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アリを本気で飼育したら、小動物がやってきた
【日々はあっちゅーま】
#13, クロオオアリの飼い方
アリが好きである。
もう、アリが可愛くて可愛くて仕方がない。
春先、冬眠から目覚めたアリたちが、ぽつらぽつら地上にやってくるのを見つけると、
「よく来たな。今年も待ってたぞ!」
と思わず声をかけたくなるくらいである。
ところで皆さん。
地上でちょこまかと動き回る働きアリ。
彼女達は例外なく、生まれてから2年目のベテランアリだというのはご存知だろうか?
注)働きアリは全員メスです
生後間もない働きアリ達は、最初の1年間、穴ぐらで幼虫やサナギの世話などの雑用をこなす。
そうして組織のルールを身に付け、研修期間を終えたアリ達だけが、外の世界へと繰り出す事が出来るのである。
と、ここで賢明な読者の皆さんは。
なぜこの男は、こんなにアリに詳しいのだろう?
と疑問に思われたのではないだろうか。
何を隠そう私は保育園時代、アリの飼育に熱中していた。
それも、おもちゃ売り場に置いてあるような子ども騙しのアリ飼育キットでは無い。
正真正銘、本物のプロのアリの飼育である。
一体何が子ども騙しなのか?
何が本物なのか?
疑問を禁じ得ない読者の皆さんに、順を追って説明していこう。
まず公園でうろちょろしているアリを捕まえてきて、虫かごに入れるとしよう。
こんもりと土を入れて、アリが隠れやすいように石も入れる。
そのまま放置する事、一昼夜。
確かにアリたちは、巣穴を掘り始めたり。餌を食べたり。
一応、生活らしい生活を見せてくれる。
しかし、せいぜい働きアリの寿命が持つのは、ほんの数ヶ月である。
また、子どもを作って繁殖する事もない。
これでは、アリの生態を見届けたとは到底言い難いのがお分かりだろうか?
例えるならば、海外からの語学留学生を短期間ホームステイに招くようなものである。
ほんの束の間、異国の文化に触れる事は出来るかも知れないが。
もしも、本当にその国の事を理解しようと思えば、もっと長いスパンで人生の苦楽を共にする必要があるはずだ。
ここでアリに話を戻すが。
アリと人生の苦楽を共にするには、女王アリの捕獲が不可避となる。
働きアリ、兵隊アリ、卵、幼虫、サナギ、全てのアリたちを統べる、アリの巣の長。それが女王アリである。
クロオオアリの働きアリが、平均身長5㎜なのに対して、女王アリ3㎝と、やたらにデカイ。
女王アリの仕事は卵を産む事である。
成熟したアリのコロニーでは、女王アリは1日10匹以上の卵を産む。
女王アリを捕獲する事。それこそがアリを増やし、アリの飼育を思う存分楽しむために必要な事なのである。
ちなみに女王アリの平均寿命は10〜20年。
文字通り、人生の苦楽を共にするにはうってつけのパートナーである。
さて、ではどうやって女王アリを捕まえるのか?
結婚飛行の時に捕まえるのである。
普段、地中深くに住む女王アリも、この時ばかりは地上へと出てくる。
ちなみに、私が飼育していたクロオオアリは、5月のゴールデンウィーク前後に結婚飛行をする為。
毎年5月になると、私は女王アリの捕獲ケースをいつも持ち歩いて仕事に出かけたものである。
あくる朝
あくびをしながらアパートから駅までの道を歩いていると。
いました、いました、女王アリ。
明らかに他のアリよりも一回り大きい上に、立派な羽を生やしているので、一目でわかる。
しかし、喜び勇んでここで捕まえてはいけない。
これから女王アリは、結婚飛行という大事な仕事が待っているのである。
〜〜〜〜〜〜〜〜
仕事帰り、夕方に同じ道を探すと、今度は羽を落として身軽になった女王アリを見つける事が出来る。
これこそが、お腹に子種を宿した新女王アリである。
ここでやっと女王アリを捕獲し、待ちに待ったアリの飼育が始まる。
子種を宿した女王アリはやがて卵を産む。
卵から幼虫が孵り、幼虫はサナギになり、サナギから働きアリが羽化する。
(ここまでで約2ヶ月)
1匹、2匹と、働きアリが増えた頃を見計らって、ファミリーを大きな家にお引越しさせる。
アリの新居は、石膏をくり抜いて作ったお手製のデザイナーズホームである。
(土は雑菌の温床になる為、使用しない。)
新居は、近未来的なビニールチューブで餌場と繋がっている。
私は毎日、公園でバッタやらクモやらを捕まえてきて餌場に置く。
すると、アリが餌に気付いて、巣穴へと引っ張ってゆく。
か、かわいい!
