SUISEI
SEI
仕事が終わると、自動販売機で炭酸水を買って、一気に飲み干した。
「金曜日だし、飲みに行かない?」と、同期の女の子から声をかけられた。
「うーん、やめとく。もう、飲んじゃったし」と、飲み干した炭酸水のペットボトルをゴミ箱に捨てて、その場を去った。
電車に乗るのが苦痛で会社の近くに引っ越した。
歩いて15分、タクシーで5分の距離。
雨の時だけと決めていたタクシーだが、近頃は自分ルールが増え、
夜8時を過ぎたら乗ってもいいことになっている。
家に帰るとシャワーを浴び、ポテトチップスとビールを開けた。
ソファに寝転がり、ゲームをはじめる。
大学生の時は、何かに向かってひたすら自分を磨いていた。
スポーツもやったし、留学もしたし、資格も取ってみた。
そのおかげで大きな銀行へ就職できたと思う。
自分の努力が報われた気がして、
自分が認められた気がして、
何となくいい未来がつかめた気がしたものだ。
大きな銀行に入って、そりゃやることもたくさんあったし、
残業することも多かった。
最初のうちは、何もかもが新鮮でいろいろと勉強したり、資格を取ったり、努力をした。
残業して、そのあとカフェによって勉強して、カフェの閉店で追い出されたあとは、家でも勉強した。
「スタートダッシュで疲れちゃったんだな」と、ひとりごとを言う。
職場内でも自分の努力が認められ、発言もしやすくなったし、仕事も進めやすくなった。
今は、その状況にあぐらをかいている状況だ。
それほど勉強もしていないし、人付き合いの飲み会も大抵断って、家でゲームをしている。
少しはこんな期間があってもいいと思って、別に焦ってはいない。
ゲームに見切りをつけるとビールを飲み干した。
2本目のビールを冷蔵庫に取りにキッチンに行くと、キッチンに置きっぱなしの携帯電話に目がいった。
そういえば今日は金曜日。
思い立って、電話をかける。
少しの呼び出し音の後、「何だよ」という声とともに波の音が聞こえた。