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クリーンなだけじゃ、こんなに弘前に惹かれない。

学ぶ街は、暮らす街でもある。

弘前大学イメージポスターより

弘前大学人文社会科学部を2022年に卒業した。上のコンセプトは学ぶ街として、暮らす街として弘前にいた者として大きく頷けるものである。

ただ、弘前の魅力は綺麗な写真とステキな言葉だけでは表現しきれていないとぼくは思う。学生4年+個人事業主1年の5年間弘前で暮らしつつ、街に関わって来た自分からすると弘前は次のようなまちだ。

  1. 歩いていると知人に会う

  2. 本屋から本をもらう

  3. サッカーの試合を見るためにパブに行く

  4. 飲み屋で初めて知り合ったひととポケモンカードバトルが始まる

  5. 通りがかったベトナム人からお菓子を買う

  6. 飲み屋で隣り合ったお兄さんは自分のことを知っている人だった

  7. 2時過ぎに温泉に入っておっちゃんたちと雑魚寝する

これが"1日のうちに"起こる。いや、起きたのだ。文章にすることで客観視できた。やっぱ面白ぇよこのまち。

ひとつずつ解説していこう。

歩いていると知人に会う

この日、自分は通勤通学する人たちで混み合う時間のJR奥羽本線に乗り込み青森から弘前に着いた。仕事の予定まで喫茶店にいようと思った朝7:30。実は弘前はモーニングの選択肢が中心商店街から徒歩20分圏内に4件はある。まぁその話は別で書く。

そのうちの1件を目指して歩いていると、道中見覚えのある背中があった。「〇〇さん」と声をかけると、振り返ったのはまさしくその人だった。映画を観るために東京に行っていて、夜行バスから降りた帰り道だったらしい。

「いや、申し訳ないとは思っているんだけれど、このタイミングで話しかけてしまったのが悪いのだから付き合ってもらおう」と映画の興奮冷めやらぬ知人に捕まり、20分ほど立ち話をする。

まちで知り合いと会うのは、ままあることだと思う。自分はそう思っているが、日本の大都市に住む方々はいかがだろうか。

本屋から本をもらう

仕事を終え、馴染みの本屋に行く。馴染みとは言っても、卒論でお世話になっただけであり、関係性は深くない。創業100年を超える新刊書店である。弘前の新刊書店としては最古だ。

本屋の"女将さん"に「卒論ではお世話になりました、鎌田です」などと挨拶をする。本を届けに市内を走り回っている元気なお方だが、なにせ歴史の生き証人にもなりえるご年齢でもある。忘れてしまっているかも……と思ったが、

「いや、待っていたの。この間ね、雑誌に取材されてさ、いや、身内に見られるのも恥ずかしいでしょ。ご近所に配るのも恥ずかしいし、鎌田くんが来たらあげようと思って、これ、持っていって」

と、雑誌と"飴っこ"を渡される。弘前を離れる挨拶もしたはずだが、いや、嬉しい、嬉しいんだけど待つかね。しかも、それ商品とちゃうんか。いや、めっちゃ嬉しいんですがね。

サッカーの試合を見るためにパブに行く

2ヶ月ぶりくらいの弘前だった。折角なら学生のときによく行った店にいこうと思い立つ。実はサッカーが好きなのだが、店内で欧州サッカーを流しているパブがあるのだ。22時までの本屋アルバイトのあとモスコミュールとチップス(フライドポテト)を食べながらその週の欧州サッカーのハイライトを観るのが習慣だった。

振り返ると1年近く行っていないし、自分はひとりのお客でしかない。着くとパブはテーブル席がひとつだけ空いているだけで、ほぼ満席だった。

アルバイトと思しきスタッフがモバイルオーダーの説明をして、自分は"いつもの"セットを頼む。すると店主が近くにやったきて「シティのハイライトでいい?」と聞くのだ。いや、すげぇな。よく覚えているなと。

変わらず店内はアイリッシュな音楽と、陽気な男たちが、席も関係なく飲んでいた。どうやら弘前のスポーツ関係者らしい。

飲み屋で初めて会ったひととポケモンカードバトルが始まる

馴染みの飲み屋が何軒かあるのだが、夜が深くなるとさすがに選択肢は少なくなる。そのうちのひとつに行ってみる。

24時か近かったはずだが、カウンター8席とテーブル8席しかない店内はカウンター1席を除いて満員だった。特に予約はしていなかったが、これも縁がとそこに滑り込む。

左も右も男の2人組だった。右の方は店主の知り合いのようだ。自然と会話に入れてもらう。何のきっかけだったか、スマホゲーム版のポケモンカードをやっていると話題に上がった。

