【BL二次小説(R18)】 言えない秘密①
彼と初めて出逢ったのは、大学2年の夏 ──。
その晩オレは、自分のアパートで高校時代からの恋人である靖友と呑んでいた。
お互い部活やゼミやバイトで忙しく、会えたのは久々だった。
オレ達はやっと酒を呑める歳になったこともあり、ビールやら日本酒やらをしこたま買い込んだ。
明日は大学は休みだし、バイトもお互い明日の夜からだ。
今夜は夜通し呑み明かす予定。
「チャンポンで呑んで大丈夫なのかな」
「大丈夫大丈夫ゥ。ヤべェと思ったら止めりゃいいだけだ」
「カーペットに吐かないでくれよ」
「コンビニの袋あっからここに」
「穴開いてないか?洗面器用意しとくよ」
「ンなもん見えるトコ置くな。酒が不味くなンだろ」
オレ達はまだ限界まで呑んだことがない。
だから今夜はどこまで呑めるものなのかを検証する予定だった。
靖友はもう顔が真っ赤でかなり陽気になっている。
だがまだ会話は成立しているし、意識もはっきりしているようだ。
オレはちょっとフワフワしてるかな。
靖友が潰れたら介抱しなきゃいけないからそろそろストップしなくちゃ、と自制心は働いている状態だ。
ははっ。
これじゃ自分は限界まで呑めないじゃないか。
まぁいいか。
焼酎の4本目を呑み干した直後だった。
靖友の様子が、おかしい。
「……グスッ」
下を向いて、鼻をすすっている。
テーブルの上でグーに握った拳がブルブル震えていた。
……泣いてる?
「どうした?靖友。大丈夫か?」
バイトで理不尽なことでもあったのだろうか。
オレは伸ばした手を靖友の肩に置いた。
「……ンでだよ」
「え?」
「なンでだよ」
「なにが?」
靖友は顔を上げた。
涙をポロポロこぼしている。
悲しそうな顔でオレを見て、こう言った。
「なンでもっと会ってくんないんだよ!」
……え?
「部活だバイトだってさァ!何日も何週間もオレを放っとくなよ!」
「……!」
「オレに会えなくても平気なのかよオメーは!」
「や、靖友?」
「オレはさァ。毎日会いてェんだよ。高校ン時みてェにさァ。電話とかメールじゃなくてさァ」
シクシクと泣く靖友。
靖友が……靖友が、オレに会いたい……だと?
毎日オレに会いたいと泣いて訴える……だと?
目の前の光景が信じられない。
あのいつもツンツンと勝ち気な靖友が……。
「毎日毎日オメーのこと考えて頭一杯だヨ。寂しいんだヨ……。恋しいんだヨ……」
グスグスとしゃくり上げながら手の甲で涙を拭っている。
これは……靖友の本心?
酔ったせいで本音が出てきているということか?
驚いてすっかり酔いが覚めてしまったオレは、靖友の隣りに移動して肩を抱いた。
「靖友……」
靖友はその瞬間、ガバッとオレに抱き付いて叫んだ。
「オメーもいつもオレのこと考えててくれなきゃダメ!いつもオレのこと好きじゃなきゃダメ!」
「……!」
オレは激しく戸惑った。
酒のせいで本心が出ているにしても、キャラが全く違くないか?
靖友はこんなに女々しかったか?
これじゃあまるで二重人格、いや、全くの別人だ。
「好き。新開。好き。好き」
「……!!」
靖友に……初めて「好き」と言ってもらえた!
告白した時も、付き合い始めた時も、初キスの時も、初エッチの時も、一度だって言ってはくれなかったというのに!!
ハッ!
そうか!
これは、この靖友は、ツンデレの「デレ」なのだ!
今までずっと「ツン」だけだったが、酒を覚えて初めて「デレ」が発動したのだ!
ツンの靖友とは全くの別人と言って良い、対称的なデレ……そう、「デレ北」だ!
これが、オレとデレ北の初めての出逢いだった ──。