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【第11回】 アメリカ、イギリスにおけるエリート教育の根源

~その現地訪問によるインタビューを通じて2007~

※私が2007年にアメリカ、イギリスの学校を訪問してまとめたものです。訪問から月日が過ぎてはしまいましたが、希学園の根幹に通ずるものがここにあるので、各種データは当時のまま、文章部分に修正を加えています。

イギリス編 Harrow School
回答者:Barnaby J Lenon

前回に引き続きHarrow Schoolを紹介します。
今回はBarnaby J Lenon校長(当時校長)への質問とその回答という形で記します。

Barnaby J Lenon校長先生(当時)

[質問1]

 昔からエリート教育を行うのに寮生活を通じて全人教育(知育、徳育、体育)がなされ、その結果としてエリートが世界中に輩出されてきた歴史があります。それがイギリスにおけるパブリックスクール、アメリカにおけるボーディングスクールといえるでしょう。日本でも寮生活を通じて真のエリート教育を行っている学校があります。しかし、その大部分は知育に偏っている事は否めません。では、なぜイギリスにおいて御校のようなパブリックスクールは、Athleticなど体育や芸術などの面を大いに取り入れつつ、さらにはそのことで難関大学にたくさんの生徒を合格させることができるのでしょうか。また、オックスフォード大学やケンブリッジ大学等の有名大学にたくさんの合格者を出す秘訣を教えていただけますか。

[回答1]

 大人になってからの『人生の成功』というのを考えた時、学力だけがさほど大きな関係を持っていると思われないので、私たちはスポーツや美術、演劇などにも力を注いでいます。試験に合格することだけよりも、もっと大切なことが人生の成功にあると考えます。

 人格形成やリーダーシップ、そして生涯を通して勉強以外の趣味を持ち続けることが人生の成功に重要な意味を持つと思います。その趣味とは例えば、スポーツや音楽、演劇などです。学業と効果的に両立させる方法の一つとしては、私たちは寮制学校ですので、通学制学校よりも2倍近くの時間を生徒たちに割くことができます。私たちは、勉強を教える時間を通学制学校よりも多く割くことはしません。基本的に、半日はスポーツや美術、音楽、芸術などの活動に割いています。ここに子どもを通わせる両親たちも、通学制学校よりもそれらの活動に多く力を注げることを知っているので、私たちHarrow Schoolを選ぶのです。

 私たちが学業においても優秀な成績を修めている理由は、まず私たちが有名校であり選ばれた学校であること、有名校であるが故に優秀な成績を修め続けられているのです。そして私たちは優秀な講師を雇うことに力を注いでいます。さらに、生徒たちに勤勉であることも強いています。今日もここにくる前に、前期の成績が芳しくない生徒たちに、このままの状態が続くとどうなるか、ということを教えていました。激励・賞賛・重圧・不安などをうまく与えることで、10代の生徒たちに「勤勉であること」を強いているのです。

[質問2]

 日本でも寮生活を通じて、学ぶ事の最大のポイントは次のステップ、例えば大学入試に向けての効果的な学習を可能にするシステム、あるいは精神力を培う源泉がそこにあると信じています。御校においてその特筆すべきことがあれば、お話しいただけますか。

[回答2]

 寮制学校であることのポイントとして考慮されることはたくさんあります。まず一つ目に、24時間体制でケアされているという点です。両親の中には、子育てに難しさを感じている人たちもいます。特に共働きの家庭に多いようです。

 そして二つ目に私たちは、ナイト・クラブやパブに行くなどの10代の若者が陥り易い局面から生徒を守ることができます。寮制というやや閉鎖的な状況が、同世代の通学制学校の生徒たちが陥り易い局面から遠ざけるのです。しかしこれには良い部分と悪い部分があると思います。

 三つ目に生徒たちは皆、Houseに住む70名もの他生徒と共同生活を経験し、家庭で生活するよりも自己中心的ではいられなくなります。若者は自己中心的です。よって彼らはこの寮生活を通して、他人と上手くいく方法を学ばなければなりません。寮に住むことは、様々な趣味や活動に参加していくことも意味します。私たちは各生徒に3つから6つの活動をし、それを楽しむと同時に高いレベルに達するまで追求することで、人生を通して彼らを刺激し続ける趣味に変わることを望んでいるのです。

 寮制であることは、上記に挙げたことを実践しやすいのです。通学制学校では、学校で過ごす十分な時間がないため、これらのことに割ける時間がないのに対し、私たちには一日に3~4時間もあるのです。さらにいくつものHouseを持つことで、House間での競争をすることができます。Harrow Schoolで行われている様々な活動は、House間で競争されています。例えば、合唱会やラグビー試合、討論会などで競っています。このHouse systemは、互いに競い合うことで、お互いの能力を高め合う効果も与えているのです。これらが寮制であることのメリットとして挙げられます。

[質問3]

 御校は全寮制ですが、寮で生活している生徒と通学生との違い(差)についてのご意見をお聞かせください。

[回答3]

 Harrow Schoolが通学生を受け入れない唯一の理由は、1つの学校に2種類の生徒を持つべきではないと思うからです。もし我が校に通学生がいた場合、考えられる問題が2つあります。1つ目は、通学生が毎日家に帰宅することにより寮生が寂しさを感じることです。そして2つ目は、通学生が帰宅することで全生徒参加で練習が必要な活動(オーケストラ演奏、演劇など)に支障が生じるということです。

