凸凹マガジン 〜障害者の権利条約の審査と海外の動向〜
毎日、寝かしつけで30分〜1時間半ほど子供を抱いていたら背中がバキバキになった前田です。
#寝たと思ってベッドに置いたら起きるの繰り返し
本日のテーマは、
「障害者の権利条約の審査と海外の動向」
です(^ ^)
▶︎障害者の権利条約の審査
日本は、国連の障害者権利条約を2014年に批准しています。
そのため、障害者の権利は守られているか、スイス・ジュネーブ国連欧州本部の審査が、8月下旬に行われ、9月9日にレポートがまとめられました。
メディアでは主に、
特別支援教育の名の下に障害のある子を意図的に分けている分離教育の中止
精神科への強制入院を可能にしている法律の廃止
という2つが注目されていました。
また、この結果を受けて、日本の課題が多く指摘されましたが、海外の国では、どのような評価を受けているのかも調べてみましたので、以下に紹介します。
▶︎ 障害のある人を分離・排除しようとしている
勧告の中でも日本の特別支援教育が「分離教育だ!」と名指して指名されたのは、多くの特別支援教育の関係者にインパクトを与えたようです。
また、同じ時期に日本の当事者団体がスイスで、「障害者が日本の教室から排除されている!」と訴えたことで、より衝撃は強くなったのかと思います。
https://newstsukuba.jp/39694/21/07/
一方、この勧告を受けて違和感を受けた人も多かったようです。
特に、
「今の学校教育で、特別支援学級を通常学級と一緒にしたら、多くの問題が紛失する」
「現実的ではない」
というコメントがYahoo!コメントやTwitterに多く投稿されました。
これは、どのように考えると良いでしょうか?
▶︎ 特別支援教育ではなく、「通常教育」への批判
今回の勧告の中身を詳細にみてみると、そもそも日本は、
「日常生活の中に、障害者が生活できる制度がそもそも整備されていない」
という文言が多く目立ちます。
障害がある子ども=通常学級では学べない
障害のある人=社会に受け入れられず、精神科病棟に無期限でいられてしまう
隔離する制度にはお金を使うが、同じ場所で生活する法律・制度は少ない
つまり、批判されたのは、特別支援教育ではなく、
「通常の義務教育、あるいは社会全体の多様性を支えるシステムが不十分」
という点なのです。
確かに現在の日本は、通常学級でトラブルが起きる、勉強についていけない、となると、
「発達障害があるかも?」
→「それなら支援学級に移そう!」
という流れが大半です。
実際に、毎年特別支援教育を受ける子供たちが増加しているのは、読者の皆さんもご存知の通りです。
参考:通級指導、過去最多16万4千人 障害のある小中高生
https://news.yahoo.co.jp/articles/2412dcc7281abeecd31d5090b24a83e3521b9129
そうなると、「障害のある子を通常学級と一緒にしたってうまくいくわけない!」という意見もその通りだと言えます。
▶︎ どうすれば通常学級の多様性を高められるのか?
今回の勧告は、通常学級の教育を変える良い機会になると思います。
例えば、
◯一クラスの人数削減
◯子どもの対話の時間を増やす(全体のカリキュラムを減らす)
◯先生の働き方改革
などは効果的と思われます。
まず、1クラスの人数を減らすことは重要でしょう。諸外国では20~25人が主流ですので、同じレベルに減らすと、先生がより一人ひとりに目が届きますので、学級の中で受け入れられる子どもは増えるでしょう。
また、詰め込まれたカリキュラムを減らすことも大切です。
障害、性別、人種、宗教、民族、文化などの違いを乗り越え、多様性を高めるためには、ただ同じ場所にいるだけではなく、継続的な対話を通して相互理解を深めていくことが求められます。
よって、カリキュラムが詰まった環境では、対話はできず、違いによるトラブルが多発します。余裕があり、対話する時間が多いカリキュラムに変えていくことは、重要となるでしょう。
教科はそのままで、時間数を削減するのか?
特定の教科は減らすのか?
