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大羊春秋~羊務執筆者党史~ 第34回
この「大羊春秋」(だいようしゅんじゅう)とは、私 前多昭彦が主宰していた同人誌サークル「羊務執筆者党」(ようむしっぴつしゃとう・略称SSP)の活動を振り返る「回顧録」です。
GELBE SONNE 9〈後編〉
「SSP」の活動を始めてから私は4回の引越しを経験していますが、「引越し貧乏」とはよく言ったもので、やはりどうしてもその都度に物を減らさざるをえません。さらに今世紀に入ってから「SSP」は休眠状態が長く続いたため、その際に“もう必要が無い物”として多くの物を処分してしまいました。
この『GELBE SONNE 9』(ゲルベゾンネ ノイン)に関連する書類なども例外ではありません。
実は、記述できないのは前述の理由だけではありません。
資料が初めから存在しない、つまり記録をとっていないのです。
私は決して“筆まめ”ではありませんが、それでも“記録魔”のようなところがあり、様々な事柄を記録しています。例えば、これまで「SSP」では本を進呈した方を全て記録に留めています。
ところが、『GELBE SONNE 9』は進呈者の記録がありません。他には見本誌の部数が不明です。記録があったとしても、とり方が乱雑で精度を著しく欠きます。
これは「第32回『GELBE SONNE 9〈前編〉』」で述べました通り、私に同人誌活動を行う余裕が無くなっていたと同時に、熱意も失われつつあった証拠です。
何故このような状況に陥ったのか、四半世紀以上が経った今では私自身でも分かりません。
本誌を「天地無用!魎皇鬼Only本」としたのは私の強い希望でもありました。
勿論、このアニメを気に入っていたのも理由ですが、それに伴い主宰者の“好み”という意思を強く押し出し、「羊務執筆者党」が私のサークルであることを自分自身で再確認し、また対外的にはこの点を改めて認識してもらう狙いがありました。
このような考えに至った理由の一つは、私が平成3(1991)年4月発行の『四面楚歌 -第弐号-』を最後に原稿を描かなくなっていたことがあります。
映画製作に譬えるならばプロデューサー兼監督という立場には不安を覚え、俳優として出演しない、つまり作品発表(原稿執筆)をしない自分に劣等感や、周りのメンバーに対する申し訳なさが常にありました。
このようなコンプレックスの裏返しが、自分の好みを強く出すという行動をとらせました。
「天地無用!魎皇鬼Only本」とするために、未見のメンバーにはダビングしたVHSテープを、他にはアニメショップで購入した設定資料のコピーや、ドラマCDを録音したカセットテープを送付しました。
しかし、結果は「笛吹けど踊らず」でした。まあ、私の吹き方が下手だったのかもしれませんが…… メインライターの握手0.5秒と大島洸一がまるで示し合わせたかのように、本誌には全く参加する素振りを見せなかったのが残念でなりません。
当時、私が理想とする「アルプス興業」というサークルがありました。『LOOK OUT』といういわゆる“よろず本”と呼ばれる男性向ジャンルの本を発行する大手サークルで、コミケでは常に壁際に配置され、購入希望者の長蛇の列ができていました。余談ですが、『GELBE SONNE』の編集後記の形式はこの
『LOOK OUT』のものを意識しています。
ゲスト執筆者の一人である岩崎たつやは、この『LOOK OUT』にも寄稿していました。
『GELBE SONNE 9』と『LOOK OUT』は同じ「コミックマーケット48」での発行を目差していたため、当然、原稿執筆の日程がかちあいます。
なんとしても彼の原稿が欲しい私は、「アルプス興業」よりも募集要項が早く決定している「SSP」の原稿を早め(5月位)に渡してもらうスケージュールで執筆の諒承を得ました。
そして「コミケ48」でいつも通り『LOOK OUT』の最新刊を購入した私は、掲載されていた岩崎の作品を見て目を疑いました。『GELBE SONNE 9』より『LOOK OUT』の掲載作の方が遙かにレベルが高いのです。
実は「アルプス興業」は寄稿すると原稿料が支払われたといいます。そのうえ先方は行列ができる大手サークル、人の情として「SSP」の原稿より力が入るのは当然でしょう。
とは言うものの、同人誌活動は意気に感じた仲間同士で楽しく行うものとばかり思っていた私にとり、金銭と知名度という要素の大きさで差別化される事実という、言わば社会的現実をまざまざと思い知らされ大変ショックを受けました。
同人誌活動に対する考え方が変わった、というより変えざるをえなかった一件です。
本誌の製作で私はまたもや失策を犯しました。
具体的に述べると執筆者の配置ミスです。
パソコンはMacを購入しCGを描いているという自己アピールを信じ、表紙はI上に依頼したのですが、結果は期待を大きく裏切るものでした。
表紙のレベルが低いと即売会と書店での委託頒布において手に取ってもらえないため、本文が良くても購入してもらえません。
よって、プロのみずきひとしによる中表紙と漫画、同じくプロの岡村杜巳によるイラストが目に触れられず、この二人の作品が活かされないことになりました。
このため『GELBE SONNE 9』の頒布成績は全体的に低調でした。
本誌が頒布を終えるまで丸2年かかっている所以です
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《第34回「GELBE SONNE 9〈後編〉」おわり》
※文中敬称略
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