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大羊春秋~羊務執筆者党史~ 第29回

この「大羊春秋」(だいようしゅんじゅう)とは、私 前多昭彦が主宰していた同人誌サークル「羊務執筆者党」(ようむしっぴつしゃとう・略称SSP)の活動を振り返る「回顧録」です。

GELBE SONNE 8〈前編〉

『GELBE SONNE 7』(ゲルベゾンネ ジーベン)の頒布に追われながらも、夏の「コミックマーケット46」に向けて『GELBE SONNE 8』が製作されます。

当初は本誌も「Only本」になる予定でした。題材の最有力候補として「GS美神」が挙がっていましたが今ひとつ志気が上がらず、結局、各執筆者がそれぞれ好きな題材で描く「よろず本」となりました。

詳細は次の通り。

『GELBE SONNE 8』の表紙と裏表紙。

『GELBE SONNE 8』(ゲルベゾンネ アハト)
◎入稿日:平成6(1994)年7月13日(水)  ※領収証の日付による。
◎発行日:平成6(1994)年8月8日(月)
◎B5判・80頁・本文用紙90kg・無線綴じ・600部印刷(見本誌18部)
◎頒価700円
◎表紙:コート紙・フルカラー
◎ジャンル:男性向
◎内容
・表紙&表紙4イラスト/大島洸一
・中表紙イラスト/あかつきにゃおみ
・目次&「海賊版について」真慧多昭彦(筆者)
・パロディ漫画「国府田マリ子様へ捧ぐ」(10頁)大島洸一
・パロディ漫画「朝食はしぼりたてのミルクで」(6頁)握手0.5秒
・イラスト/握手0.5秒〈再録〉
・イラスト/岩崎たつや(2点)
・イラスト/閑古鳥(5点)
・パロディ漫画「ブレイブアップだ冴島十三!」(12頁)まるんべれぃ
・イラスト/穂南のの
・コラム「オタク的徒然草 その2」(2頁)豊川宗憲
・パロディ漫画「二人はなかよし♡」(11頁)九鬼の岩蔵亮一
・イラスト/穂南のの
・パロディ漫画「花道の夢」(11頁)神家処奈他
・イラスト/神家処奈他(2点)
・イラスト/穂南のの
・イラスト/江田島平八(2点)
・4コマ漫画「真紅い頭巾の女」(3頁)あかつきにゃおみ
・「Vorstellung der Schreiber und Redakteure」(3頁)※編集後記に該当。

今号でも新たな執筆者が参加しました。
◎閑古鳥
M本の紹介での参加です。
ところで、執筆者からの原稿の受け取りは多くの場合、郵便や宅配便によるものでした。原稿は折り目がつくとそれが印刷に出てしまううえ、スクリーントーン剥離の原因にもなるので、暖ボールなどを同封して折り曲がらないようにします。

ある日、閑古鳥から原稿が郵送されて来たのですが、私が住むアパートの小さな集合ポストに、丸められて完全に収まっていたのです。
私はギョッとしてすぐ開封しましたが、幸いなことに折り目などはついていませんでした。
さらに原稿は版下用紙ではなくトンボが記されていない、適当な大きさの普通の白い紙に描かれていました。
これらにキレた私は、本人へ注意する手紙を出したのです。いや、注意というより、怒りに任せて詰った文です。
後日、先方から私のこの態度を非難する返書が届きました。
当然、これにより言わば国交断絶です。

今は歳をとりやわらぎましたが、当時の私は(26歳)、物事に対し原理原則にこだわり「こうあるべきなんだ」という思いが強く、故に融通が利かないところがありました。
そのため、この原稿の送付方法などが許せなかったのです。
しかし、私のこの態度は紹介してくれたM本の顔をつぶすことになりました。彼には大変申し訳無いことをしてしまいました。

◎岩崎たつや
平成6(1994)年4月10日に開催された同人誌即売会「COMIC CITY in 東京・晴海32」に「SSP」が参加した際、彼のサークル「御祝堂」が隣だったことがキッカケで交流が生まれました。
映画やアニメなどを観る(視る)意欲が旺盛な方です。「観(視)なければ分からない」という考えの彼と接することで、どちらかと言うとアニメなどに対し“食わず嫌い”が多かった私の意識は変化しました。これによりアニメや漫画などについて語り合うことの楽しさ大切さに気付き、「SSP」では「お茶会」と称して、新宿の喫茶店に集まり語り合う機会を数回持っています。また、この流れにより視たのが、次号の題材となったアニメ「天地無用!魎皇鬼」です。

この頃、同人誌製作において私は「再掲」を嫌っていました。
同人誌即売会でお気に入りのサークルの新刊を買いに行った際、その中に既に持っている本からの再掲があり、がっかりしたという事が幾度かあったからです。
そのため、自分が作る同人誌を買ってくれた人にはそのような思いをさせたくないという考えからでした。
ところが今号では原稿の数が足りず、『GELBE SONNE 6』から握手0.5秒によるイラストを1点「再掲」することになってしまいました。
これには非常に複雑な思いだったのを憶えています。自分を納得させるのに時間がかかりました。

