『きみの色』を観たら劇中歌が超マニアックでぶったまげた話
『劇場版けいおん!』『たまこラブストーリー』『リズと青い鳥』『聲の形』の山田尚子監督最新作であるアニメ映画『きみの色』。
もう観られただろうか。
上記の作品は全て映画館で鑑賞していて本作も観る気はあったのだが、気づけば8/30の公開日はとっく過ぎていた。週明けの月曜日に同じく新作映画の『サユリ』とハシゴするのに時間的都合が良かったので、いい機会だと思い軽い気持ちで観ることにした。
そうしたら何ということでしょう。
めちゃくちゃいい作品じゃないですかこれ!
特に物語後半の「文化祭ライブのシーン」で主人公達が演奏するオリジナル曲が、現代の高校生が作ったにしてはマイナーかつマニアックな曲調で、
音楽ものアニメとしてもかなり異端な音楽性にすっかりやられてしまった。
これについて言及している人もあんまり居ないみたいなので、本稿はそこを重点的に語っていこうと思う。
※ストーリーのネタバレはしないよう注意しますが、劇中で演奏される歌について触れているので、そこの所ご理解の上でお読み下さい。
まずは四の五の言わずこの曲を聴いてほしい。
この『反省文〜善きもの美しきもの真実なるもの〜』は主人公の高校生3人が結成したバンド「しろねこ堂」のオリジナル曲で、劇中では文化祭の1曲目に演奏されている。
分かる人には分かると思うが、編曲アレンジが物凄くニュー・オーダー風だ。
もっと言えばブルー・マンデーっぽい。
ね?
特に出だしのバスドラムやシンセベースの感じ。メロウなメロディーも何だかそれっぽい。
なぜ令和の今 ニュー・オーダーのブルー・マンデー!?
いやめちゃくちゃ良い曲だしいいんだけど!
これが山田尚子監督の趣味なのか音楽担当の牛尾憲輔氏によるものなのか分からないが、制作スタッフの中心にUKロックやUKテクノが好きな人間が居る事は、Underworldの『Born Slippy Nuxx』が劇中に挿入される事からも分かる。しかも何かゆるふわなアレンジバージョンで!
ニュー・オーダーを知らない人に軽く説明すると、80年代のイギリスで活躍したロックバンドで、パンク・ロックと電子音楽を融合させた「ニュー・ウェイヴ」というジャンルの代表的存在と言われている。
映画『トレインスポッティング』でニュー・オーダーの『Temptation』という曲が使われているので、聴いた事がある人も多いのではないか?
私は世代ではないのでニュー・オーダーについてはあまり詳しくないが、電気グルーヴの石野卓球氏が学生時代にこのブルー・マンデーを聴いて衝撃を受け、テクノ音楽を始めるきっかけになったというのは有名な話である。
また、3曲目に演奏する『水金地火木土天アーメン』。これも聴いてほしい。
主人公のトツ子が宇宙に関する授業からインスピレーションを受けた、電波ソング的歌詞がインパクト大な一曲だ。
これまた相対性理論やパスピエを思わせる編曲だ。
どちらも日本のJ-POPとしては王道からちょっと外れた、ニュー・ウェイヴの香りがするシンセポップバンドである。
今までの音楽アニメでこういうジャンルのサウンドをやるバンドはあまり見たことがなかったので、かなり衝撃的だったし新しいなと思った。
鑑賞後にサントラCDをポチろうとしたらAmazonは既に売り切れ。他の通販サイトも軒並み品切れ状態だった。
みんな考えることは同じらしい。
Amazonさんメガジャケ付きCD再販を何卒お願いします。
そしてしろねこ堂のバンド編成もだいぶおかしい。
きみちゃんのギターボーカルは分かる。トツ子のキーボードもまあ。
ルイはなんとテルミンである。
ギター・キーボード・テルミンのバンドは間違いなくアニメ史上初であろう。
ルイはPCで作曲もできる子なので主な編曲担当はきっと彼なんだろう。
そうなるとしろねこ堂(書店の方)でルイが漁っていたレコードもUK系の元ネタがあるのかもしれない。まだ1回しか観ていないのでそこを確認出来なかったのが悔やまれる。
山田尚子監督は『劇場版けいおん!』でも唯たちの卒業旅行としてイギリスを描いているし、本作の音楽は監督の趣味が強く出ている説が濃厚な気がするがどうだろう。
誰か知っている人がいたら教えて下さい。
音楽の話ばかりになってしまったけれど、ストーリーも素晴らしかったように思う。
共感覚の持ち主で世界や人物が独特な色で見えてしまう主人公トツ子は「たまこまーけっとのたまこ」を想起させる「ゆるふわ且つおもしれー女」で大変魅力的なキャラクターだったし、山田尚子監督はこういう女の子を描かせると本当に上手い。
トツ子の視点で描かれる色彩豊かな世界はアニメならではの表現で、本作の大きな魅力である。
彼女のメンター的存在のシスター日吉子先生との関係性もとても良かったと思う。
今年は『劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく!Re:』前後編が音楽アニメ映画の新たな金字塔となり話題を掻っ攫ったが、「音楽性の特異さ」という点で本作はそれ以上に印象的な作品になったと個人的に思っている。
実写もアニメも人気のある「原作付き」が当たり前の時代にオリジナル作品で勝負している心意気も支持したい。
まだ観ていないという人にはぜひお勧めしたい映画である。