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【カードゲームのやさしい確率 第3回】条件付き確率
第一回では確率とは何か、第二回では場合の数の数え方を見てきました。
復習がてら、4ターン目までに引きたいカードを引ける確率を考えてみましょう。60枚のデッキから、初手の7枚と4回のドローで計11枚に、4枚のカードが含まれるパターンなので、1からほしいカードが含まれない手札の確率を引けばいいわけです。つまり、11枚を引く全場合の数$${{_{60}C_{11}}}$$で4枚のカード以外の56枚から11枚を選ぶ場合の数$${{_{56}C_{11}}}$$を割って1から引くので、
$${{1- \frac{_{56}C_{11}}{_{60}C_{11}}=0.57}}$$
と計算できます。
これで、初手からフィニッシュまで欲しいカードが引ける確率を計算して最適化していくことができます!…というわけにはいきません。なぜでしょうか?「欲しいカード」が状況によって異なるからです。「欲しいカード」が引けなかった状況で引いた「欲しくないカード」は何かしらの状況で「欲しいカード」になると思ったから入れたはずです。
対戦中にプレイヤーが言うことがある「○%であのカードを引ける」「たぶん大丈夫」という確信は、実は何かしらの条件が加わった“部分的な”確率になっていることが多いです。実際、その場面ではそれが正解だったかもしれません。しかし、デッキ選択やそれより以前のプレイを含めた大局的な判断として、それが正解だったという根拠には必ずしもなりません。たとえ9割を超える確率だったとしても、そもそもその確率的状況を発生させずに勝てたかもしれないからです。
確率を単純に割り算で導くのは簡単ですが、実際にプレイ中に使っているのは「こういう条件のもとなら○%」という、条件付きの確率がほとんどです。
見ている事象の"条件"
たとえば「初手にあるカードAとカードBの両方が欲しい」と言っても、それは単純に「Aを引く確率 × Bを引く確率」だけでは済まない場合が多いです。
例えば、マナ制ゲームの1マナカードや、ポケカのバトルVIPパスのようなはじめにしか使えないカードは初手に欲しいカードと言えます。
しかし、これを先ほどの計算式で初手にある確率はおよそ4割と簡単に計算してしまって本当にいいのでしょうか?それぞれゲームを知っている方なら分かると思いますが、 MTG の初手には土地が必要で、ポケカの初手には種ポケが必要です。
別のカードを引くと言うことはその分他のカードを引く確率が下がるということです。種ポケがあって、かつバトルビップパスを引く。確率は単純にバトルVIPパスを引く確率よりも低いということです。
カードゲームでは特定の状況でしか強くないカードは、その分強力に設計されていることが多いです。そのため、その強力な状況を作ることができる確率を計算したくなります。確かにその値をざっくり知ることは重要です。しかしこれを過信するのは禁物です。そのために必要な条件は本当にそのカードを引くだけでしょうか?あるいはそのカードを使えば絶対に勝つのでしょうか?そうでないのであれば、そのカードを使えるための条件は考慮しなければいけないものですし、そのカードを使えたとしてもそれは、その先にある勝敗の確率のための条件の1つでしかありません。
実際の勝利の確率は複数の事象が同時に起こる確率(同時確率)であることを忘れてはいけません。
「フィニッシャーを引く確率」を考えるのであれば、「フィニッシャーを引けば勝てる状況ができている確率」も考えなければいけませんし、もしかしたら「フィニッシャーをその途中で引いてしまうこと」が「フィニッシャーがあれば勝てる確率」を下げているかもしれません。
どれだけ高い確率なら信頼できる?
