つくり手であること 10*柿
あんまり人に話したことはないのですが、柿に親近感があります。
今はなき藤沢の実家は「大きな柿の木がある家」という表現をされるほど立派な柿の木がありました。残念ながら渋柿の木だったんですけど、数年前に見知らぬ方の立派なお宅が建ってるのを見たとき、生家よりも柿の木が跡形もなく無くなったことの方に寂しさを覚えたほどです。
また、20年前に母が再婚して住んでいる新潟・佐渡は「おけさ柿」という通称で親しまれる平核無(ひらたねなし)柿が有名で、農家の義父は丁寧に渋抜きをして毎年大量に送ってくれます。
そして、賃貸ですが今の家は、庭に小さな果樹が数種類あって、柿も毎年、実をつけてくれます。去年はそれほどでもなかったですが、2020年はありがたいほどに実り、果樹の力強さを身近で感じています。
さらにご近所からの頂きものもあり、10月後半のキッチンはいつもこんな感じ。ありがたい以外の言葉がないです。
ということでひたすら柿を食べる日々です。
剥いてそのまま食べるのも相当おいしいですが、おいしい柿は何をどうしてもおいしいのです。オーブンで丸焼きにしたり、パンに乗っけてまるごと焼いたり、スライスしてリーフ系の野菜と一緒にオイルやマヨネースでサラダにするもよし。子どもの頃は、母がよく作ってくれたカブと柿のサラダが大好きでした。
あと、デスクワークが多い我が家は今年、スライスした柿を並べてオーブンで低温で焼き、セミドライ状態にしたおやつをよく食べていました。150℃で60〜70分くらい焼くと、天然のグミみたいな食感になり、とってもおいしいのです。夜に映画を観る時のスナックとしてもぴったり。
あらゆる手段で食べ続ける柿ですが、食べきれない分は加工します。なかでも柿酢は他の材料もいらないので仕込みが簡単でおすすめです。
秋になると、いつまでも取られる様子がなく、枝の先で寂しそうにしているオレンジ色をあちこちで見かけますが、欲しい人にうまく手渡されて活かされる仕組みがあるといいなぁと思うのでした。
そして今年はやりましたよ、干し柿。ついに。
干し柿は大量の柿の加工方法としては定番ですが、佐渡に渡った母がいつの間にか相当な干し柿マスターとなり、毎年、数百個単位でそれはそれは見事な素晴らしい干し柿をつくるため、全く自分でやる気が起きないでいたのです笑。
とはいえ毎年マスターによる絶品の干し柿を食べながら、これはいつかちゃんと習ったほうがいいのでは...?という気持ちにもなり、まぁちょっと忙しくて行けないので笑、今年は遠隔(電話)で指示を受けながら、ほぼ初挑戦となる20個のおけさ柿を干し始めました。
マスター母からの指示手順はこちら。
まず用意するものは、渋柿20個、干し柿クリップ20個、麻紐10本。マスターいわく「クリップは熱湯で一度消毒すること」ということでしたのでその通りにします。
続いて軽く汚れを取った渋柿の皮むき。いつもどおり包丁でむくつもりでしたが、「ヘタの周りをぐるっとナイフで取ってから、残りはピーラーを使うのが良い」と言われたのでやってみると、確かに割と早くできました。
次に「三倍酢はないだろうからグラグラに沸いてるお湯にポチャンとつけて消毒する」とのこと。なんども「ポチャンでいいからね、ずっと入れてないで、ポチャンよ」と繰り返す母。しつこいな笑、と呟いたら「手の汚れを取る大事なポイントだからちゃんとやれ」と言われました。母は私と違って、わりと潔癖です。
続いて干し柿クリップをつけます。
大きな三角の両角を押すとガバッと開くので柿のヘタ部分に留めるだけ。0.1秒、サクサクできます。
こういう特殊アイテムみたいのに抵抗ある人もいるかもしれませんが、毎年相当数作る人には大事なのでしょう。ステンレス製で繰り返し使えるのでサステナブルでもあります。
というか、このクリップの使いやすさが素晴らしすぎて、軽く感動しました。こういうプロダクトを作れる人にこそ世界的なデザイン賞とか取って欲しい。ジャパニーズ、本当すごい。
麻紐の両端に柿がついたクリップを通し、陽のあたる軒下に干します。オレンジ色の惑星みたいになった光景がとても愛おしいです。
ちなみに、干し柿の作り方をググると、「毎日まんべんなく揉む」と書いてあったりしますが、マスター母は「一切触るな」とのこと。世間のセオリーと違うんだねぇ、とその根拠を尋ねましたが「干し柿ってそのまま食べるものだから、そんなに誰かがベタベタ触ったもの嫌じゃん」だとか...根拠になってないんだけど笑、でもあのぷっくり見事なマスターの干し柿が揉まずにできるのであれば、母にとっての正解は「何もしない」なのでしょう。
干し柿に限らず、王道や定番と言われるやり方だからといって、決してそれが唯一の手段だと盲信することはないんですよね。メインストリームを疑う視点も農家に学ぶなぁと思うのでした。
これは数年前のマスター干し柿。ふっくらした食感と、超極上のチョコレートみたいな濃厚さで、色んな方に差し上げると本当に喜んでいただけます。毎年これを届ける親友には「ヘタが愛おしい」とまで言ってもらい、私がつくったわけではないのにとても嬉しくなる逸品。私は一部、冷凍してお正月にも使ったりします。
さてさて、ほぼ初挑戦としてスタートを切ったわたしの干し柿は一体どこまでマスターに近づけるのでしょうか。自分自身が一番楽しみです。
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