不惑のバレエ その2~マーメイドを観に行った話
初めてダンスを教えてもらったとき、イメージしていたのは人魚姫だった。
バレリーナは足の甲をきれいに見せるため、脚がつっても優雅に踊る
どんなに痛くても、楽しそうに優雅に笑い舞う、それを聞いた時「王子様の結婚式で舞う人魚姫」がのうりに浮かんだ。歩く度にナイフで刺されたように痛む脚で、泡になって消える運命に絶望しながらも、微笑みを絶やさず祝宴の席で舞を披露する15歳の人魚姫、それは私のイメージした踊り子たちの姿そのものだった。
月日が流れ、不惑を迎えてから縁あってバレエを始め、今も休み休み続けている。そんなある日、仲間からお誘いがあった。
熊川哲也K-BALLET TOKYOの秋のツアー、演目は『マーメイド』。行くしかないと思った。
( O-チケのYouTubeに告知動画が掲載されていたため、リンクを貼りました↓)
華やかな陸の世界と真っ青な深海、舞台は交互に転換し、そこで華やかに舞う人々、自由に泳ぎ漂う魚介類、荒れる波と怪物、恋をするマーメイド。
世界の中で漂い、酔いしれた。
少し大人向けの脚色と演出を挟みながら、海の国の小さく壮大な物語は繰り広げられ、幕を閉じた。
余韻に浸りながら、昔読んだアンデルセン物語を思い出した。
無鉄砲な人魚姫が愚かで可哀想だと思っていた。
でも、一番哀れだったのは、真実に気づけなかった王子だったのかもしれない。
人魚姫は、愚かな王子との恋を叶えることはできなかったが、声や命と引き換えに騒々しい地上の世界を知ることができた。痛みを伴いながら、足で歩き跳ね回り、美しいドレスを纏い舞うことができた。
泡沫のような時であったからこそ、それは美しかった。
舞台もうたかたの夢のような時間だったが、泡のように消えたりしない。ずっと記憶に残り続ける。