【第7回】 アメリカ、イギリスにおけるエリート教育の根源
~その現地訪問によるインタビューを通じて2007~
※私が2007年にアメリカ、イギリスの学校を訪問してまとめたものです。訪問から月日が過ぎてはしまいましたが、希学園の根幹に通ずるものがここにあるので、各種データは当時のまま、文章部分に修正を加えています。
アメリカ編 Cate School
回答者:Benjamin D.William Ⅳ
前回に引き続きCate Schoolを紹介します。今回はBenjamin D.William Ⅳ校長への質問とその回答という形で記します。
[質問1]
昔からエリート教育を行うのに寮生活を通じて全人教育(知育、徳育、体育)がなされ、その結果としてエリートが世界中に輩出されてきた歴史があります。それがイギリスにおけるパブリックスクール、アメリカにおけるボーディングスクールでしょう。日本でも寮生活を通じて真のエリート教育を行っている学校がありますが、その教育方針の大部分は知育に偏っていることは否めません。では何故アメリカにおいて御校のようなボーディングスクールはAthleticなど体育や芸術などの面を大いに取り入れられ、さらにはそのことがどのような力となって難関大学に多くの生徒を合格させることができるのでしょうか。学力を効果的につけさせるのにどのような方法が講ぜられているのかを知りたいです。
[回答1]
この質問に答えるに際し、まずボーディングスクールの歴史について少しお話しさせてください。アメリカのボーディングスクールはもともとエリート家系に育った子ども達を、学術的、身体的、芸術的な面で挑戦的な環境に置くために設立されました。将来リーダーとなる人間は、グループの中で周りの人間と妥協すること、交渉することを学ばなければなりません。ボーディングスクールとはそういった環境を提供する場だったのです。
それが現在は少し変わりました。素晴らしい才能を持った生徒の集まりという意味ではエリートという事に変わりはありませんが、ほとんどの生徒が裕福なエリート家系の子どもではありません。しかしながら、ボーディングスクールの基盤となる方針は変わりません。健全な精神の育成には、運動能力・想像力の鍛錬・大きなグループにおいての社会性が必要となります。アメリカの若者は自己完結的であったり、他人との関わりをあまり持たない傾向にあります。そこで、私たちの多様なカリキュラムの中で生徒達に自分自身より大きなグループの中で、『自分』を見つめる機会を与えてくれるのです。それを通して生徒達は、謙虚さ・他人と関係を築くことを学びます。
私の経験から、芸術や体育や寮生活は個性を育てる事、子どもから大人への成長に寄与しています。芸術・体育・寮生活を行っている生徒は、講師と授業以外でも関わりを持ちます。その関わりの中で、講師の精神的な面に触れる事ができます。それ以外でも、体育・芸術・寮生活から学ぶ事は計り知れません。Cate Schoolでは芸術が与える影響を非常に重要視しています。芸術は創造力・発明の源です。芸術の授業で培った創造力・発明力は、様々な面でその後の人生においてその力を発揮します。人生において、様々な角度から物事を見たり、新しい事を発見する力は必要となります。芸術の授業で得る力は、これらの力を育てると私は信じています。ですので、ここの生徒達は少なくとも1年半、芸術の授業を受講することが必須となっています。ここで学ぶ『自己表現力』は、その後の人生で役立っています。
[質問2]
また、有名大学に多くの合格者を出す秘訣を教えてください。
[回答2]
私は、Cate Schoolに来る前、テキサスにある都会の大きな学校にいました。そこの生徒は入学試験にも通った能力の高い生徒ばかりでした。テストでもとても良い成績を残し、卒業後はとても有名な大学に進学していました。彼らの多くは入学時にとても高い能力を持ち、その能力を伸ばすために講師達は全力を尽くしました。しかし、本当の素晴らしい学校とは生徒の『能力を開花させられること』です。素晴らしい能力を持つ生徒にその力を気づかせ、その力を訓練する事の楽しさに気づかせる事が必要なのです。
どんな学校でも、あまり学力の高くない生徒をハーバード大学に合格させる事ができますが、それは『良い学校』という事ではないと思います。『良い学校』とは、生徒の本質を見抜き、それを最大限に発揮させる事ができる学校なのです。私たちの生徒は、彼らの持つ個性・才能を最大限に発揮し、素晴らしい大学に入学できているのです。誰もが知る有名大学に入学させる事が大切なのではなく、個々の個性・才能に合った大学に進学させる事が大切だと私たちは信じています。
[質問3]
日本でも寮生活を通じて学ぶ事の最大のポイントは、次のステップ、例えば大学入試に向けての効果的な学習を可能にするシステム、あるいは精神力を培う源泉がそこにあると信じています。御校においてその特筆すべき点があれば教えてください。
[回答3]
寮生活は生徒の様々な成長に貢献しています。例えば、生徒の『学習習慣』、『社会性』、『リーダーシップ性』などを育てるのに貢献しています。しかし、寮生活を行っていく上で気をつけないといけないのは、寮生活で生徒は両親から離れて自立を経験し、自分の時間をどの様に過ごすかも自分で決めます。その中で、彼らを規制し過ぎれば、彼らの自立心は育ちません。しかし、自分の時間を賢明に使えない生徒もいます。例えば、家にいれば両親が彼らが勉強をしっかりしているか監視できます。しかし、寮生活では、生徒を信用しなければなりません。ここでの生活を通し、生徒達は自分の時間の重要性に、最終的には気づきますが、時間がかかる場合があります。14歳で我が校に入学した時点で、そのような習慣はまだ備わっていません。生徒たちは、自発的にそういった姿勢を学ばなければなりません。時間はかかりますが、生徒に自分で行動させ、失敗をさせることで、そこから成功する方法を学びます。そういった経験を通して私たちは、素晴らしい大学に進める様な生徒を育てるのです。