「目と目があったらポケモン勝負!」というのは、ポケモントレーナーなら常識だと思っていたが、弘前のバーでも通用するらしい。

ポケモンカードバトルが始まった。泥酔者相手だとさすがに勝てるものだ。バトル後には謎の握手をし、「よし、飲もう」と酒が入る。

ちなみにこの後ベトナム人からお菓子を買い、会計をもらった。バトルで負かしたお兄さんが、負けた杯数分の会計を済ませてくれたことをそこで知った。ポケモントレーナーとしてかっこよすぎるだろ。

通りがかったベトナム人からお菓子を買う

ポケモントレーナーと仲良くなったあと、少し酔いを覚まそうと2人で外気を吸いに出る。外はみぞれが降っていた。「めちゃ寒いっすね、函館まだ降ってなかったですよ」なんてノリだけならテキトーな会話をしていた。

「スミマセン……」と道行く女性に話しかけられた。日本人ではないと抑揚でわかる。見せられたプラカードには「生活に困っています。お菓子を売っています」と書かれていた。1袋1000円だという。

「弘前にすんでいる外国人が何か困っているらしい。そしてぼくらは陽気に飲んでいて、まぁある程度お金がある」酔っ払いにはその商売がグレーだとかアウトだとかはもうわからない。1人1袋買った。

ポケモントレーナーは「どこから来たの?」と優しく問いかける。ベトナムだという。「いつから日本に?」自分は訊ねる。2年前だという。

いや、2年もいるのか。まぁ幸せに暮らしてくれい。寒くなったぼくらは飲み屋に戻る。

飲み屋で隣り合ったお兄さんは自分のことを知っている人だった

右隣のポケモントレーナーと楽しく飲んでいると、左から話しかけられる。「鎌田さんって、もしかしてラーメン屋の鎌田さんですか?」「元ですが、そうですね」「実は大鰐で1回合ってるんですよ自分!」

左のお兄さんは話してみると同い年くらいだった。大鰐でカフェをやっている方だった。確かに1回お会いしている。さすがにこんなとこで会うとは思わなかった。

いや、大鰐のひとが深夜の弘前にいるとは思わないじゃないですか。忘れていたわけじゃないんですよ、本当です。ごめんなさい。次はちゃんと飲みたいなぁ。

2時過ぎに温泉に入っておっちゃんたちと雑魚寝する

さすがに酔った、そして自分は宿を押さえていない。しかし、それでもいけるのが弘前である。

弘前の繁華街 鍛冶町には、温泉付きのカプセルホテルがあるのだ。深夜2時にチェックインする。まずは温泉に浸かり、冷えた身体をほぐす。繁華街の建物の上階にあるが、銭湯ではなく温泉なのだ。ちょっと熱い。

奇しくも華金の夜。カプセルホテルは満室だった。リクライニングチェアーなら空いているとのことで、案内を受けると、そこにはもう帰れなくなったおっちゃんがたが並んでいた。なんとも幸せそうに寝転がっているのだ。

そんな光景の一部になると色々どうでもよくなってくる。温泉で温まり、リクライニングチェアーに身を預ける。明日のことは明日の俺がなんとかするだろう。ああ、楽しい1日だった。

まとまらない

これはある日の日記ですね。いやお恥ずかしいが、とりあえず書いた事実が自分には大切なので許してほしい。

きっと東京などの大都市では自分の想像も及ばないような楽しいことが日々起こっているのだと思う。ただ、弘前もこんなことができるのな。決してキレイな魅力ではない。グレーゾーンもある、もしかするとアウトかもしれない。それでも、惹きつけられてしまう魔力がこの街にはある。

学ぶ街は、暮らす街でもある。キレイで穏やかで暮らしやすいことだけが街の魅力なら、なんと薄っぺらいことだろうと思う。蓄積された歴史と人間関係とお酒が絡む、大っぴらには書けないひとを惹きつける魔力がこの街にはある。

白河の清きに魚の住みかねて
もとの濁りの田沼恋ひしき

与謝蕪村

クリーンな環境は素晴らしい。明るくて、清潔で、安定で、さぞ住みやすいだろう。しかし、それじゃ息苦しくなってしまう魚もいるという。清濁併せ持つこと、それはぼくのテーマでもある。綺麗事じゃひとは動かない、でも綺麗事を言ってもいい人間でいようと思う。

弘前で学べて、弘前で暮らせて本当に良かったと思う。おしまい。

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