リスクがないに越したことはありませんが、ゲームでも人生でも完全にリスクを0にできるということはありません。外に出るだけでも事故にあったり、病気になる確率は上がります。現実問題リスクへの向き合い方として、考えるべきはあるかないかではなく、十分に低いかどうかです。
「ではいったい、どのくらいの数値が出れば信用してよいのか?」という疑問はつきものです。しかし、たとえ9割という数字があっても、何度も繰り返せば失敗する確率は思った以上に蓄積されます。単発で9割なら「ほとんど大丈夫」に見えても、それを3回も4回も連続で成功させるには「0.9×0.9×0.9…」と掛け算になり意外と低くなります。9割の試行も7回連続で成功する確率までいくと半分を切ります。高い確率だから、失敗しても悪いのは運だ…と考えていても、もしその成功率が「ある条件」下だけの数字なら本当は反省点があるかもしれません。
「9割で勝てる状況だったのに」と思っても、その「9割で超える状況」になるまでに何度の9割を潜り抜けてきたか?それを考えなければ、改善点を見過ごしてしまうことも多いです。
個々の確率は高くても、同時確率が高くなければ、その戦略やデッキ選択などは改善すべきものでしょう。
ある条件下での直感に反する確率
カードを引く、相手がカードを使う…確率を考えるうえでの条件はゲーム中刻一刻と変化していきます。このように言うと当たり前のことですが、中には直感に反するものがあります。
後からちょっとした条件が加わるだけで、数値が意外な変わり方をするものの有名な例を紹介します。
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問題:
扉が3つあり、そのうち1つだけが当たり。プレイヤーが最初に1枚の扉を選ぶと、司会者がわざわざ“外れ”の扉をひとつ開けてくれます。そのあとで「最初の選択を変えますか?」と訊いてくる。さて、選択を変えるべきでしょうか?
直感的には、残り2つが外れか当たりかで“二択”になったように見え、「当たりの確率は1/2ずつじゃないか?」と思うかもしれません。
しかし、よく調べると、「選択を変えた場合に当たりを引ける確率が2/3になる」という結果が有名です。これはなぜかというと、「司会者は絶対に当たりの扉を開かない」という特殊な行動が、非常に大きな追加情報になっているからです。
もともと当選者が“最初から外れを引いていた”確率は2/3で、“最初から当たりを引いていた”確率の1/3よりも大きいため、司会者が外れを開けた時点で「最初の選択が外れだった」2/3の確率が選択を変えたときの当たりの確率になります。
このモンティ・ホール問題という問題は直感に反するものとして有名になるまで大論争がありました。雑誌でこのクイズが紹介された際にコラムニストが「扉を変えると2/3になる」と書いたところ、膨大な読者から「そんなはずはない」「扉を変えても1/2のはず」と反論が殺到したそうです。その中には数学者や博士号を持つ人も多く含まれました。最終的にはコンピュータシミュレーションなどで“扉を変えるほうが得”だと確認され、今では代表的な“直感と実際が食い違う”問題として知られています。
「情報を新しく知ったが、さっきまでの正解は正解のままか?」非公開の情報やランダム性があるカードゲームでは問い続けるべきです。
事象の独立性と条件付き確率
定義をまとめて整理します。
普段見ている確率のほとんどが、なんらかの条件下での確率(条件付き確率)です。ある事象AがBの発生確率に影響するとき、これらは従属と言い、逆に影響しない場合独立と言います。
欲しいカード2種類を初手に引く確率は、一方を引くともう一方を少し引きにくくなるという関係にあると述べました。これが従属です。このとき、それぞれのカードを引く確率を単純に掛け算しても少し異なる値が出ます。
それに対して、「先攻でかつ初手にあるカードを引く確率」を考える場合はどうでしょうか。「先攻であること」は、「初手にあるカードを引くこと」と関係がないため、それぞれ別々に計算して、掛け算することで確率を求めることができます。
同時確率は条件付き確率を使って計算できます。
(AとBが同時に起こる確率)
=(Aの確率)×(Aが起きた条件下でBが起きる確率)
=(Bの確率)×(Bが起きた条件下でAが起きる確率)
ここでAとBが独立である場合、
(Aが起きた条件下でBが起きる確率)=(Bの確率)
(Bが起きた条件下でAが起きる確率)=(Aの確率)
なので、
(AとBが同時に起こる確率)=(Aの確率)×(Bの確率)
と楽に考えることができます。
考慮しきれない条件とそれなりにうまくやるには?
今回の記事では、目の前の確率は大抵何かしらの条件付き確率であることを見てきました。しかし、第一回から述べているようにこれらの全てを考慮して完璧に計算することはできません。なので完璧は不可能でも、確率を使ううえでのよりよいアプローチはどうあるべきかを掘り下げて行きましょう。
・何かがおかしいと思ったとき、違和感の正体を確率で説明したい
・対戦中に厳密な数字を出すことはできないけれどおおよその見積もりをつけたい
次の記事では、このような目的をどう達成するか考えます。はじめの記事で書いたように、確率は明確な答えをくれることは少ないですが、よりよいスタート地点に立たせてくれたり、向かうべき方向を示唆してくれたりします。そのスタート地点の見つけ方や、向かう方向の決め方を考えていきましょう。
それでは今回もお疲れ様でした!
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