などの議論も併せて、できると良いかと思います。
また、先生の働き方改革は、教員の質に直結します。
働き方改革で、より質の高い人材を集め、多様性を包括する教育スキルの研修制度があれば、それだけ多様な人材は通常学級の中で活躍でき、インクルーシブな環境に近づくはずです。
しかし、教員採用試験全体の倍率は、過去最低の3.7倍、小学校では、2.7倍となり、中には、倍率1倍を割る自治体も出ています。実態は学校教育が崩壊する寸前というのが現状です。
今回の勧告に基づいて、多様性を高める学校教育を再度、国全体で考え直してみるのはどうでしょうか?
▶︎ 他の国の場合は?
今回の障害者権利条約の勧告が話題になっていたので、国連のHPで他の国は、どんな評価なのだろう、と調べてみました。
国連HP: https://www.ohchr.org/en/ohchr_homepage
他の国の取り組みを知れば、何か日本にも良い政策があるかも知れません。
簡単に、以下に他の国が障害者権利条約に基づいて、どのような勧告を受けたのかを簡単にまとめます。
◯フランス
(参考)
・出生前遺伝子検査などでダウン症・自閉症などの可能性のある子どもを堕胎することに対策をしていない。障害者の地位を下げるため、対策すること。
・精神障害、自閉症、などの障害のある人々に、集中治療(独房監禁・強制投薬・電気けいれん療法など)の習慣が存在している。施設に隔離するのをやめて、過度な投薬などから保護するべし。
・海外の領土では、そもそも障害児の統計データすらとっていない。ちゃんと調査すること。
・国として、インクルーシブ教育を扱う政策部門を設置・合理的配慮を進めて障害のある子ども40000人が高校大学で学んでいる(2017年の3割増)ことを評価する。
・勧告団代表「フランスの障害者に対する構造的差別のレベルを見て失望した」と発言し波紋
参考:障害者の権利委員会の専門家が、フランスで使用されている障害への医学的アプローチについて疑問を提起
◯オランダ
(参考)https://www.ohchr.org/en/countries/netherlands
・国として、子どもを守ための反差別の法律が足りていない
・亡命希望子供の権利を保護する法律が足りていない
◯イタリア
(参考)https://www.ohchr.org/en/countries/italy
・人種差別、民族差別が強く存在しているので、国として対処をするべし
・地中海海岸に漂流してくる移民を差別しているので、国として受け入れ態勢を整えるべし
・LGBT関連の差別が根強いため、対策を取るべし
◯スイス
(参考)https://www.ohchr.org/en/country/switzerland
・知的障害や心理社会的障害のある人、自閉症の人を含む、障害のある大人と子供が、地域社会の中で溶け込める制度がない。(隔離されている)
・障害のある人が地域に生活するための格安住居の提供など体制を整えることを推奨する
◯スペイン
(参考)https://www.ohchr.org/en/countries/spain
・スペインは、両親が反対したにも関わらず、ダウン症の子供を国家当局が特殊教育センターに送られた事件が発生。これは、インクルーシブ教育を受ける権利を侵害した事例と言える。
・インクルーシブ教育の権利に関する最初の決定で、スペインは子供の特定の要件を決めておらず、子供が通常教育に継続できるようにするための合理的な措置を行なっていない。
◯オーストラリア
(参考)https://www.ohchr.org/en/countries/australia
・国民障害保険制度の設立は、間違いなく、オーストラリアがこれまでに障害者を支援するために行った最も重要な投資である
・委員会の専門家は、国家の障害者支援を監督するシステムがないため、年間約 500 億オーストラリア ドルが障害に費やされたが、どのように貢献したかを評価することは難しいと評価した
◯アメリカ
(参考)https://www.ohchr.org/en/countries/united-states-america
・LGBT(特に有色人種のLGBT)の人々が、不当に差別されていると、バイデン政権に強化を要請した
・民族的マイノリティ(先住民族など、特に低所得者の性と健康、および権利)に対する不当な影響について深く懸念している
・安全で合法的な中絶と質の高い中絶後のケアへのアクセスがない