それからというもの、仕事から帰ると、私は時間を忘れてアリの観察に励んだ。
幼虫達に餌をあげる働きアリ。
仲間同士で毛繕いをする姿。
サナギの繭から働きアリが羽化する瞬間。
感動の連続である。
アリ達の生活は、どれも微笑ましく、一生懸命で、ちょっとおっちょこちょいで。
見ていて自然と愛おしさを感じる、そんな何かがあった。
ところが、ここで思いもよらぬ問題が発生した。
連日夜遅くまで仕事をしていた私は、なかなかアリの餌を、公園に捕まえにいく時間が取れなかったのだ。
アリという奴はなかなかグルメで、毎日バナナとか、昆虫ゼリーを与えていると、飽きて食べなくなってしまう。
どうしても、新鮮な虫の餌を与えなくてはならない。
悩んだ私は、ある日思いついた。
そうだ、アリの餌用に、虫を飼育すれば良いんだ!
色々とアリの餌に適した虫を調べていると、爬虫類の飼育に使う、ミニゴキブリが、飼育が楽でおすすめだという話を聞いた。
さっそくペットショップへ行き、ミニゴキブリを購入する。
ちょっと臭い。
さすがミニゴキブリというだけあって、大きさは節分の豆を小ぶりにした程度。
アリ達も食べやすいサイズなのか、いつになくガツガツと食べてくれる。
う、うれしい。
しばらく、スターバックスのタンブラーのような容器で、ミニゴキ達を飼育していたが。
ここでまた、思いもよらぬ問題が発生した。
ゴキブリの方が、増えるスピードが早いのである。
かといって、アリ達にもっと食え!とは言えない。
なんとか、生態系のバランスを取らねばならない。
悩みに悩んだ私は、ある日思いついた。
そうだ、ゴキブリを食べる生物を別に飼育すれば良いんだ!
ハムスターを飼う事にした。
名前はやっぴー。
アリも可愛いが、やっぴーも可愛い。
毎晩毎晩、カラカラと回って運動しているのを見ていると、胸がキューンとして頬擦りしたくなる。
年甲斐もなく、部屋の中を探検させたりして遊んだ。
それからというもの、仕事から帰ると、まずはアリを観察し。その後にやっぴーを観察し。
またアリを観察し。その後やっぴー。という夢のようなローテーションの毎日を送っていた。
当初の予定通り、やっぴーはゴキブリを食べてくれた。
だが、ヒマワリのタネの方が好物のようなので。
ゴキブリ → ゴキブリ →ヒマワリ
ゴキブリ → ゴキブリ →ヒマワリ
と、ローテーションを組む事にした。
ゴキブリを食べるクロオオアリと、ハムスター。
前田家の生態系のバランスも、これで完璧に保たれたかに思えた。
が…
実はやっぴーはゴキブリを食べていなかったのである。
きっと、最初の1〜2回で、飽きてしまったのだろう。
以後は、給食の苦手な野菜をこっそりゴミ箱に捨てる子どものように。
食べたフリをしていたのだ。
最初、ハムスターの餌食になるかと観念していたミニゴキブリ達も。我が身の安全を確認すると、堂々とハムスターのケージの、木のチップの中で暮らすようになる。
気づいた時には遅かった。
すっかり空腹で弱り切ったやっぴーと、ハムスターの家で、我が物顔で暮らすミニゴキ達。
慌ててやっぴーを連れてペットショップに走った。
注射を打たれ、処置を受けるやっぴー。
ガラス越しに、ドクターが首を横に振るのが見えた。
冷たくなったやっぴーを、手のひらに乗せて帰った。
こんな事なら、もっとヒマワリのタネを食べさせてやれば良かった。
ちゃんとした家族として扱ってやればよかった。
でも、もう遅い。
私は新川の土手に、袋いっぱいのヒマワリのタネと一緒に、やっぴーを埋めた。
翌年、記録的な猛暑が千葉を襲い。
前田家の女王アリはその短い生涯を閉じた。
(アリは暑さに弱いのである)
あれだけ頑張って育てたアリがあっけなく死んでしまった事で、私のアリ熱も冷め。
引越しを機に、アリの飼育セットも、ハムスターのケージも処分した。
それから、生き物は何も飼っていない。
それでもいつの日か、もうちょっと命を大切に扱えるようになったら。
また、飼ってみたいな、アリとハムスター。
ゴキブリは…。
ゴキブリはもういいや。
おしまい
【そんなやっぴーの事を絵本にしました】
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