娘へ
物心がついた頃から兄と3人暮らし、時には、ヘルパーさんやおばあちゃんと、あるいは、兄と二人で留守番することも多く、仕事に出るわたくしを追って、玄関先で泣いていた日が懐かしく思い出されます。
オフィス兼用の自宅で、遅くまでパソコンに向かって仕事をしていたおかげで、キーボードを叩く音が子守唄になってしまい、いつまでも添い寝していると、はやく仕事に戻って、あの音がないと眠れない、と言いましたね。
そんなあなたが二十歳を待たずして、結婚することを決め、母は少々戸惑いました。
自分で自分を幸せにする為に、自分のことは自分で決めるようにと自立を一義に育ててきましたから、反対する理由はなかったものの、これから大人の女性同士として、生き方や在り方を話し合えると愉しみにしていただけに、それはあまりに早く、心の準備がなかったので、もう少し、そばにいてほしい、と思いました。
実は、この度の結婚にあたっては、幾人かの方から、今どき珍しくあまりに若いので、よく賛成したわね、と言われました。
賛成も何も、頑固で一途なあなたのこと、何を言っても聴かないことはよくわかっていますので、そうね・・と笑うしかありませんでした。でも、誰よりも温かい家庭を希求していたあなたが早々と、同じような境遇の彼と一緒になることは、何ら不思議ではありません。
新郎と会ったのは、新郎9歳、あなたが2歳でした。
後に、お母様を亡くした新郎一家とわたくし共が親しくなり、助け合う仲になるばかりでなく本当の家族になるとは、誰が予想したでしょう。
繊細で完璧主義なところがあり、自分より周囲の人のことばかり考えて気疲れするあなたが新郎と一緒にいる時は、ゆったりと甘えており、天然ボケ全開なので、安心しているんだなぁ、と母も安心しています。
一方、日頃優しくも厳しいお父様やお兄様方にやっつけられている新郎があなたにあれこれ教えたり、世話したりする姿は頼もしく、微笑ましく眺めています。
ある年の節分の日、まだあなたが保育園に通っていた頃、あなたと兄二人をヘルパーさんに預けて仕事に行ったでしょ、あの日3人で豆まきしたけれど、ほんとはお母さんと豆まきしたかったって泣いたの、でもお兄ちゃんがお母さんには言うなっていうから言わなかったけど・・・と、随分経ってから告白してくれました。
そう、この人がいなければ、大黒柱として仕事をしながら、身体が弱かったあなたを育てることは出来ませんでした。
あなたの兄であり、新郎と幼馴染である長男。
彼からも一言話してもらいましょう。
結びに一言。
新郎へ
わたくしにとっては、もはや息子のような存在の新郎が本当の家族になることをとても喜ばしく思っています。
娘へ
良き妻、良い母ではなく、幸せな妻、ゴキゲンな母でありなさい。
迷ったら、正しいかどうかで判断するのではなく、それは、愛が根底にあるかそれとも恐れなのか、見極め、愛だけを選択しなさい。
痛みのない人生に価値はありません。恐れず、彼と手を携えて前に進みなさい。
未来の為に、今を犠牲にせず、でも、今の選択が未来の人生を創ることを覚えておきなさい。
難しいことばかりいいましたが、一番大切なことは、毎日笑って暮らすことです。
あなたは、全てを味わい愛で、愉しむことが出来る娘です。
自信を持って歩きなさい。
あなたは、いつまでも母の大切な大切な娘です。
母のところに生まれてきてくれてありがとう。
幸せにね。
2019年9月 二十歳と二日で嫁いだ娘へ
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