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【スタンダード】はじめての赤単

前書き:アグロの記事をデッキの測り方実践編として

私はゲームの解明が好きで、得意なアーキタイプというものを考えないようにしていた。強ければなんでも使う、得意じゃないものが一番強いなら使えるようになればいいと…。

しかし、ついぞアグロを使わずにプロ契約が終了しはや3年、そんな時世界選手権で赤単が4位に入賞し、その後のスタンダードチャレンジで75枚コピーが優勝した。

世界選手権4位のリスト
https://melee.gg/Tournament/View/146430

デッキを見るとこれは強いし、しかもまだ強くなる余地があるように見えた。世界選手権までMTGを暫くやっていなかったので、世界選手権のリストは何を意図したかはいまいち自信がないがしかし、世界選手権の結果が出て、ファウンデーションも追加された今、もっといいものが組めるだろう、と。未知のデッキであれば最高であるが、誰かの作ったデッキでも構築を切り開く余地があれば燃える。いろいろ触りながら回していると、ランキングが勝っても上がらなくなったところで最新リストの勝率が95%。

これは書かなければ、次いつアグロの記事を書く機会がくるかわからないと書き始めている。

本記事は独立でもわかるように書くが、先日書いた記事の実践編としてその内容に沿って、なぜ全く使ったことがない赤単というアーキタイプを強いと判断し、改善の余地があると考えたかを述べる。よろしければ、そちらも先にご覧いただきたい。

最大値から整理する

全貌の整理のために、デッキの中でも特に強力なカードを少し解説する。現環境に理解があれば飛ばしても問題ない。

ブルームバロウ以前から、《巨怪の怒り》は赤系アグロで採用されていた。私の知る限り――と言っても5年程度だが、クリーチャー強化のインスタントがメインから入ることは稀であった。インスタント除去で2:1されてアドバンテージを失うことを恐れてである。それにも拘わらず、《巨怪の怒り》は採用されるだけのバリューがあった。

ブルームバロウで《巨怪の怒り》と相性のいいハツカネズミのカード群が追加される。《熾火心の挑戦者》の《巨怪の怒り》をプレイしたときのスタッツは6/4トランプル、これが3Tに出うる打点である。この値は対アグロ性能を評価され、現環境でよくプレイされる《ドロスの魔神》のタフネスに達するパワーであり、タフネス4は赤の2マナインスタント除去の3点を1上回るもので絶妙に「本来赤単に有効なカード」の裏目を作るラインに達している。

1マナ除去の2点ダメージや《切り崩し》、《見栄え損ない》はいずれも《巨怪の怒り》で躱すことが可能。インスタントでは確定で赤単のクリーチャーを除去できるものが、黒か白の2マナ以上にしか存在せず、赤単は1Tからクリーチャーを展開すれば最低でもテンポとリソースのイーヴンな交換、どこかでダブルアクションを取るか、相手が最善の札を引いていなかった分クロックが増えることになる。

果敢(実際の果敢のクリーチャーは二種類だが、クリーチャーとインスタントのシナジーでの戦術を便宜上こう呼ぶ)デッキはその性質から、クリーチャーの枚数がアグロ全般に比べて少ないため、除去に弱いのが普通である。しかし、《多様な鼠》は、誘発能力が対象を取って《心火の英雄》や《熾火心の挑戦者》の能力を誘発させることができるうえに、自身に二弾攻撃を付与することができるから、《巨怪の怒り》を自分自身に使っても強く、どこと組み合わせても強いためデッキの安定性を底上げしている。加えて、新生がクリーチャーの絶対数を稼ぐため、フラッド受けや除去デッキに対する耐性を上げる機能がある。

中央値の底上げ

ブン回ったときの最大の強さだけではなく、より重要なのは平均的な回りをしたときの中央値の強さである。とはいえ、果敢デッキ特有のかみ合が悪いことのリスクは《多様な鼠》のおかげで小さい。

これに加え、《岩面村》への言及なしでは中央値については語れない。

ハツカネズミパッケージについて、1Tの《心火の英雄》から2Tの《多様な鼠》の動きが強いことは疑いの余地がないだろう。1マナのクリーチャーが1Tに出して強いのはそれはそう。問題は、2T以降に引いた場合や、2Tに構えられて、バリューの高い《多様な鼠》を出す状況じゃなかった場合や、2T以降にトップした場合である。

なんと、トップした1マナのクリーチャーが強いのである。キャスト即《岩面村》起動で合計3マナで3打点という、支払ったマナコスト相応の打点が出る。毎ターン起動で対象時の能力が誘発し、フラット時でも《熾火心の挑戦者》が一枚生き残ればアドバンテージを稼いで勝ち。またこのパワープラス1がなかなかバカにならない。《多様な鼠》に使えば4マナパワー4速攻相当で《探索する獣》と化す。この手の土地はある程度効率が悪いものだが、このカードに限っては+2マナのクリーチャー相応の打点を出すし、なんなら速攻をつける必要がない、既にいたクリーチャーに使っても効率が悪くない。

ゴリ押しからのスカしをこなす最強新カード

少し前記事のおさらいをすると、自分の得意な要素を押し付けてゲームのボトルネックにすることを狙うことをゴリ押し、ゴリ押しに対して相手が用意したカードやテンポが無駄になるようにプレイしテンポを取ることをスカしと呼んだ。ボトルネックを整理し、ゴリ押し要素とスカし要素を見ていく。

主要カードを見たところでデッキのボトルネックとなりうる要素、相手に強要したい要素を見てみたい。はじめはマナ効率である。ゲーム開始から4ターン目ぐらいまでは、マナ効率で攻める戦いをしたい。あわよくばそのまま押し切って勝ちたい。毎ターン軽量クチーチャーを展開、相手が除去で効率的な交換ができないように立ち回り、どこか撃ち漏らしたところで安全に《巨怪の怒り》や《多様な鼠》をからめた大量ダメージを狙いたい。

