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【第4回】「処方箋だけ出してくれたらいい」それが地獄の入口だった。

このnoteを書いている今日は土曜日。7時間、途中でトイレに目が覚めることもなく、深く、深く眠って本当に気持ちのいい朝を迎えました。

よく眠って、身体中の細胞が生まれかわったようにプルプル元気に弾み、脳内の血管をピカピカの血液がサーッと清々しく流れているように感じられます。文字通り、最高の朝です。

「ああ、神様、本当にありがとうございます。こんなにも、ぐっすり眠らせてくださって」

肩甲骨をコキコキ鳴らしながらベットから起き上がり、私は心の中で神様にお礼を言いました(熟睡した朝は、いつもこうやって感謝の気持ちが自然と涌き上がってくるんです)。

薬を飲んでもほとんど眠れない、不眠症のどん底にいた時、もう自分の人生に「ぐっすり眠れる日」なんて戻ってこないのだろうと思っていました。このまま、ひと晩に2-3時間のうっすらとした眠りを得るために、死ぬまで薬を飲み続けるんだろうと、諦めきっていました。

私の不眠症を泥沼化させたもの


第1-3回まで、今となっては半分忘れかけていた「不眠症のきっかけ」について記憶の掘り起こしながら書いてきました。今回は、私が不眠症を完全に泥沼化させてしまった要因について書いていこうと思います。

今から5年前、どうにも眠つけなくなって数週間が経過した時点で私は、不眠に悩み始めた人の99%が下すであろう判断を下しました。

「もう無理。薬をもらいにいこう」

そして、睡眠不足でぼーっとした頭で、スマホのGooglemapを立ち上げ自宅近くの「精神科」「心療内科」を検索しました。

結果、トップに表示されたとある精神科のクリニックの情報を見ると、評価は☆2つ。レビューには「薬を増やす傾向にある」「診断書を頼むと態度がきつくなる」などの酷評も混じっていました。でも、当日の私はまったく気にも留めませんでした。

なぜなら、

「処方箋だけ出してくれたらいい」

と思っていたからです。

とりあえず軽い入眠剤だけ処方してくれたら、あとは自分で何とかする。特に医師の助けを必要としているわけじゃない。だから、家から近くて、予約が不要で、隙間時間にサッと行ってサッと帰ってこられるクリニックがいい。そう本気で考えていました。

後から思えば、この判断が完全に間違っていたのですが…(やっぱり睡眠不足は判断力を著しく低下させるんです)。

近所の☆2のクリニックで


検索したその日のうちにクリニックを受診しました。

古いビルの2階にある、何の変哲もない精神科のクリニックでした。平日の夕方に、受付には2人ほどの患者さんーーうつっぽい感じの高校生(風)とサラリーマン(風)。診察はさくさく進んで、すぐに私の番が回ってきました。

診察室に入ると、これまた何の変哲もない診察室に、これまた何の変哲もない男性の先生が座っていました。40代くらいの中肉中背(たしか)。今、先生について何かを思い出そうとしても「白衣と黒縁メガネ」しか浮かんできません。本当に申し訳ないけれど、そのくらい、すべてにおいて特徴のない先生でした。

「どうしましたか?」
「ここ数週間、よく眠れなくて」
「何か心当たりは?」
「仕事が忙しい、ですかね」
「寝つけないんですか? 途中で起きちゃうんですか?」
「寝つけないですね」
「そうですか。では、ごく軽い入眠剤を出しておきましょう」

もう5年以上も前の話なので、そこまで詳しいやりとりまで覚えていませんが、本当に、このくらい簡素なやりとりでした。

もし心の問題で深刻に悩んでいたら(この2年後に私は正式に過労からの「うつ」と診断されることになるのですが…)、もっとちゃんと話を聞いてほしい、診察してほしいと思ったかもしれません。でも、当時の私は「処方箋さえ出してくれたらいい」と考えていたので、先生が何も聞いてこないことをこれ幸いとさえ捉えていました。

ものの5分ほどで初診は終わり、受付で目当ての処方箋を受け取ると、私はそのまま同じビルの3階にある薬局へ向かいました。

こうした診察と処方を、以後2年ほど続けることになるのですが、振り返るとこの初診がまさに「地獄の入口」でした。

「耐性がつかない薬」のはずだったのに…


私が最初に処方された「ごく軽い入眠剤」は、「ルネスタ」という名前でした。このあと処方される薬の種類はどんどん増えていくのですが、この「ルネスタ」を飲んだ量が一番多かったと思います。

黒縁メガネの先生は、「ルネスタは耐性がつきづらくて、副作用もほとんどなく、初めて薬を服用する方にはおすすめの入眠剤です」と説明しました。そして、私はそれをただ、「そうなんだ」と聞き流していました。

今、改めて、自分の身体にかつて大量に投じられた「ルネスタ」について調べてみました。

「ルネスタ」は、日本国内では2012年からエーザイが独占的に製造・販売しています。もともとはアメリカのサノビオン社(旧セプラコール社)が生み出した薬で、臨床試験では入眠障害と中途覚醒の両方に効果があること(しかし、日本国内では圧倒的に「入眠のための薬」として処方されます)、依存性や長期服用による耐性もないことが示されているそうです。そして、アメリカでは「LUNESTA」として販売され、投与期間無制限の治療薬として承認されているとエーザイのホームページには書かれていました。

処方してもらった夜、この「ルネスタ」の1mg錠剤をベッドに入る15分ほど前に飲むと、朝までぐっすり眠れました。数週間続いた不眠が嘘のように改善し、その翌日も、その翌々日も、毎晩ぐっすり眠れるようになり、「やっぱり薬をもらってよかった!」と上機嫌の私。

そして、絶え間なくSlackを打ち返してはGoogleAnalyticsと睨めっこしながら仕事をバリバリこなす日々に戻っていきました。

ところが、「耐性」がつかないはずのこの薬が、このあと2年で4錠まで増えた上、別の薬と併用されていくのです。

バカみたいに当たり前の教訓だけど


「薬」については、今後いろんな切口で書いていこうと思いますが、この回で私が伝えたいことは、ただ一つ。

薬は飲まないに越したことはないのだけれど(やめるのがめちゃくちゃ大変だから)、生活を送る上でどうしても必要なら、

「信頼できる医師に処方してもらった方がいい」

ということです。

こうして文字に書くとバカみたいに当たり前のことですが、眠れずに追い詰められていると、この当たり前の判断ができなくなるものです。

もしこのnoteを読まれている方の中に不眠症で病院にかかろうか迷っている方がいたら、どうか、かつての私みたいに「処方箋だけ出してくれたらいいや」なんて考えないで、慎重に選んでくださいと伝えたいです(「選び方」についてはまた別の回で詳しく書いていきます)。



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