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【BL二次小説(R18)】 卒業旅行⑤
東「フク。これを食べてみろ」
東堂は自分の皿にあるイチゴを差し出した。
福「……ム!」
そのイチゴを一口で食べ、福富は驚く。
福「硬い!そして半端なく酸っぱい!甘味の欠片もない!」
東「そのイチゴを旨いと思うか?」
福「いや……。これはもう食べたくない」
消沈する福富。
東「こっちのイチゴは甘くない。練乳をかけねばとても食えたもんではない。日本のイチゴが世界一だ。このように、こっちの食べ物も全てが絶賛出来るわけではない。例えば……」
東堂は食材が並ぶカウンターを指差した。
東「パンのコーナーに、シロップがギトギトにかかったデニッシュや、毒々しいドーナツが並んでいただろう」
新「ああ。さすがに朝っぱらからあれはちょっと……」
東「周りを見てみろ」
言われた通り他のテーブルを見渡してみると、みんな甘そうな物ばかり食べていた。
荒「ウゲ……」
東「アメリカ人は朝から甘い物を食べると頭が良くなると信じている。確かに脳に糖は必要だ。しかしそれを曲解したため、朝食はどんどん激甘にエスカレートしていった」
荒「頭良くなりてェのかなりたくねェのか」
東「日本でも一時期流行った生クリームたっぷりのパンケーキも、元々はアメリカの朝食メニューだ」
新「デザートじゃなかったのか!」
福「……なんと言うか……全てにおいて大味な国民性なんだな」
東「そう!その通りだフク!」
東堂は福富を指差して叫んだ。
東「だから、今はまだ良いが、永く滞在しているとやはり日本人の繊細さや気遣いが恋しくなる。アメリカ人の大味さをちゃんと理解して付き合わねば気が狂うだろう」
新「へぇ~。尽八の解説で一気にアメリカ人が理解出来た気がするよ」
福「詳しい案内人が居て助かる」
荒「東堂のウンチクが役に立ったの初めてだナ」
東「フフフ。そう誉めるでない」
東堂は得意げにふんぞり反った。
新「ところで、テーマパークの開園時刻は?」
東「9時だ」
福「もう8時過ぎているぞ。早く行こう」
東「慌てるな。大丈夫だ」
荒「開店待ちしねェと混むだろ?」
東「10分前に着けば余裕だ。ここからテーマパークまでシャトルバスで5分だしな」
それでもソワソワしている面々を見て、東堂は出発することにした。
新「ワクワクするなぁ」
シャトルバスに乗って移動する4人組。
福富は窓外の流れる光景を動画で録っている。
荒「バスの座席、プラスチックで硬てェのな」
東「長距離バス以外はこうだ。合理的だろう?」
あっという間にテーマパークに着いた。
正門前でたくさんの客が待っている。
開門1分前になると、キャラクターが数体現れ、踊りながらカウントダウンを始めた。
そして開門 ──。
新「わーい」
荒「うホーイ」
喜んで駆け出そうとする新開と荒北を、東堂が止める。
東「慌てなくて良いと言っただろう。見ろ、誰も走ってなどおらん」
周りを見ると確かに誰も走る者は居ない。
子供もみんなゆっくり歩いている。
東「人気アトラクションでも待ち時間ゼロで乗れる。日本のようにセカセカせずとも余裕なのだ」
荒「それって夢のようじゃん」
東「その通り。ここは夢の国だ」
しばらく歩いていると……。
荒「ボッキーだ!福ちゃん!ボッキーが居るぜ!」
福「ム!」
大きな黒い耳をしたボッキーマウスを数m先に見付けた。
日本ではすぐに人だかりが出来てしまい近付けないが、単独で悠々と普通に歩いている。
新「寿一!一緒に写真撮ってもらわなきゃ!」
福「ムム!」
騒いでいると、ボッキーが気付いてくれ、こちらに寄ってきた。
福「!」
待ち時間も無く、しかもボッキーの方から寄って来てくれたため、心の準備をしていなかった福富は緊張で固まっている。
新「寿一!ほら!えっと……take photo with us please かな?」
ボッキー「Sure!」
荒「うオ!喋った!」
ボッキーは両手を広げ、福富をぎゅっと抱き締めた。
福「!!」
真っ赤になって硬直している福富と肩を並べ、気前よく様々なポーズをとってくれるボッキー。
みんなで何枚も何枚も楽しく写真を撮りまくった。
新「サンキューボッキー!サンキュー!」
ボッキー「enjo~y!」
ボッキーは手を振って去って行った。
荒「本場のボッキーをこんなに独占して写真撮っちまったゼ!」
大興奮している荒北。
東「だから言っただろう。待ち時間など無いと」
新「適当な英語でも通じるもんだな」
東「間違いを恐れず、とにかく喋ってみることが大事だ」
福「……」
東「フク?」
固まって動かない福富に触れてみる東堂。
東「……気絶している」
荒「エ?いつから?」
新「抱き付かれてからずっと?」