これを相手視点で見れば、効率よく除去を切ってマナ効率のボトルネックを解消しつつ、クリーチャーを除去しきって、《巨怪の怒り》や《多様な鼠》が腐ったり、強く使えない状況を作りたい。例として、青黒や緑黒の黒系ミッドレンジで考えると、単体でのクリーチャー性能や長期アドバンテージでは赤単に勝るため、「《ドロスの魔神》vs ドロスを超えられないクリーチャー」というような構図を作りたい。

ドロスを出された赤単側に視点を戻す。返しに《歪んだ忠義》でコントロールを奪取して勝てれば理想ではあるが、コントロール奪取はそれをメインプランにするほどの枚数を採用するカードでもない。なので、盤面を取られた後は《ショック》や《稲妻の一撃》などの直接火力で残りを削るというプランになりやすい。《心火の英雄》+《岩面村》もコンバットで一方を取られても3点入るので実質直接火力。

ざっくり言えば [3~4ターンまで] → [3~4ターン以降] について:

赤単は
盤面を取る→直接ライフを詰める

黒系ミッドレンジ側は
テンポよく交換する→盤面を取り返して勝つorライフゲインで安全圏に逃げる

といったプランニングをするのが一般的である。ライフゲインで安全圏に逃げるプランであれば、サイズのいい優秀なブロッカーでもある《黙示録、シェオルドレッド》は定番。(カードプールに5点火力が多いからか、今は《ドロスの魔神》に枠を譲ることが多いが。)《ドロスの魔神》とのセット運用では世界選手権優勝デッキでも使われた《不浄な別室+祭儀室》もある。しかし、ダスクモーンでそのプランニングを破壊するカードが現れた。

速攻と受けたダメージをそのまま任意の対象に与えるだけでもアグロデッキに採用されうるスペックであり、誘発ダメージをプレイヤーに飛ばすとゲーム中ライフゲインができなくなる。3マナというのが環境にかみ合っており、4マナの《ドロスの魔神》や《黙示録、シェオルドレッド》の返しにそのままアタックできるのはもちろんのこと、相手がフルタップの状態で4マナあれば、ノーリスクで《叫ぶ宿敵》に《ショック》することで、その時点での相手の残りライフ分の直接ダメージでの勝利が約束される。

デッキ調整、トレードオフを探る

赤単の大枠の解説は以上。

以上に《雇われ爪》を加えた4枚がほぼ固定枠で残りが調整の余地と考えている。以下は筆者個人のリストを解説する。

わかりやすいようにワールドのリストとの差分。

ワールドのリストとのメインボード差分

主な変更点として、以下について解説する。
①《逆棘の叩拳》の採用
②《魔女跡追いの激情》の全抜き
③土地1枚増と《ショック》増(ファウンデーション収録の上位互換である《噴出の稲妻》に全部入れ替えたうえで2枚採用)
④《ウラブラスクの溶鉱炉》減

①《逆棘の叩拳》の採用

強い。なんで誰も入れていなかったんだカード。
《心火の英雄》と《熾火心の挑戦者》の1マナでの毎ターン誘発がメインバリュー。《多様な鼠》の二弾攻撃があるため、パワー1上昇も見た目以上のバリューがある。1T《僧院の速槍》の2Tでの果敢も誘発し、いろいろかゆいところに手が届く。

このカードが真価を発揮するのは2Tである。2Tでは理想ムーブにかかわる《熾火心の挑戦者》か《多様な鼠》をプレイしたいのではないかと思うかもしれないが、実際の対黒系ミッドレンジでは、《逆棘の叩拳》を2Tにプレイしたい場合が多い。

例として以下のような頻発する状況を挙げる。
ゲーム3先攻でお互い7枚キープ、1T《心火の英雄》をプレイ、相手は沼でGO、先攻2T《山》をセット

残り手札が《多様な鼠》、《熾火心の挑戦者》、《逆棘の叩拳》に《山》2枚。

どうプレイするか?
まずメイン1はなにもせずコンバットが正解。後攻の黒系ミッドレンジが7枚キープであれば、《切り崩し》があると考えるのが妥当。相手は《切り崩し》をバリューのある《多様な鼠》か《熾火心の挑戦者》に使いたい。(ちなみにここで一番ありえないプレイは《熾火心の挑戦者》をプレイ。《熾火心の挑戦者》は《巨怪の怒り》だけでなく《ショック》でも《切り崩し》を躱せるため、残しておけば生き残りやすい。マナが浮いている黒い相手には基本フルタップで出すべきではない。)

コンバットに入ると、おそらく1点が通る。《巨怪の怒り》を使われるかもしれないし、メイン2に出てきた2マナクリーチャーに使いたいためここでは相手は《切り崩し》を使わない。

メイン2で《逆棘の叩拳》をプレイする。相手は仕方なく除去をどちらかに切って、自分はバリューの高いクリーチャー二種類を温存しながら、それらを出した場合の盤面にプラス《逆棘の叩拳》の本体が残り、以降のクリーチャーのバリューが上がる。

②《魔女跡追いの激情》の全抜き

私は赤単がバランスブレイカーと呼ぶに値することを確信しているが、なぜ世間一般の認識として、緑黒が赤単に対して有利でプレイアブルなデッキだと思われているかというと、流通しているリストが《魔女跡追いの激情》を採用しているものであるからと考えている。

調整過程含めたスコア、なんというかデッキの強さが一段飢えな感じがする

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