ジョニーベア【2】2000文字
↑前のお話し↑
【2】二つの森
春のひかりに誘われていらい、
ママベアから森の事を色々教わりなら、
毎日森を散歩するようになりました。
いっぱい実をつける椎ノ木や、
どんぐりが沢山落ちている場所。
食べられるキノコに毒キノコ、
お腹が痛い時に効く葉っぱに
美味しい水が流れる川。
食べ物ばかりでなく、イノシシ、鹿、ウサギ、狐、狸、キツツキ、フクロウ、鷹、、、、
森の中で一緒に暮らす他の動物達の事も
毎日の散歩で学んでいきました。
ママベアの言う通り、森は全部でした。
森の全部が与えられた物で、
森の全部が分けあえる物でした。
「そして坊やもね、
やがては森に還って行くのよ」
ママベアがそう言った時に
ジョニーベアもまた森の全部の一部なんだと
分かってきました。
ある日のことでした。
いつものように森の中を散歩していると、
ズドーンという耳をつんざく音がしました。
ジョニーベアは初めて聞いた音だったので、
体がドキッとして肩をすぼめました。
そしてママベアはパッと体を屈めて
草むらに隠れると、音が鳴った方を見ました。
ジョニーベアはママベアのお腹の下に隠れて、
ママベアの見ていた方角に目を向けると、
向こうで鹿が飛び跳ねているのが見えました。
そしてまた、
ズドーン、ズドーン、ズドーンと
つんざく音が3回したと思ったら、
鹿がバタリと倒れてしまいました。
すると、鹿の向こうから長い木の棒のような物を
手にもった初めて見る動物が2匹やってきました。
それを見ていたママベアが言いました。
「いい坊や。向こうからやってきた2匹の動物は
人間っていうのよ。
彼らはね、森の動物ではないのだけれど、
時々森の外から森にやって来るのよ」
「森の外にも森があるの?」
「森の外に森はないわ。
森の外には森じゃない場所があるのよ。
でも、その森じゃない場所は
彼ら人間にとってみたら、
森なのかもしれないわね」
「僕達にとっては森が全部。
人間にしてみたら森の外が全部って事?」
「そういうことね。昔の森はね、
私達みたいな動物と人間は別々の森で暮らしていたの。でもね、そのうち人間はね、私達の森の中にやってくるようになったの」
「人間は人間の森があるのに、
どうして僕らの森にやってくるんだい」
「人間の森にも色々な物が沢山あるように見えるのだけれど、何かが足りなくなってしまったんでしょうね。確かな事は分からないわ。でも時々やってきては、あの長い棒を使って石より硬い鉄の玉で森の仲間を取って行くのよ」
向こうで倒れた鹿は棒に吊るされて、
人間達に運ばれていくのが見えると
ジョニーベアは怖くなって、
ブルブルっと震えてしまいました。
「いいかい坊や。
もしも人間を森の中で見かけたら、
近づいちゃだめだからね。
彼らは森の仲間じゃないのよ。
特にあの長い棒を持っていたら
一目散に逃げなさい。
あの鉄の玉を飛ばす棒と人間のにおいを
よおく覚えておくのよ。
少しでも辺りににおいがあったら
そこから先には絶対に近づいちゃだめだからね」
「分かったよ、ママ。
人間には絶対近づかないよ」
「あともう一つ人間について教えたいことがあるからついてきなさい」
ママベアはそう言ってスタスタと早歩きで歩いて行ってしまうので、
ジョニーベアは走りながらママベアについて行きました。
ジョニーベアの息が切れ切れになるほど走って
しばらくたった頃、
眼の前の森がなくなって、
そこには見たこともない
大きな広場が広がっていました。
広場の中には体に白黒のまだら模様がある
大きな動物が沢山いて、草を食んでいました。
「いい坊や。ここから急に森がなくなって、
広場になっているでしょ。
ここから先は人間の森なの。
そしてあの白黒まだら模様の大きな動物は
牛と言って、人間の森の動物なの。
彼らは私達とは違う動物で、人間の森に住んでいるの。人間の森には他にも豚、犬、鶏なんかの動物や美味しい野菜や果物もいっぱいあるの。
けれどね、それらは人間の森の物だから、絶対に取ってはだめよ」
「それはおかしいよママ、人間は人間の森だけじゃ足りないから僕らの森にやってきて、木を切ったり仲間を取っていくのに、僕らは人間の森の物を取ってはいけないのかい?」
「ママにも分からないの。私達だってお腹が減って困ってしまう時もあるし、森の仲間が人間の森の植物や動物を取ってしまうこともあるわ。
けれどね、大抵の森の仲間はあの鉄の玉の棒で人間から仕返しをされてしまうの。だから、どんなにお腹が減っていても人間の森には近づいちゃだめだからね、坊や」
坊やは人間の森の事がよく分かりませんでした。
全てを与えてくれる森は全てを分け合える森。
人間は僕らの森から奪っていくのに、
僕らは人間の森から分けてもらえない。
ジョニーベアは考えれば考えるほど分かりませんでしたが、ママみたいに大きくなればきっと人間の森の事も分かるだろうと思うことにしました。
「ママ、明日は森のどこを散歩するの?」
ジョニーベアははずんだ声で聞きました。
「あしたはね、とっておきのピクニックよ」
ママベアも楽しげに答えました。
ーつづくー