「人は何度でもチャレンジできる」というマインドが、ブランド利益につながる理由とは?
消費者の価値観によって消費が大きく変化することは周知の事実だと思います。では、その消費者の価値観を変えることはできないのでしょうか?
ブランドにとって好影響を与える価値観は、消費者の「再チャレンジできるマインド」にあります。この「再チャレンジできるマインド」とは何なのか?先行き不透明な時代に、マーケティング活動は消費者の再チャレンジを後押しできるのか?最新のマーケティング研究を踏まえ、日本において有効な後押しの方法を解説します!
消費者の価値観を変える!それって可能?そのメリットは?
消費者調査にまつわる最近の関心事を大きく二つに分けると、「消費者のブランドの関係」と「消費者の価値観の変化」に分けられるのではないでしょうか。
前者は、様々な媒体を通して消費者のブランドに対する印象やそのブランドとの関係性を調査していくものであり、マーケティングにおいて非常に有効な手段とされています。一方、後者は、マーケティングの影響範囲として捉えられていない傾向にあると思います。
例えば、最近流行のブランドパーパス関連の調査を例に挙げると、「消費者が購買行動において倫理的・社会的な公正さを重視するようになっているから、これからのブランドにはパーパスが不可欠になる」といった示唆を提示する調査は数多くありますが、こうした価値観の変化はあくまでマーケティング活動においては「定数」であり、影響を与えうる「変数」として捉えられることは少ないのではないでしょうか。
しかし、近年海外で発表された論文では、消費者の価値観はマーケティングによって変化しうると考えられています。その中でも、本記事では、Fresh Start Mindset(以下、FSM)、つまり「再チャレンジできるマインド」を取り上げます。FSMは、人はどのような過去があり、どのような状況であろうとも何度でもチャレンジできる、新しいスタートを切ることができるといったマインドを指しています。
またFSMは、未来志向や自己効力感(目標を達成するための能力を持っていると認識すること)、レジリエンス(困難や脅威に直面している状況に対して、うまく適応できる能力や精神力)等のウェルビーイングに関連性が高いとされている価値観に影響されていることが示されています。
さらに、FSMは広告によって喚起、さらに強化ができ、その広告の対象となっている商品の購入や支払いが増加することで、ブランドにとって利得になると示されています。
他には、FSMが強い人は多くの国で環境に配慮した商品を購入するといった傾向もみられました。環境に配慮した商品を購入するには自分の行動習慣や生活習慣を切り替えることが必要であり、FSMの弱い人に比べて強い人の方が切り替えることへのストレスが少なく、ハードルが低いからではないかと考えられています。これは健康意識に対しても言えることで、変化が必要な健康行動には「再チャレンジ」が必要不可欠であり、FSMが強い人は自らの行動を変えられる傾向にあります。
FSMは広告によって変化し得るのと同時に、FSMの喚起や強化を行うことは、広告の対象となっているブランドの購入意向の上昇や環境配慮、および健康行動に好影響を与えることが先行研究から既に明らかになっているのです。
日本でも同じ?FSMはブランドに関わる行動に関連する?
