三日坊主日記 vol.267 『「泥の子と狭い家の物語」誕生裏話しのようなもの』
昨日秋分の日。生憎の天気でしたが多くの方に見にきていただき、ありがとうございました。
2回目の上映後には、井之頭役の湯浅崇くんがゲストにきてくれた。彼にはファンが多いので、盛り上がる盛り上がる。演劇版『泥の子と狭い家の物語』の裏話しや、当時(12年前)の若かりし湯浅くんの写真が出てきたりして、みんなで楽しい時間を過ごすことができた。
映画『泥の子と狭い家の物語』は、2012年が初演の劇団テノヒラサイズによる演劇が原作になっている。当時、湯浅くんは父親役の内田幸男を演じていたそうだ。そして、今回、冒頭の法事のシーンでいたずら坊主のお母さんとしてチラッと出てくれた、あだち理絵子さんが主役の内田小豆を演じていたらしい。ちなみに、舞台版『泥の子』には出ていないが、今回たっくんに殴られる井上先生を演じてくれた木内義一くんもテノヒラサイズの俳優さん。
らしいというのは、僕はこの初演を残念ながら見ていない(もちろん映画化が決まってからDVDを買いましたが)。2018年に別のキャスティングで再演された舞台を見て、映画化したいと思ったのだ。暗くて狭い舞台セットの中で進行していく、これまた暗くて辛気臭くて救いようのない荒唐無稽な話なんだけど、僕はなんだかすごく共感できた。そして不思議なんだけど、なんだかとても解放されたような気持ちにもなったのを覚えている。途中からは芝居そっちのけで、映画の構想というか、この暗くて狭い空間をどこに持っていってどう映像化しようか、したら面白いか、なんてことを考えていた。
芝居の中に、井之頭先生が家庭訪問に来るのを居候中の幸男の弟(映画版ではカットされている)が迎えにいくくだりがある。舞台上では袖にはけるだけで、具体的に家の外は描写されていないんだけど、僕には運河の側に小さな町工場が立ち並ぶ風景がはっきりと見えたような気がした。その記憶が僕の頭の隅に残っていたんだろう。2021年に映画化が決まって、僕は真っ先に運河の街大正区を訪れた。舞台装置ひとつで表現している物語を映画として成立させるために、まず世界観の概要を掴みたかったのだ。
その日はほぼ一日中一人で大正の町を歩き回り、映画の骨組みはできあがった。もちろん、脚本もキャスティングも何もかもまだ決まっていない段階ではあったけど、僕の中ではこの町で撮りたい。この町で撮ることができたらこの映画はうまくいく。という根拠のない手応えを掴んだのをはっきりと覚えている。
このあと、実制作に入っていき、さまざまなスタッフやキャスト、関係者の皆さんに支えられて映画はできていく。また機会があったらその辺りの映画制作現場の話も書ければいいなと思う。
いろんな方々の思いや苦労があって出来上がったこの映画『泥の子と狭い家の物語』は、大阪谷町四丁目の「マテリアル谷町」で本日最終日です。
13:00からと16:00から。13:00の回の上映後にはアフタートークとして皆さんにご挨拶いたします。是非是非お越しください。
昨日お越しくださったっみなさま、湯浅くん、ありがとうございました。