合法メンヘラ女の軌跡1
〈はじめに〉
酒と根拠のない自信、無駄なプライドは生きる上で不要である。そして、人間は決心すれば生きながらにして生まれ変わることができる。そう、悟るようになった私の体験をご紹介する。
一貫して清潔感に欠けるうえ、卑屈で暗く失礼極まりない内容になることを許してほしい。しかし、これはまごうことなく私が歩んだ道標であるのだ。また、脳卒中になった者が立ち向かうことになるだろう道の話でもある。是非、一読してほしい。そして今、この瞬間にかつての私と同じような境遇に身を置くご本人様とご家族の支えになれたら幸いである。以下、私の道標を当時の私が欲しかった情報や知識と合わせて書き連ねていく。
〈発症〉
2021年1月、初雪が降った次の日のことだった。コロナウイルス感染症のパンデミックの最中、ホテルで友人と飲酒をしていた私に激雷が落ちる。ボトルワインが尽きるころ、「顔がなんか変だよ。」と友人が私に声をかけた。生まれてから27年間、容姿が悩みの種になったことはない。母親から受け継いだ平行二重のアーモンドアイ、父親譲りの小さな顔、くびれと胸と尻が揃った健康的な身体つき。容姿以外取柄がないのにも関わらず人一倍にプライドが高かった私にとって、先の友人の言葉は琴線に触れるものであった。そして、(この私の顔が変なわけがないろ。)と、腹立たしさに伴い頭に意識が上っていつも以上に酒が回っていることに気づく。(空きっ腹にワインを流したからかな。)この程度にしか思いもしなかった。しかし、違うのだ。この間にも私の脳は刻一刻と死に絶えていっていたのだ。(とにかく頭が痛い。酔っているからひとまず寝よう。起きるころには良くなっている。)私は大学時代に居酒屋でアルバイトをしていた。この時はバイト仲間と新宿で朝まで飲んでいた頃に得た教訓に従った。
――起きた。しかし、目覚めても依然といて頭は痛いし、気分も悪い。(用をたして吐けばいいか。)顔だけで中身がない元居酒屋店員女の思考回路は単純だ。しかし、吐くためにトイレに行きたいのに足を思うように動かせない。友人の支えでやっとの思いでトイレに辿り着くも、間に合わず失禁をしてしまった。また、全身の異様な重さで吐くこともできなかった。(これは酔いじゃないかも。やばいやつなのでは…。)ここでようやく看護学部で得た知識を運用する。紹介が遅れたが私は4年制大学の看護学部を卒業しながらも看護師国家試験に合格できず、国試浪人の傍ら事務職に就いた女である。そんな女のレベルは前述のとおりだ。脳梗塞の初期症状には歩行がままならない・顔が崩れるといったものがある。そうだ、私には教科書どおりの初期症状が現れていたのだ。しかし、脳卒中は比較的高齢者の者が起こす疾患だ。(20代の私が起こすわけがない。なんだれ。)朦朧としながらもやけに冷静な思考の中で「分かんないけどたぶんこれやばいから救急車読んでもらっていい?」と友人に声をかけた。そう、己の頭に散々ダメージを与えた末にようやく取るべき対応を取ったのだ。救急車到着までの時間は体感30分ほど。コロナパンデミック下であるのだからこれは相当早かったはずだ。(頭痛がする、吐き気がある、と主訴がある患者をこんなに雑に運ぶのか。)と内心舌を打ちながらありがたく運んでいただく。救急車の走行もかなり振動が激しく決して乗り心地はいいものではなかった。