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【BL二次小説(R18)】 卒業旅行⑭
東「だがしかし!」
どんよりとしてしまった空気を打ち消すように、東堂は断言した。
東「ネズミーがエンターテインメントで世界一ということもまた事実!」
それは3人も同感だった。
東「我々はただ無心に楽しめば良いのだよ!ワハハハ!」
新「自分が言い出したくせに」
荒「勝手なもんだ」
福「ではそろそろ行こうか」
一行はカフェを出た。
他の国のパビリオンをゆっくり見学する。
さっき言っていたイタリア館も覗いてみた。
荒「あ~あ~。運河もトレビの泉もごちゃ混ぜだぜ」
福「コロッセオの中にピサの斜塔とは。最早アートだな」
新「スパゲティがピッツァの具になってる……これじゃ広島風お好み焼きだ」
メキシコ館へ行くと、ガイコツだらけだった。
荒「なんだこりゃア」
東「死者の日という有名な祭でガイコツを奉るものだ」
福「ほう。そんな変わった祭があるのか。お盆やハロウィンのようなものだろうか」
新「メキシコなんて派手な帽子とサボテンぐらいしか知らないもんな。勉強になったよ」
次はイギリス館へ。
福「紅茶とスコーンしか知らん」
荒「フィッシュ&チップスもあるぜ」
新「男はみんなシルクハット被った紳士なんだよな」
ほとんどのパビリオンが浅い知識のままの内容で、だんだんその雰囲気にも慣れてきた。
もう不満を言う者は一人も居ない。
名産品コーナーの棚から真っ黒なチョコソースのような瓶を手に取り質問する。
荒「オイ東堂。なんだこのマーマイトって……ハッ」
言いかけて荒北は思わず息を飲んだ。
東「……」
東堂が沈んだ表情で立ち尽くしていたのだ。
ビッグベンの小さな置物を手にし、じっと見つめている。
今にも泣き出しそうな悲しい顔だ。
いつも元気に生意気な口を聞いてばかりのナルシストが、そんな姿を見せるのは初めてのことだった。
荒「……」
新「尽八……」
新開も東堂の異常事態に気が付いた。
新「買えばいいじゃないか、それ」
東堂にゆっくり歩み寄り、肩に手を置いて優しく声を掛ける新開。
東「隼人……」
東堂は眉をハの字に下げたまま、新開を振り向く。
新開は目の前に並んでいる大小様々なビッグベンの置物を手に取り、裏側をひっくり返して言った。
新「Made in Britain’って書いてある。ちゃんとイギリスで作られた物だよ」
東「……」
新「このビッグベン、巻島くんと同じ空気を吸ってるんだ」
東「!」
そう聞いて、瞳が輝く東堂。
東「巻ちゃんと……同じ空気を……」
滲み出ていた涙を手の甲で拭い、笑顔を見せて言った。
東「うむ。購入しよう」
東堂はレジへ向かった。
新開と荒北はホッとしてその様子を見守る。
福「変わった土産物を買うんだな」
事情を知らない福富だけが不思議そうにしていた。