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【カードゲームのやさしい確率 第1回】 なぜ確率をやるべきか、あるいはなぜ確率だけでは勝てないか

カードゲームで勝つために確率を勉強しようというみなさん、これから一緒に頑張りましょう。確率は理解していたほうが良さそうだけど避けてきたという、少し後ろめたいあなたもいらっしゃい。頑張りましょう。確率なんて言っても結局は練習あるのみだろという懐疑的なあなたもウェルカム、そういうの好きですよ。

確率論の記事を書きます。このシリーズでは、確率の概念を数字をあまり使わずに感覚的に理解することで、イケてる判断に繋げることを目的とします。そこから高度な確率論へ進むのも、確率とはそういうものかとそこで勉強しない選択をするのも正解の一つだと思います。

第一回であるこの記事では、カードゲームの理解に確率が重要であること以上に、確率を知ったところで、勝てるようになるとは限らないということと、その理由を理解することを目的とします。

結論から言えば、確率ではっきりした答えが出ることはあまりありません。しかし、確率を知ることでぼんやりとした行き先がわかったり、誤った選択がはっきり誤りとわかることは多いです。

確率で何でも解決できると思っていたらそれは、確率を何も知らないことと変わりません。確率を使える場所を知っていることは、言い換えればその他の確率が使えない場面を知っているということです。解像度としては何も知らないことも、盲信していることも変わらないわけです。なので、確率の概要を説明するのと同時に、どうして確率を計算するだけでは勝てないのかというところから始めようと思います。

カードゲームの議論で、確率論的な説明で決定的な答えが出ているところをみたことがありますか?ゲーム最終盤を除いて、私はないです。初手の確率、デッキのカード枚数のようなものは簡単な確率に落とし込めるほど簡単ではありません。いくら確率を勉強したところで、使うべき最強のデッキがわかるわけではありません。議論の余地が大きく残ります。答えが出ていないということです。大前提として、カードゲームは確率のゲームなのにも関わらず、確率論はどんな状況も解決できる「銀の弾丸」ではないわけです。

逆説的ではありますが、確率は万能ではないからこそ確率論に親しむ必要があります。どんな状況でも簡単な解法があるのであれば、それを覚えるだけでいいです。そうでなく、簡単に解決できないことがあるからこそ、なぜ使えないのかを知るべきです。そうしてどうすればツールを使えるようになるのか創意工夫を凝らすことができるようになります。

そのため、この記事では、確率とは何かからはじめ、なぜ確率が重要かと同時に、いかにカードゲームはなぜ簡単な確率論だけでは勝てないか理解してもらいたいと思います。カードゲーマーなら、カードを採用することはその枠に別のカードを入れる機会を失うことという感覚はありますよね。何かを選ぶことはそれ以外を選ばないことです。確率計算を判断に用いるかどうかもこれと同じです。どの判断に確率計算を用いるか決めることは、それ以外の判断に確率計算を用いないことを決めることでもあります。

極端な話、確率が何もわからなかった人が記事を読んだ後に「確率ってそういうものか!なら俺はやはり直感と練習量だけでやるぞ!」と確率論を捨てるのもいいと思います。全ての選択に確率を使わないという判断も選択肢の一つですから。このシリーズを読んだ後で、より自信を持って確率を使わないとその人が言うのであればこの記事は有意義であると考えます。

確率とは何か

でははじめましょう。

確率とはそもそもなんでしょうか。辞書を引いてみたら「起こりやすさの度合い」と出てきました。0%のことは絶対に起こらず、100%のことは絶対に起きる。ここまではいいですね。

確率の足し算ができるときがどのようなときか考えると、よりしっかりした定義が必要になります。

偏りがないコインを投げて、表が出る確率が50%、裏が出る確率が50%で足すと100%。足し算が成立します。これも直感的にわかると思います。

では、2回コインを投げて表が一度以上出る確率はどうでしょうか。50%が二つで足して100%…とはなりません。両方表や両方裏が出ることもあるので足しても100%にはなりません。これが確率の定義からどういうことなのか確認しましょう。

n個の事象のうちどれか一つのみが、等しい起こりやすさで起きるとき、その一つの起きる確率を1/nであるとする

nは自然数(1, 2, 3, 4, …)です。コインであればn=2で表が出る確率は1/2、ダイスであればn=6で1が出る確率は1/6という具合です。

コインの裏表は「どちらか一つのみが等しい起こりやすさで起こる」を満たしています。しかし、コインを2回投げたとき、両方表が出ることも、両方裏が出ることもあり、定義と違うわけです。

