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大羊春秋~羊務執筆者党史~ 第28回

この「大羊春秋」(だいようしゅんじゅう)とは、私 前多昭彦が主宰していた同人誌サークル「羊務執筆者党」(ようむしっぴつしゃとう・略称SSP)の活動を振り返る「回顧録」です。

GELBE SONNE 7・その4(最終回)

平成6(1994)年前半のある日、近所にある個人経営と思われる古書店で、『GELBE SONNE 7』の「海賊版」を見つけました。
「海賊版」とは製作者に無断で複製し販売されている本です。
知らぬふりをしてレジに居る男性(おそらく店主)に、この本は何かと尋ねたら「漫画家の“タマゴ”とかが描いているらしい。そういう柔らかい内容(つまりエロ)の方が売れて良いらしい」という旨の答えが返ってきました。
「需要があるから供給がある」という訳で本来は買ってはいけないのですが、気になったのでそれを購入しました。価格は1800円です。

当時、一般の古書店などで売られる同人誌の「海賊版」は同人誌界で問題になっていました。
いったいどういった所が出しているのかよく分からず、今日で言う反社会的勢力の資金源になっているという噂もありました。

購入した「海賊版」から次のことが分かります。
(1)本文構成は3、4誌の合本で本の厚さは1cmほど。ちなみに本誌は弥舞秀人の同人誌などとの合本。
(2)背表紙の下方にアルファベットとアラビア数字を組合せた番号が縦書きで記されている。この「海賊版」の番号は「G0605」。
(3)商業誌から転載したと思われる「成年コミック」マークが表紙・背表紙・裏表紙に記載されている。
(4)印刷はインクの出がかすれており質は悪い。

『GELBE SONNE 7』はメインの扱いで表紙・裏表紙は勿論、本文は目次や編集後記、さらには奥付までもが全頁転載されています。連絡先がそのまま載っているのにはゾッとしました。
ただ、これによる実害は無かったと思います。もし、あったとしてもどこに相談すればよいのか分かりません。また当時は不謹慎にも「これでうちも有名になった」と党内で話すなど、問題意識があまりありませんでした。
よって、次の『GELBE SONNE 8』に「海賊版」についての意見表明の載せたのみで、この件については特に行動を起こしませんでした。

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「SSP」の活動を振り返る記事は、昨年10月に閉鎖した「羊務執筆者党ブログ」に「羊務執筆者党アーカイブス」と題して平成20(2008)年1月から投降していました。ただこの投降は、私の“筆不精”(key不精?)が祟って中断してしまい『GELBE SONNE』の1~6について語ったのみでした。

そのため、この「大羊春秋~羊務執筆者党史~」を始めるにあたり、今回の『GELBE SONNE 7』(ゲルベゾンネ ジーベン)についてはなんとしても語ろうと決めていました。
この決心をしたもう一つの理由は、自ら申し出た約束を破るというデタラメな事をやった者がいたのを公にし記録しておくのと、私自身の未熟さ、愚かさに対する自戒もあります。

「コミックマーケット45」の落選はいまだに非常に残念でなりません。もしこの「コミケ」に当選していたら、「姫ちゃん本」の勢いそのままで、その後の「SSP」の活動は大きく違ったものになっていたでしょう。
本当に“運”がありませんでした。
しかし「運も実力のうち」という言葉があります。
また、「組織というものはそのナンバーワンの器量以上には成長しない」と言われます。
となると、私の実力では「羊務執筆者党」というサークルは、このあたりの活動規模が限界だったのかもしれません。

「コミックマーケット45」落選という状況の現出により、『GELBE SONNE 7』は印刷部数を減らさなければならないのは明らかでした。にもかかわらず、初期の決定通り1500部としたのは愚かとしか言いようがありません。
これは前号の成功による慢心から情勢が読めていなかったのは明らかです。

『孫子』「謀攻篇」に「彼を知りて己を知れば、百戦して殆うからず。彼を知らずして己を知れば、一戦一負す。彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に必ず殆うし。」(知彼知己者、百戦不殆、不知彼而知己、一戦一負、不知彼不知己、毎戦必殆、)とあります。
意味は「敵情を知って身方の事情も知っておれば、百たび戦っても危険が無く、敵情を知らないで身方の事情を知っていれば、勝ったり負けたりし、敵情を知らず身方の事情も知らないのでは、戦うたびにきまって危険だ」です。

己(の置かれた状況)を知れば…… とあるように言わば「自己分析」ができていなかったのですから、負け戦のごとく失敗するのは当たり前でしょう。

同人誌活動は楽しむものであるのは今さら述べるまでもありません。
しかし、『GELBE SONNE 7』の同人誌即売会での頒布は、「早く在庫をなくさないと……」といった焦燥感ばかりで、気持ちに余裕が無く楽しめませんでした。
よって本誌については楽しさは少なく苦い思い出が多いです。

「まーっがーんっっばらばばらばばんっばばん」より。
『GELBE SONNE 7』の海賊版の表紙。
同じく海賊版の裏表紙。

《第28回「GELBE SONNE 7・その4」おわり》

※文中敬称略

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