日比谷高校合格

面倒をみていた中3生が日比谷高校に合格した。コロナ禍に惑うことなく粛々と学習してきた彼にまずはおめでとうと言いたい。

彼とはじめて会ったのは小学5年生のころ。松永さんの音読とサイコロ計算をマスターしたいと問い合わせを受けたのが最初だった。

この子のお母さんはとてもアイデアマンで、友達も巻き込み、レッスン料を割り勘してコストを下げ、継続的に僕とレッスンできるように工夫した。まさに僕が理想とするマザーズスクールを体現する一人であった。

音読・サイコロ計算を一通り終えると、今度はフィールドワークと作文をメインにしたプロジェクトを月1で開催してほしいと言われた。それを受けて僕は以前からやりたかった、「体験後すぐさま文章化することで、より知識を定着させるようなフィールドワーク」を企画した。

たとえば、東京都の国分寺崖線をたどるフィールドワーク(これは国分寺から東に進み皇居にある縄文時代の海岸線までたどる)や野川の水車から運動力学を学び、理科社会を越境するフィールドワークをおそらく合計30箇所ほど巡った。その他美術鑑賞ののち文章を書くことも毎月行い、感性の教育にも力を入れた。

僕の企画にいつも賛同してくれたのはとてもありがたかった。やりたい教育をずっとやらせてくれたのだ。その結果、彼とその友達は体験したことをすぐさま言語化することができるようになった。これによって、どんな問題が出ようとも、瞬時に対応できる「瞬発力」が身についたにちがいない。

それから中学生になると、彼は日比谷高校を目指したいと言い始めた。日比谷といえば、国語の論説文が硬質で、新書をさらっと読めるような子でなければ歯が立たない。そこで、中2ごろから、『世界の政治思想50の名著』を読み(もともと政治学に興味のあった)、そこから気になったテキストの原著へ遡った。もちろん、それをざっと読んだあと、文章化することも忘れない。

また、彼は小学校の時点で英検準2級をとっていた。これはすごいことのようだが、当時本人に文法わかっているのか?とたずねると「勘で解いたら受かってた」と答えた。彼は英語を言葉として身体的に感じているのであって、それほど文法に執着せず、「なんとなく」で受かっていたのだ。ちなみに、彼は日比谷の英語で80点を切ったことがない。

そして数学はコロナ禍の休校期間を利用して中3分野の二次方程式・二次関数・相似・図形を一気に終わらせる。その結果、学校の授業はすべて復習。問題演習を十分におこなうことができた。

では、彼ははじめから日比谷に受かるレベルにあったかというと、そういうわけではない。正直中3夏まで日比谷レベルにあったとは言い難い。それは本人も自覚しているところだ。

もちろん、この時点でも戸山くらいならA判定である。だが、最難関クラスとなると、ケアレスミスが命取りとなる。

数学の基礎的な設問でミスがないか、国語の選択肢レトリックにひっかからないか。この点で甘さが出ていた。

そのため母子と何度も話し合い、夏以降、趣味の動画をみるのを制限し、数学は薄い基礎的な問題集を何度も解き直し、国語では個人レッスンでしつこく思考の悪癖を指摘しつづけた。周囲の協力と共に、彼が少年期を終えるタイミングが見事にはまり、晩秋には余念無い状態に仕上がった。


彼の教育履歴を辿ると、多くの人の参考になるにちがいない。

松永さんの音読法を通過した後、フィールドワークによって重層的な体験を積み、新書レベルの文書を乱読。その結果、過去問研究でレトリックを見破ることができるようになる。

英語は準2級レベルを直感的に通過。文法を習得する前に英検をとってしまうことで、体験から理論へスムーズに着地できる。

数学は動画授業で中3分野を一気に終わらせる。それから基礎問題集と過去問研究で問題演習の時間を十分にとる。

これらの学習のコアには一体何があったのか?

それは音読→フィールドワーク×作文だと確信している。

5年間子供の能力が本当に伸びることを一緒に実践してくれた彼のお母様に感謝しつつ、無事第一志望校に受かった彼を祝福したい。本当におめでとう。

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