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三日坊主日記 vol.304 『48時間で短編映画をつくるという無謀なイベント』

The 48 Hour Film Project という、48時間で映画をつくるイベント(映画祭)がある。


2001年にアメリカのワシントンDCでスタート。文字通り48時間で短編映画をつくり、その出来映えを競うもの。都市単位で開催され、その都市の優勝チームが更にFilmapaloozaと呼ばれる世界大会に出場し、世界一を競うのだ。 Filmapaloozaで上映された作品の中から毎年10本ほどは、あのカンヌ国際映画祭でも上映されることになっている。これまでに45カ国、200以上の都市で開催された世界的なイベントで、毎年100を超える都市で開催されている。日本でも2011年に大阪で初めて開催され、その後東京、福岡が相次いで参戦している。


ユニークなのはそのルール。映画のジャンル、出演者(多くの場合主人公)の名前と属性、キーになるセリフ、必ず使用する小道具をKick offミーティングという開始直前のイベントで抽選によって決め、その条件に沿って48時間以内に映画を完成させるのだ。つまり、どんな条件になるかは蓋を開けてみないとわからないので基本的に準備がしづらく、脚本からキャスティング、ロケハン、撮影、ポストプロダクションまですべて48時間以内にこなさないといけないという、非常に過酷で無謀ともいえるイベントなのである。今年を例にとると、キャラクターは「牧宏または浩美(まきひろしorひろみ)」。属性は「機械音痴」。キーになるセリフは「あなたがそれを言うか」。そして小道具が「磁石」となっている。


僕は、2011年に日本で初めて開催された大阪大会に出場し、幸運なことに優勝した。その年の Filmapaloozaはアメリカ ニューメキシコ州のTaosという美しい街で開催され、僕ももちろん仲間たちと参戦した。残念ながら世界大会での受賞はならなかったし、その頃はカンヌ映画祭とのパートナーシップもなかったので、そこで祭りは終わった。しかし、それをきっかけにパリのプロデューサーから声が掛かって短編映画をつくったし、何より、僕がテレビCM以外の映像作品をつくることになる大きなきっかけとなった。


ちなみに、その年の僕らのチームは、ロケ場所(京都にある古く趣のある小学校)だけは予め決めていたが、それ以外は全く何も決めずに挑んだ。金曜日の19時にKick offし、我々のベースキャンプにスタッフ及びキャスティングディレクターが集まって脚本会議。大枠ができたところでキャスティング発注して解散。僕と制作部だけ残って脚本を執筆し、書き終えたのが土曜日の明け方近く。そのまま一睡もせずに撮影に突入。編集マンも撮影現場に来てデータの受け渡しや仮編集などしながらなんとか撮影を終え、そのままポストプロダクションへ突入し、なんとかギリギリ日曜日19:00のDrop offに間に合ったのだ。


こんなアホなイベントはもう二度とゴメンだと思いながらも、性懲りも無く翌年も参加した。二年目は残念ながら優勝は逃したものの、全体の2位になり、観客賞始めいろんな賞もいただいたんだけど、さすがにその年を最後に卒業した。それから何年か経って、いまは大阪大会の審査員をしている。審査員を務めることはとても名誉なことではあるんだけど、これがなかなか大変なのである。今年は39チームが参加して、各々7〜8分の作品を完成させている。39本すべて見て点数をつけるのは当然なんだけど、すべてのチームにコメントを出す必要がある。これがなかなか重労働なのだ。


どのチームの真剣(そうあって欲しい)に48時間戦った。その結果として映画という作品が残っているんだけど、参加者の実力には当然ばらつきがある。もちろん、間口を広げ、映像業界を志す人を増やすのも大きな目的のひとつではある。しかし、しかしである。プロもいれば学生もいる。一般の方ももちろんいる。つまり、いってしまえば、レベルが全く揃っていないのである。いや、誤解を恐れずに正直にいうと、見るに耐えない作品が非常に多いのである(参加者の名誉のためにいっておくが、素晴らしい作品、キラリと才能が光る作品ももちろんある)。


経験の少ない人が一生懸命につくったものにダメ出しするのは簡単だ。ここをこうしたほうかいいとか、もう少しこの部分を考えた方がいいだとか、いうのは簡単だけど、それをいって何になる。それよりはいいところを見つけ出して、そこを褒めた方が良い結果になると思うのだ。人は褒められて育つ。僕も褒められて育つ。それに、わからない人にアドバイスしても、結局わからないのだから。しかし、良いところが見つからないのに無理して褒めるというのは、非常に辛いのである。ここだけの話。



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