・約 4,000 万人が貧困生活し、1,850 万人が極度の貧困生活し、530 万人が絶対的貧困の状態で生活している。経済協力開発機構 (OECD) の中で若者の貧困率が最も高く、乳児死亡率が最も高い国である
◯フィンランド
(参考)https://www.ohchr.org/en/countries/finland
・サーミ人の権利が十分に守られていないので、保護するための措置を求める
・コロナウイルスによって、女性を始めとしたマイノリティに対するヘイトスピーチや、犯罪率の増加について対処を求める
◯大韓民国
(参考)https://www.ohchr.org/en/countries/republic-korea
・約 16,000 人の障害者がまだ後見制度の下にあり、後見制度の廃止に進展が見られないことを深く懸念する
・障害者の継続的に施設収容されている。地域でもっと生きれるよう自立生活支援のロードマップを見直すことを求める
◯ニュージーランド
(参考)https://www.ohchr.org/en/countries/new-zealand
・マオリの人々の貧困レベルが不釣り合いに高いため、対処すること。
・障害のある人々が、手頃な値段で利用できる住居の供給が不十分
◯キューバ
(参考)https://www.ohchr.org/en/countries/cuba
・子どもの権利委員会は、99%の子供が病院で出産し、出生届を出しており、キューバは世界で医療的な制度が最も優れていると評価。
・予算の 69% が、子どもの包括的な保護、特に公衆衛生、教育、社会扶助と安全に非常に大きな影響を与える分野に割り当てら、国民健康保険制度は無料で普遍的なものと評価。
・キューバ憲法では、「子どもの最善の利益の原則」を憲法に追加したことを評価。
・キューバでは、障害のある子供と青少年の特別なケアのためのシステムがインクルーシブ教育を推進しており、通常学級の中にいる障害者の数が、年齢が上がるにつれて増加している。
・2020年、キューバは国連教育科学文化機関の「世界教育監査報告書」で、包括的な質の高い教育と「子供を教育するプログラム」を認められた。
・キューバのすべての小学校の教師陣には言語療法士が在籍している。スタッフの中には教育精神科の医師もおり、幼児期のケアも万全だった。
・障害者を特に重視しており、障害者向けの一般プログラムと専門プログラムの両方を運営する 400 の学校を設立している。
・キューバの障害者は、教育、スポーツ、文化、健康、雇用、社会保障に完全にアクセスができ、キューバは、この分野におけるベストな国の事例となるべきである。
引用)子どもの権利委員会の専門家がキューバの医療制度を称賛し、青少年のための正義について尋ねる
ohchr.org/en/press-releases/2022/05/experts-committee-rights-child-commend-cubas-health-system-and-ask-about
▶︎まとめ
今回の勧告は、日本で大きな影響を与えたが、諸外国のレポートを見ると多かれ少なかれ厳しく評価されている傾向が見えました。
特に、日本は「障害者という存在が不利益を被る理由」として、教育制度が批判されましたが、他の国では、
・LGBTや少数派の民族への権利が保障されていない
・少数派の人種に対して十分な補償がない
・障害者を地域社会から隔離している
などの要因が「障害者という存在が不利益を被る理由」として挙げられていました。
インクルーシブ教育は、障害者の権利を向上するための有効なため、日本に求められましたが、他国は、その国独自の改善点があり、どの国が一番良い政策を行なっているとは言えない、というのが感想です。
(そもそもインクルーシブ教育自体に言及されている国自体も少なかった)
その中で、特にクローズアップされていた国がキューバです。
元々医療大国であることは有名ですが、インクルーシブ教育を推進するために、憲法・法律・制度・予算・人材教育が高いレベルで設定されており、他の国の見本になるような国のようです。
正直、私の中ではあまり注目していなかった国なので、今後もう少し調べていきたいと思います。
ここから先は
凸凹マガジン 〜教育・福祉・医療の発達支援の現場をつなげる〜
こども発達支援研究会代表理事 前田智行のメールマガジンです。 ・小学校で教員をしたり ・放デイ・児発で幼児〜高校生に療育・学習支援をした…
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?