[質問4]
御校は全寮制ですが、寮で生活している生徒と通学生との違いについてご意見をお聞かせください。
[回答4]
違いはあると思います。もちろん、その生徒によりますが。我が校では、寮生活をしていない生徒にも学校への依存性を高めるための様々なプログラムを実施しています。寮生活をしている生徒は学校との関わりも強く、通学生に比べ、良い学習環境があったり、より自立心があったり、両親との関係も通学生とは違います。私たちは寮生活から得られるメリットを信じていますので、通学生にも様々な寮のプログラムに参加する機会を与えています。通学生でも可能な限りで学校との関わりを多く持てるように努力しています。
[質問5]
大学への進学状況について寮生と通学生とで顕著な違いがあれば教えてください。
[回答5]
通学生・寮生に関わらず、我が校の生徒は皆、大学進学において積極的な姿勢を持っています。そこに違いはあると思いません。
[質問6]
御校では悪いこと(校則違反)等を行った生徒を真のエリートとして成長させていくために単純に罰則を与えるだけではなく、彼らの心の中に入って心の底から「自分はこのままでは駄目だ。もっともっと自分の幼さや未熟な点を克服して頑張っていかなければならない」と思わせる教育指導を行っておられます。その教育指導のポイントを教えてください。またその指導ポイントに気づいてその後、どのような学習態度の変化が見られるようになりますか。
[回答6]
私は、学校で学ぶ一番重要な事は授業の中だけで教えられているとは思いません。もし生徒が学校の規則を破ったら、それを重く受け止め、生徒には人格・誠実さの欠落について教え込みます。我が校には、規則を破った生徒にどのような処分をするかを決める委員会が講師によって組織されています。もしそれが初めての事でなければ、生徒は1週間か2週間の自宅謹慎になります。そうすることにより、規則を破ると社会の中では生活できない事を生徒に学ばせるのです。学校という社会から離れ、自宅謹慎する事で、自分の過ちを振り返り、自分と向き合わせるのです。謹慎から戻った生徒は、しばらく講師の監視があり、カウンセラーと定期的にカウンセリングも行います。
2つ目の質問に関してですが、多くの場合規則を破った生徒は自分の行為が間違った事であるというのは知っているのです。若者は、様々な面で新たに挑戦する事ができます。ですので、間違いを起こした生徒の考えをしっかり理解し、私たちは生徒を新たな面で挑戦できるように助けるのです。私たちの優秀な生徒の中には、過去に問題を起こした生徒がたくさんいます。間違いを起こし、その間違いと向き合い、自己改革させるという事はとても大切なのです。
もう一つ大切な事は、生徒が規則を破り、その処分が決まった後、その経過を私たちは全生徒・全講師の前で報告するのです。これは、他の生徒にとっても、起こった問題について考えるとても重要な機会なのです。
[質問7]
入学してくる生徒は将来のエリートであることは間違いないのですが、彼らはいつの段階から自分が将来の社会のリーダーであり、エリートになる資質を持っていると認識するのでしょうか。
[回答7]
上記の事を認識させる事が寮制学校の教育の核心なのです。決して快適であるとは言い難い寮という環境、個人本位ではなくひとつの社会の中で生活していく経験を通して、生徒達は社会の中での自分の存在意義を学ぶのです。ですので、寮制学校という社会において彼らが生活していく事自体、上記の質問のような事を認識させる事に役立っているのです。我が校のモットーは『Let us serve』です。我が校において、『奉仕精神』は最も重視されており、学校外での社会奉仕活動も活発に行っています。学校内での奉仕活動の重要性も生徒達に指導しています。上記の質問の事を達成するには、生徒達に『社会とは何か?社会に対して自分は何ができるのか?』という考えを提供してあげる事が大切だと思います。
[質問8]
イギリスのパブリックスクールとアメリカのボーディングスクールを比べてみるとどのような違いがあるのでしょうか。
[回答8]
アメリカのボーディングスクールの目的は、大学やその後の人生の準備をさせる事です。それに対し、イギリスのパブリックスクールはA Levelなどの試験準備をさせる事が目的です。イギリスの方が、早いうちから生徒に専門知識を持たせようとします。アメリカではまず一般教養を十分に勉強した後で、専門的な勉強をさせるべきだと信じています。アメリカではイギリスに比べ社会階級における問題や、人種の違いにおける問題は少ないと思われます。
その他に、Cate Schoolのような学校には多様性(人種的・経済的など)を持った生徒がたくさんいます。Cate Schoolの約30%の生徒は学資援助を受けています。我が校では経済的に困難な生徒であっても受け入れる姿勢を持っています。こういった点もイギリスとは違うと思います。そして、学校運営資金についても、我が校の運営資金の70%は学費で賄われていますが、30%は卒業生の両親や卒業生自身からの寄付金によって賄われています。アメリカの学校では、卒業後も、自分の卒業した学校に寄付金などの方法で貢献していくという流れが強くあります。
[質問9]
『Parents visiting day』について教えてください。
[回答9]
年2回(春・秋) 『Parents visiting day』があり、金曜から日曜にかけて保護者が学校で生徒と共に過ごします。その他にも2年に1回『Grand Parents Visiting Day』があり、祖父母が学校を訪れる機会があります。これ以外でも、保護者の訪問はいつでも許可されています。学校と保護者はパートナーとなり共に生徒を育てていくという意識を持ち、アドバイザーなどを通し、保護者と学校のつながりを強くしています。