 寮制学校と通学制学校の違いは、単純に課外活動に費やす時間が多くあるため、より高いレベルの完成度・上達度まで達することができるという点です。そして、寮制学校では学業的な指導も通学制学校よりも融通が利きます。Harrow Schoolでは、冬期の間の月曜日・水曜日夕方4時半から6時半まで授業を行います。そうすることにより、2時から3時までの時間をスポーツに費やすことができるのです。これは通学制学校ではできないことです。

[質問4]

 大学への進学状況について、寮生と通学生とで顕著な違いがあれば教えてください。

[回答4]

 寮制学校と通学制学校において、大学進学状況についての違いがあるとは思いません。

[質問5]

 御校のホームページを拝見し、御校ではSATテストを受け、アメリカの大学に行く生徒がいるということを知りました。そこで質問ですが、毎年どれくらいの割合の生徒がアメリカに行くのですか。またアメリカの大学を選ぶ理由は何なのでしょうか?

[回答5]

 割合は5%です。理由の1つ目は、イギリスでははじめの1年間は1教科だけ勉強するのに比べ、アメリカでは多くの教科が選択できる点です。2つ目の理由は、いくつかの教科に関してはイギリスよりアメリカの方が優れているため、その方面の勉強がしたい生徒はアメリカの大学に進学します。例えば去年、我が校に科学に優れた生徒がいましたが、イギリスのオックスフォード大学より、アメリカのスタンフォード大学の方が科学のカリキュラムが優れているためスタンフォードを選んだのです。そして3つ目には、異国で文化の違いを経験するためにアメリカ大学進学を選ぶ生徒もいます。

[質問6]

 御校では悪いこと(校則違反)等を行った生徒を真のエリートとして成長させていくために単純に罰則を与えるだけでなく、彼らの心の中に入って心の底から「自分はこのままでは駄目だ。もっともっと自分の幼さや未熟な点を克服して頑張っていかなければならない」と思わせる教育指導を行っておられます。その教育指導のポイントをお聞かせください。また、彼らはその指導ポイントに気づいてその後、どのような学習態度の変化が見られるようになりますか。

[回答6]

 我が校の「罰則システム」がどのような成果をあげているかが、この質問の意図かと思うのですが、その答えとしては、生徒によってその成果の違いは様々であると思います。罰則により更生する生徒もいれば、どんな罰則を与えても更生できない生徒もいます。効果的に導くため、私たちは、犯した罪によって与える罰を決めます。例えば、部屋や教室を散らかしたのであれば、その場所を掃除させます。

 彼らは基本的に善悪の判断がつくのですから、道徳指導の問題ではないと思います。それよりも、悪いことをしたという事実を認めさせることが必要であると思います。もし彼らが何か悪いことをしたなら、まず悪いことをすれば捕まると学ぶ良い機会であると思います。そして、罰則を与えられることにより、二度としない方が良いと気づくのです。

寮の部屋

[質問7]

 入学してくる生徒は将来のエリートであることは間違いないのですが、彼らはいつの段階から自分が将来の社会のリーダーでありエリートになる資質を持っていると認識するのでしょうか。

[回答7]

 全生徒が確実にエリートになるとはいえませんが、その可能性はあると思います。多くの生徒は裕福な家庭出身ですので、元々人生において有利であるのです。これは学校でも同じことが言えます。彼らは、社会における高い地位を持つ両親の刺激を受け、自身も良い仕事を獲得する努力をしていくと思います。

 私は、人がその人生で何を達成するかは、自分自身にどれだけの目標を課すことができたかによるものが多いと思います。もし、あなたが高い野心を抱いていれば、大きな目標を達成できるでしょう。しかし、もしあなたが低い野心しか抱いていないのであれば、大きなことを成し得ることはできないでしょう。そのため、私たちはまず、良い仕事を得られるようにするため、良い大学に入れるようにします。そして会話力・文章力・コミュニケーション能力・リーダーシップ力(怒鳴って人を従わせるのではなく、上手く人の理解を得て導く能力)など将来に役立つ力を養ってあげます。そして、彼らが目標をする職業に関してのアドバイスをたくさん与え、成功に導くことです。これらが、彼らの人生への成功へと導く方法です。

[質問8]

 イギリスのパブリックスクールとアメリカのボーディングスクールを比べてみるとどのような違いがあるのか。知っておられる範囲でお教えいただけますか。

[回答8]

 私はこの質問に答えられる程、アメリカの寮制学校のことをよく知りません。私の持ち得る知識の範囲で答えるとすれば、アメリカの学校はイギリスの学校に比べて、より裕福であるということです。アメリカでは、イギリスよりも大学や学校にお金を寄付する傾向が強いようです。それは、アメリカの税制はイギリスよりも容易に寄付できるシステムになっているからかもしれません。我が校にもアメリカから来ている生徒がいます。彼らを見る限り、イギリスの生徒たちに似ていると思います。

[質問9]

 “House”と“Dormitory”の違いについて教えてください。

[回答9]

 Dormitoryとは、大きな部屋にたくさんのベッドが置かれている建物のことをいいます。Harrow SchoolにはDormitoryはありません。私たちにはHouseがあります。Harrow のHouseには、大きな一つの建物の中に50ものベッドルームがあり、一部屋に1人か2人の生徒が住みます。Houseでは、たくさんのベッドルームがあり、寮長が住み、生徒が皆そこで暮らし、食を共にし、チームを作り、他のHouseチームと競いながら生活をします。


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