかりません。
就職した会社、与えられた業務に左右されるため、運の要素も強いと思います。
3.MBAの授業
一番ベースになるのは戦略です。
戦略を考える上で役立つフォーマット、モデルを学びます。これにより漏れなく、ダブりなく検討できるようになります。
さらにケーススタディーにより、わたしがベンチャーキャピタル時代に経験したようなことを要素を絞って短時間に経験させます。
ケースはA4で10ページから長くても30ページですから、要素を絞り込まないと無理です。
そこは実際に自分で経験するのとは違います。経営者の考えを聞きながら、ある戦略にいたるまでの紆余曲折も見ながら、戦略実行時の様々な要素を見ながら経験するベンチャーキャピタルのようなわけにはいきません。
表面的で浅いのです。
もちろんベンチャーキャピタルも、事業会社で自分でやるのと比べれば表面的ですから、人のことをとやかく言うことはできません。
MBAのケースが表面的といっても、見方によっては、分野を例えば組織論、ファイナンス、マーケティング、意思決定などに分解して絞る方が、効率よく理解できるかもしれません。
4.ファイナンス、法律との違い
わたしが得意にしているファイナンスと法律の勉強やロジックと経営学の違いについてもご参考までに説明します。
ファイナンスと会計
会計はがんじがらめに固められているので、自由な発想やロジックの当てはめはできません。
こう来たらこうするという決まり事(会計基準)が特に会計の世界は多いです。答えは一つしかないのです。
ファイナンスの場合、もう少し融通が利く分野です。
直接金融(エクイティー)を使うか間接金融(デッド)を使うか、期間は短いか長いか、投資の条件をどうするか、タイミングはどうするかなど、ケースバイケースで使い分けます。
前提をどう置くかで変わってきますから、仮説やロジックが重要になってきます。正解が一つではない世界です。
逆に言えば、鉛筆なめなめで数字をでっち上げることができますし、ある案についていくらでも問題提起し反対意見を出せます。
法律
法律の場合はもっと自由です。意外に思う人が多いかもしれません。
誰が見てもどっちに非があるか分かるような場合は別にして、裁判で争われるようなケースは、どっちも自分が正しいと思っているくらい微妙になります。
さらには、前提条件や重視する要素を変えると、全く違う結論になります。
わたしがアメリカ留学で受けた契約法の授業はまさにこれで、ソクラテスメソッドを使って教えます。
要は答えが一つでないなかで、どういうロジックでその答えにたどり着くのかを鍛える授業になります。指名され、立たされ、先生と一対一で問答をし、こてんぱに打ちのめされるやつです。
ペーパーチェイスというアメリカの映画で、この場面が出てきます。
法律の世界もファイナンスの世界も原理原則があり、この原理原則に従って判断を下していきます。
経営学
一方経営戦略は原理原則と言えるものが少ない気がしています。
物事をどっちから見るかでいかようにも変わってきます。
かつ経営戦略で問題なのは、成功事例を持ってきて同じことを繰り返せばいいと思いがちところです。
現実はもっと複雑で、様々な要素が複合的に絡んできて、さらにはチームのモチベーション、競合相手の動きも全く予想できません。
また、誰がやるか、組織のサポート体制も大きく左右します。
なので、授業で習ったことが経営の現場でそのまま使えるということはほぼ無いと言ってよいです。
やはり経験を数多く積み、引き出しをいかに増やすかが大事になってきます。
それでも、MBAで基本動作や思考プロセスを学んでおくと、問題や課題をフォーマットの力により整理することはできますので、レベルは置いておいても何もないところからスタートする人よりは有利になります。
机上の世界であっても、一応バーチャルに経験はしているのです。
5. まとめ
先週から最後の科目が始まり、Strategic Management and Agile Enterprises(戦略的な経営と素早い組織) です。
これまで学習してきた戦略をおさらいしていっている感じの授業で、よく考えているなと思いました。
やはりストラテジーで始まりストラテジーで終わるのでしょう。
今回はかなり絞ってしまい、マイナス面にも触れられていないので、時間を置いてまた振り返りをしたいと思います。