塩臣陣馬ことA藤の厚意で写植が本誌でも使われています。ただし、大島洸一及び握手0.5秒の漫画のネーム、豊川宗憲のコラムはA見によるワープロとなっています。何故このような変則的な写植使用になったのかは不明です。

なお、大島洸一の漫画タイトルに間違いがあります。
  ☓国府田マリ子
  ◯國府田マリ子
です。
これは本作のネームのワープロ打ちをしたA見の間違いですが、彼は声優については知らないため、事前に確認をしなかった私の責任です。

本誌では表紙でイラストとタイトル(誌名)を別版にする「追い刷り」が行われました。これは「SSP」では初めてのことです。
恥ずかしながら私はこの印刷技法についてのノウハウが無かったため、表紙の先行入稿の際、これに詳しいK藤と大島洸一に同行してもらいました。

印刷所は東京都千代田区にある「日光企画」です。今号でも男性向同人誌ということで迷惑がかからないように、実名公表を避けて「東京龍原府印刷」と表記しています。

4頁目には目次の他に、『GELBE SONNE 7』の「海賊版」が出回っていることから「海賊版について」と題した意見文が掲載されました。
長文ですが全文掲載します
▼引用開始▼
 この度は羊務執筆者党(略称SSP)の『GELBE SONNE 8』を御購入戴き誠にありがとうございます。
 さて、現在同人誌界では、所謂「海賊版」と呼ばれる物が大変な問題となっています。
 皆様も御存知かと思いますが「海賊版」とは、同人誌即売会などで頒布されていた同人誌を、製作者以外の者が無断で複製し、古書店やビデオソフト取扱い店を中心に販売されている刊行物です。
 これは著作権法違反という、非常に悪質な犯罪行為で、特に当ジャンルの同人誌の被害が顕著です。
 実は、SSPの『GELBE SONNE 7』(平成5年12月30日発行)の「海賊版」が、筆者の住むアパートの近所にある古書店で販売されているのを、6月に見付けました。
 恥ずかしながらこれまで「海賊版」問題は、殆ど感心が無かったのですが、実際に被害に遭うと、これほど不快な事はありません。自己表現の場としてせっかく作った同人誌が、何者かによって悪用されているのには、驚愕且つ憤慨します。
 大変な抵抗感があったのですが、実情を知るために敢えて1冊購入しました。内容は、漫画・イラストの全作品はおろか奥付までもが転載されていました。自分の意志にかかわり無く、全く知らないところで、しかも同人誌界とは関係の無い不特定多数に、住所などが流布されている事実を知った時は、正直な話、少々恐怖しました。
 「海賊版」は、同人誌活動への誤解を招く存在以外の何物でもありません。
 また、平成3年に「有害コミック規制」に関連して始まった、同人誌に対する「ワイセツ図画問題」は、昨今鎮静化した感がありますが、現在でも同人誌即売会などに当局から厳重注意がなされており、依然として予断を許さない状況です。「海賊版」はこの問題に悪影響を与え、同人誌界全体の存在を危うくするものです。
 販売していた古書店主が、本の内容を「同人誌からの転載」であるのを知っていることや、同じ物が山口県でも販売されていたという情報から見て、「海賊版」の製作が組織的に行われ、そして、全国規模で流通しているということが窺えます。
 組織的に、また、法的な後ろ楯も弱い自主出版である同人誌発行形態の盲点を利用した犯罪です。そのため残念ながら対応、つまり排除が困難で、被害サークルはなすすべが無いというのが現状です。
 しかし、このまま事態を坐視する訳にはいきません。現に「海賊版同人誌被害サークル連絡会(仮)」が結成され、情報収集を行っているとのことです。なお、コミックマーケット45のカタログ628頁に当会の告示が掲載されています。
言うまでも無く、同人誌界は送り手(製作者)、受け手(読者)に関係無く参加者全員によって成り立っています。そのため、この問題を「対岸の火事」と見ないで、各個人が真剣に受止め、そして対応してください。
 どの様な小さなことでも構いません。具体的には、もし知っているサークルが被害に遭っているのを見付けたら、そのことを当事サークルに知らせるという情報提供がります。そして、最も大切なのは、「海賊版」を絶対に購入しないということです。需要があるから供給があるということを、くれぐれも忘れないでください。
羊務執筆者党 総裁・真慧多昭彦
▲引用終了▲

同人誌の「海賊版」については「第27回」でも述べましたが、ここで言う形態の「海賊版」は現在ではもう姿を消したと思われます。
ただ今度は、インターネット上への無断アップロードが問題になっています。
同人誌界はいつになっても多事多難です。

『GELBE SONNE 8』の中表紙。
「国府田マリ子様へ捧ぐ」より。

《第29回「GELBE SONNE 8〈前編〉」おわり》

※文中敬称略

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