コインを2回投げるときに考えるべき「どれか一つのみが等しい起こりやすさで起きる」事象は
(表、表)、(表、裏)、(裏、表)、(裏、裏)
の4つで、このうち3つが表を含むため、この確率は3/4=75%です。

ダイスを投げて「1か2が出る確率」が1/6+1/6=1/3と出せるのは一度のダイスロールで「1が出ること」と「2が出ること」がそれぞれどれかひとつのみが起きる事象のうちの二つだからです。

カードゲームで言うと、40枚のデッキから20枚のカードのどれかを引く確率は50%ですが、ここから「何枚引けば引きたいカードを引けるか」は2枚である…と言いきっていいとは限らないということですね。

確率=(ある事象が起こる場合の数)/(起こりうる全ての場合の数)

という計算式で確率は計算します。このとき、場合の数はそれぞれ、どれか一つのみが起こる、等しい起こりやすさのものをカウントする必要があるということです。これを満たしていないと、「勝ちと負けの2つの事象しか起こり得ないから勝つ確率は50%」みたいなことを言えてしまうからだめと考えると直感的にわかるでしょう。

確率計算の先に勝利はあるか?

確率の定義と計算方法を確認しました。ではバリバリ確率を使ってゲームを解明して最強になってやろう!と言うわけにはいきません。

実際の複雑な問題に確率計算で挑む場合、数を数えることが困難だからです。コインのパターンを列挙したのと同じ要領で、勝利の確率を計算しようとすることは無理があります。

結果として起こりうる事象は「勝ち」と「負け」の二つですが、もちろん、この二つは等しくありません。そもそも、この勝ちの確率を上げるために議論しているのですから、等しかったら意味がありませんね。では、「等しく起こる勝ち負け全ての事象を列挙する」ということが可能か考えてみます。

デッキが60枚のゲームでは、自分のデッキの並び方のパターンだけでも60!=$${{8 \times 10^{81}}}$$(8の後ろにゼロが81個)通りあります。勝利の確率の計算はこれに、相手のデッキのパターン、そもそものデッキのパターンやその他非公開要素やランダム要素もありますから、これだけでは済みません。参考程度に、オセロは全ての状態を調べて完全解明は未だにされていません(全てを探索しない方法でお互いが最善手を打てばどうなるかは解明されました)。オセロの盤面のパターンは$${{10^{68}}}$$乗程度と見積もられていて、これよりはるかに自分のデッキのパターンだけでも多い状態があるカードゲームを全部調べるなんてできるわけがありません。

これはつまり、確率計算をどれだけ続けても、数学的にこうするのがよいというプレイがいつまで経っても現れないことがあると示しています。ベストな選択は必ずしも確率計算によって示されはしません。

確率計算の先によりよいプレイはあるか?

問題が難しすぎるならば、小さい問題に分割して解けるように簡単にすることを考えましょう。「ゲームに勝利する」という問題は難しすぎるので、「こうすればゲームの勝利に向かう」と言える事象を考えて、その確率を最大化するアプローチです。

ここで真っ先に思いつくのは「良い初手を引く確率を計算すること」なのではないでしょうか。ポケカの種ポケや、MTGの土地は初めの手札に一定数あって欲しいカードです。

MTGでは60枚のデッキから初めに7枚のカードを引き、このうちに3枚あるいは4枚の土地がある手札が良い手札とされています。初めの手札の丁度半分が土地である枚数です。この確率を最大化するデッキの中の土地の枚数は60枚の丁度半分である、30枚です。

しかし、実際土地が30枚のデッキは滅多にありません。大抵25枚前後です。ゲーム終盤では土地以外のカードを連続して引くと嬉しい場合が多いためです。ゲーム最序盤だけを考えても最適な枚数は計算できません。

MTGでなくとも、マナ制のゲームをやっていればこの感覚はしっくり来るのではないでしょうか。1マナのカードを1ターン目に出して、2マナのカードを2ターン目に出して…としたいとき、「1マナのカードを引きやすくする」ことは「2マナのカードを引きやすくすること」と競合します。

