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エッセイ『36歳、いつまでもどこまでも』(仮題)

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今日はおでん、というシアワセ

夕方、娘を迎えに行こうと外に出ると、肌寒さに身を震わせた。 9月ってこんなに秋らしかったかしら。 例年では、残暑の厳しさにうめいている頃だ。 温かいものをお腹に入れたくなって、娘と二人、スーパーマーケットでおでんの種を選んで、帰途についた。 キッチンカウンターに具材を並べると、こんもりとした小山ができる。 「これ、全部鍋に入るかしら?」といつも思う。それでも毎度収まってしまうのだから不思議だ。 わが家の上位打線の顔ぶれはいつも同じ。 私の推し・はんぺん 夫の推し・ちくわぶ

ルック書店と星野源さんが教えてくれた大切なこと

汚い話をする。私と娘のうんちのタイミングが同じだ。朝イチでも、昼過ぎでも、夕方にずれこんでも。同じリズムでごはんを食べているのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。 私がトイレに言ってコトを済ませ、出てくると、娘が必ず力んでいる。 「いま、がんばってるの」 壁の角や、ソファの肘掛けにつかまって、ぷるぷる震えている姿は、なんともかわいい。 話は変わるが、星野源さんと新垣結衣さんがご結婚されるというニュースが飛び込んできた。 星野さんのことを知ったのは、2011年のテレビド

おいしい珈琲屋さんは考えることをやめない

苦くない珈琲なんて、ないと思っていた。 白金台の路地裏にある珈琲屋さんで、私はそんな珈琲を知った。仕事の打ち合わせでお店を初めて訪れたのは、未知のウイルスによるステイホーム期間が明けた、2020年の夏のことだった。 商店街の紹介冊子を作る企画にメインライターとして参加することになった私。店長さんが商店街の広報担当とあって、自然とその珈琲屋さんが打ち合わせ場所として選ばれた。 うさぎの名前を冠したそのお店の扉を開けて、真っ先に目が合ったのは、学究肌の人特有の雰囲気を備えた

雨の日の誘惑

私には3歳になる娘がいる。彼女は家から3㎞ほどの幼稚園に通っているため、通園は幼稚園バスだ。 私は彼女を毎朝、同じ時間に指定のバス停まで送っていくのだが、その道すがら通り過ぎる顔ぶれはいつも違う。家を出る時間はほんの1、2分か数十秒違うだけなのに、不思議である。 きっとみんなが、それぞれ「あ、腕時計忘れた」とか(最近は「スマホ忘れた」のほうが多いだろうか)、テレビの占いの結果が気になったとか(自分の星座が最下位だとその分、長く足止めされる)、そんなありふれた事情で、少しず