大羊春秋~羊務執筆者党史~(14)
この「大羊春秋」(だいようしゅんじゅう)とは、私 前多昭彦が主宰していた同人誌サークル「羊務執筆者党」(ようむしっぴつしゃとう・略称SSP)の活動を振り返る「回顧録」です。
GELBE SONNE 4
まるでそれが当然のことのように『GELBE SONNE 4』の製作に入りました。
詳細は次の通り。
『GELBE SONNE 4』(ゲルベゾンネ フィーア)
◎入稿日:平成2(1990)年11月20日(火) ※領収証の日付による。
◎発行日:平成2(1989)年12月24日(月)
◎B5判・32頁・本文用紙70kg・無線綴じ・100部印刷(見本誌10部)
◎頒価350円
◎表紙:ミラーコート・2色刷り
◎ジャンル:男性向
◎内容(ほぼ掲載順)
・表紙&表紙4イラスト/七条乱雄斎
・表紙2カット/とよまえ♡しょう子
・中表紙イラスト/七条乱雄斎
・目次カット/七条乱雄斎
・アニパロ漫画「Witch Hunt」(8頁)七条乱雄斎
・アニパロイラスト/真慧多昭彦(3点)
・アニパロイラスト/七条乱雄斎(2点)
・オリジナルイラスト/吉野ヶ里伊籍(2点)
・アニパロイラスト/事故り漫談(1点)
・アニパロ漫画「ボーグマン子」(3頁)とよまえ♡しょう子
・♥林由美香インタビュー(6頁)
※インタビュアー:豊川宗憲、写真撮影:真慧多昭彦
・「Vorstellung der Schreiber und Redakteure」(1頁)※編集後記に該当。
・表紙3カット/監督市川崑
印刷所は私の意向で「しまや出版」(←“部”が取れた)に戻しました。
エロ同人誌を刷ったということで迷惑をかけないように、今号でも「南京応天府印刷」と表記して印刷所名を伏せてあります。
それにしても、入稿日がほぼ1ヶ月前という早さに驚きます。昨今はコミケ数日前の入稿があるなんていう話を聞きますから隔世の感があります。
今号は印刷部数を150もしくは200部に増やそうという意見がM本より出されましたが、慎重論の私の判断で却下されました。
結果的にこの判断に救われたカタチとなります。
というのも、2ヶ月後の平成3(1991)年2月、都内の漫画専門店で委託頒布されていた男性向ジャンルの同人誌が警察に摘発される事件が発生します。そしてこれ以後、無修正の同人誌は頒布できなくなったからです。
同人誌摘発事件については次の第14回で述べます。
七条乱雄斎による「Witch Hunt」は「魔女の宅急便」のキキを題材とした作品です。「漫画」としましたが絵本のような構成になっています。
私は相変わらずアニパロイラストで「世界名作劇場『私のあしながおじさん』」(1990.1.14~12.23・全40話)の主人公のジュディ・アボットと「ふしぎの海のナディア」(1990.4.13~1991.4.12・全39話)のグランディス・グランバァを描いています。
事故り漫談とはM本の知人という縁による寄稿で、辰巳出版発行の成人向漫画雑誌『ペンギンクラブ』の読者投稿コーナーの常連、いわゆる“ハガキ職人”という「SSP」の中では異色の存在でした。
この『GELBE SONNE 4』で、いや、もしかしたら男性向同人誌界で異色なのは豊川宗憲ことA見による「♥林由美香インタビュー」でしょう。
これはA見の希望によるもので、広い人脈を持つ彼のツテにより実現したAV女優「林由美香」(はやし ゆみか)のインタビューです。
『GELBE SONNE 4』の製作開始時、A見から林由美香のインタビューを提案された時は驚きました。当時、アニメの制作スタッフや声優のものはありましたが、それらとは世界が全くと言って良いほど違うAV女優を、果たして「SSP」の様な同人誌サークルの立場でできるのか?