なるほど、確率では有利になる手を計算することすらできないのか!と思うのは少し早急です。

感覚で判断せざるを得ないからこそ、確率を知ったほうがいい


60枚のデッキの半分である30枚を土地にしたときに理想の初手が来やすい。しかし、この知識はそのままは使えない。だからといって無意味でしょうか?そんなことはありません。

私はShadow Verseやデュエル・マスターズといったマナ制のゲームをMTG以前にもやったことはありました。しかし、MTGでマナを出す専用カードである土地を何枚入れればいいかは初見ではわかりませんでした。

そのような状況で、「理想の初手を作りたければ30枚が最適」ということと、「初手以外も考えなくてはいけないから、それよりは最適枚数は少なそう」だということを知っていたらどうでしょう。「よりよいスタート地点」から始め、「ゴール地点の示唆」を得ることができます。

より良いスタート地点

全く何もないところから調整を始めるよりも、遥かにいいスタート地点に立っていると言えます。全くわからない状態よりも、「おそらく30枚より少ない枚数」と知っていることは大きく進んでいます。10枚かもしれないし、40枚かもしれないという状況よりは30枚から減らしていくという方針を取れるのですから。

ゴール地点の示唆

30枚の土地が理想の初手の確率を上げるが、普通のデッキではそれは多すぎる。この事実を知っているからこそできる発想もあります。それは「土地が30枚でも回るデッキができれば安定して強い」という仮説です。

カードゲームは環境が変わり続けるので「理論上は○○だが、実際は違う」という状況が変化し、理論の前提と実際のゲームと一致する瞬間があります。実際に私の友人はこの考え方をしていてデッキの半分が土地のデッキで、16人しか出られない世界的イベントに出場を決めたことがあります。「単純化した問題ではこうだが、現実はここが違う」という形でゲームを理解していれば、「単純化した問題と現実を一致させることができるチャンス」を掴めることがあります。

確率で判断ができる場合

例が恣意的だと思った人もいるかもしれません。

例えば次のような反論ができるでしょう。「初手を確率で最適化するのは難しくても、確率で完全に解析できる場合もあるだろう。例えばゲーム中に一度相手の手札がゼロになって、今あるのはトップから引いた一枚のみ。このとき勝率を確率計算で最大化できる場合は多いだろう。」

この反論は正鵠を射ています。しかし、この反論をできる人はすでに確率リテラシーがある人です。簡単な確率で判断ができる場面、できない場面があります。ゲーム終盤では「勝ち」あるいは「負け」という二つの状態のいずれかに収束していき、不確定要素が減っていくため、簡単な計算による判断ができる場面が増えていきます。

このとき、計算することはもちろんですが、計算できる状況であることに気づくのも重要なスキルです。そのためあえて、明らかに計算が無理な例を挙げて説明しました。以降の記事で、ゲームの場面を「ここがわかれば簡単な計算で判断できるぞ」という視点を獲得していきましょう。

確率が導く”いいセンス”

この章では確率とは何かを説明しながら、確率計算だけでは正解がわからない場面があることを説明してきました。感覚に頼った判断をせざるを得ないことがあります。しかし、感覚は誤ることがあります。

「欲しいカードを引かなかった」あるいは、「いらないカードを引きすぎた」というネガティブな経験は強く印象に残ります。このように認識が歪んだ状態では、デッキを強くしようとしても逆に弱くしてしまうことすらあります。

たしかに確率はいつも決定的な正解を教えてくれはしませんが、ぼんやりとした指標はくれます。また、明らかに間違った道へ行こうとしたときははっきり違うと教えてくれることも多いです。理論派と感覚派というように、理論と感覚は相反概念のように言われることがありますが、実際は無意識にしろ誰もが両方を使っているものです。

明確な答えのある切り取った問題ではない現実世界では、良い判断とは理論に補強された感覚によりなされるものです。確率的"センス"を身につけて、イケてる判断に繋げて行きましょう。そのために、この記事はゴリゴリ計算してゲームを解明するよりも、数理的概念を感覚で理解するものを目指しています。

次回は同時確率と余事象の内容を予定しています。今回、確率は事象の数を全部数える必要があるという前提でしたが、数え方やもっと簡単に数えずに済ます方法について解説します。

それではお疲れ様でした。また今度!
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もりゆき
おもろいこと書くやんけ、ちょっと金投げたるわというあなたの気持ちが最大の報酬 今日という日に彩りをくれてありがとう