前章では、海外の論文によるFSMと広告の関連性をご説明しましたが、この結果は日本においても説明することができるのでしょうか。アンケートを利用して、共分散構造分析および消費者購買履歴データ「QPR™」からひも解いていきます。
なお、今回の調査では、FSMを7段階に分け、平均値が4.0以上の消費者をFSMが強い人、4.0未満を弱い人と定義したものとなっています。
まず、FSMを説明変数(何かの原因となっている変数)、消費者の価値共創行動を目的変数(その原因を受けて発生した結果となっている変数)とした、直接観測できない潜在変数を導入し因果関係の構造を分析する「共分散構造分析」を行いました。
購買や消費を伴わない、企業・ブランドに対する貢献行動を指す「価値共創行動」ですが、具体的には、有益なアイデアや改善点があった際にお店や従業員に意見を言う「共有」、口コミのように良い商品や従業員をほかの人にポジティブに紹介する「推奨」、ブランド側が失敗してもその商品を使い続ける「許容」といったものがあります。FSMの強弱がこういった価値共創行動にどのような影響を与える可能性があるのか分析しました。
分析では「共有」と「推奨」が高い数値となり、FSMの強弱が「共有」と「推奨」の予測因子である可能性が示されました。他方で、「許容」との関連性を認められない結果となりました。
つまり、FSMの強い人は自分や他者の変化に対して積極的であるため、他者に対して意見やアイデアを言ったり、改善点を伝えることで改善されるといった期待があり、共有する性質が強いことが考えられます。また、意外にも「許容」との関連性が見られなかったことから、ブランドの失敗を我慢するよりも他のブランドにスイッチするといった性質が強いと推測されます。
FSMの強い人はダイエットに興味ない!?FSM強弱による購買傾向の違いとは
ここからは、マクロミルの消費者購買履歴データ「QPR™」(以下、購買履歴データ)を用いて、FSMの強弱による健康志向商品の購入率・金額比較をそれぞれのカテゴリーで区分した調査結果をご紹介します。
まずラベルレス飲料の購買履歴データを見てみると、FSMの強い消費者の方がラベルレス飲料の購入率・購入金額ともに高いという結果になりました。
FSMの強い人と弱い人を比べると、FSMの強い人の方が、購入率は13%、100人当たり購入金額は30%、購入者当たり購入金額は16%と、すべてにおいて大きく上回っていることが分かります。この結果のみで断定することはできませんが、日本においてもFSMと環境に配慮した消費には関連性があるかもしれません。
次に禁煙補助薬を見てみると、こちらもすべての項目においてFSMの強い消費者群の方が大きく上回っていることが見てとれます。長い間たばこを吸っていた人が禁煙という自己変革を決心するというマインドは健康意識にまつわる再チャレンジのマインドに関連しているものと考えられます。こちらの調査結果はサンプル数が100に満たないため参考値ではありますが、興味深い結果としてご紹介します。
ホエイプロテインにおいても、FSMの強い消費者群の方が高いという結果になりました。元々運動していなかった人が健康を意識し運動を始めるといった決心にもやはり再チャレンジというマインドは必要不可欠であり、ホエイプロテインの購入は運動を始めるという決意に対して大きく影響されるものであると考えられます。
商品名に明示的に「ダイエット」とつく商品の消費に関しては、今までの結果とは異なりFSMの弱い消費者群の方が全般的に高いという結果になりました。
この結果から、こういった商品を購入している人はダイエットを決意し実行しているのではなく、こういった商品を摂取することで再チャレンジの決意を先延ばしにするような考えのもと消費されたのではないかと推測できます。
まとめ
日本においてもFSMとブランドに関わる行動との関連性が示されるかという点については、共有行動・推奨行動の予測因子である可能性が示されました。また、FSMと環境配慮消費および健康行動への関連性において、FSMの強弱で消費者をセグメントすると、FSMの強い人の方が環境に配慮した消費と健康行動に関連する消費のどちらにおいても購入率や購入金額が高い傾向にあることが分かりました。
この二点により、日本においてもFSMはマーケティング活動の変数に足りうるということが言えるのではないでしょうか。また、FSMの高い消費者群は、単純な購入率や購入金額のほかにもブランドに対しての積極的な活動が期待できる消費者群であるため、マーケティングの上での重要な変数であることが確認できます。
今回の結果を踏まえ、今後は実際のマーケティング活動による働きかけをしていくことでFSMに対する影響を与えられるのか。また、その変化や強化によりブランドに対して好影響を与えられるのかといったことを対象に調査を進めていく予定です。また、「Growth Mindset(経験や努力によって人間の基本的資質は向上できるという考え方)」などのほかのマインドセットでも消費行動を説明する因子となるかについて、広げて調べていきたいと思います。
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