私は懐疑的…… というより不安でなりませんでした。
収録は平成2(1990)年10月29日(月)の夜に、東急文化会館(現在の渋谷ヒカリエ)脇の路地に面する新免ビルにあった喫茶店(住所は渋谷2丁目22番地)の2階席において行わました。
私は写真撮影を担当しましたが緊張しまくりでした。というのも林由美香よりも、立ち会ったマネージャーの門田という男性の圧を感じたからです。外見は少々“や”の付く自由業な方でした。
インタビュー開始前にA見が先方に名刺を渡したのですが、その名刺を事前に見せてもらったところ、「羊務執筆者党」と記されていて驚愕しました。さすがに同人誌サークルにすぎない「SSP」ではマズイと言いましたが、A見は意に介する様子はありませんでした。
インタビュー後に写真撮影となった訳ですが、A見に「どこか良い場所はないか」と尋ねられ咄嗟に答えたのが、東邦生命ビル(現 渋谷クロスタワー)前の広場です。
とにかく緊張していたうえ元々写真撮影は得意ではないので、彼女には申し訳無いばかりの写真となりました。夜の暗闇を背景に黒髪の彼女を撮るという児戯に等しいもので、今でも写真を見ると恥ずかしくなります。
後日、写真週刊誌『FRIDAY』12月21日号にて彼女のAV引退宣言がなされたことから、急遽、A見作成した「衝撃特報!林由美香引退を決意す」と題したB5判のプリントを本誌に挟み込み頒布しました。
今号も読者アンケートを挟み込んで頒布しています。B5判片面で設問をはじめ全て私が作成しました。
余白があり、また文章だけでは味気無いと思ったので右下にカットを入れましたが、これは七条乱雄斎によるものです。
題材は「ふしぎの海のナディア」もナディアなのですが…… 彼女は褐色の肌なので、それを表現するため肌にスクリーントーンが貼られていなければなりませんが、それがありません。人の作品に勝手に手を加えることはできませんし、かと言ってスケジュール上リテイクを出す訳にもいかず、私はそのまま使用しました。
後日、七条にこの件について尋ねたところ、トーンを貼るのは私の役目だと言われ呆れました。
スクリーントーン貼りはその作品の完成度を左右する重要な工程ですから当然、それは執筆者自身がやるものです。
ところが七条にそのような考えは無く、トーン貼りは苦痛だとして嫌っていました。
当時、私は彼のこうした態度、要はわがままには少なからず不満を抱いていました。
初頒布は「コミックマーケット39」です。
【コミックマーケット39】
◎開催日:平成2(1990)年12月23日(日)・24日(月)
◎会場:千葉県千葉市「幕張メッセ」
◎配置場所:24日「C-64b」
◎売り子:I上・M本・真慧多昭彦(筆者)
搬入数は100部で頒布結果は56部でした。※印刷所からの直接搬入。
委託頒布も行っています。 ※《》内は委託部数
◎制服くらぶ《10》7部
※A見主宰のサークル。
◎ぺるぱん《20》18部
※とよまえ♡しょう子主宰のサークル。
締めて81冊、委託頒布の力があったとは言えこの数字は「SSP」にとり最高記録です。
在庫をほとんど抱えずに済むこの結果は非常に幸運でした。というのも前述の通り、この後、男性向同人誌が摘発され、それを機に無修正の今号は頒布できなくなったからです。
ちなみに、この「コミックマーケット39」でも、カタログの「まんがレポート」の『その他』に私が描いた「SSP」の作品が載りました。現物が残っていないのが残念です。
最終的には「まんがレポート」に「SSP」は4回採用されました。当時は“まんレポ”に載ると頒布成績が伸びるのではないか、などと考えていましたが、実際にはそのようなことはありませんでした。
『GELBE SONNE 2』と同様に今号も羅美亜企画から商業誌への掲載依頼があり諒承しましたが、摘発事件により立ち消えとなってしまいました。
今号は私の作品が載った最後の『GELBE SONNE』です。
また「SSP」においては最後の無修正本であり、その意味では区切りの本と言えます。
「コミックマーケット39」で私は、会場内の雑踏で財布を落とすという大失態をやらかしました。落としてすぐに気づいて振り返ったのですが、もう跡形もありませんでした。結構な額が入っていたので拾った者は大層喜んだでしょう。
《第14回「GELBE SONNE 4」おわり》
※文中敬称略
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