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事業会社からの資金調達はどう進む?留意点は?調達支援のプロがやさしく解説

こんにちは。M&Aクラウド CEOの及川です。

最近、スタートアップの経営者から、「事業会社から資金調達したい」と相談を受ける機会が増えました。当社はM&Aだけでなく、資金調達のサポートも多数手がけています。本日プレスリリースでも発表した通り、オンラインでの資金調達支援額は累計16億円を超えました。

マクロ的に見ても、「Japan Startup Finance 2021」(INITIAL)によると、2021年の事業法人1社あたりのスタートアップへの投資額は9,960万円となり、過去最高を記録。昨年はVC、特に海外VCからの大型調達のニュースが相次いだ一方で、事業会社の投資意欲も高まっています。

VCによる投資と事業会社による投資は、その目的にもバックグラウンドにもさまざまな違いがあります。そこで今回は、「事業会社に出資してもらうことに関心はあるけれど、経験がないので不安…」という皆さんのために、事業会社から資金調達する際のメリット/デメリットやプロセスを整理してみます。

事業会社から出資を受けるメリット

事業会社のアセットやネームバリューを活用できる

事業会社の持つ設備やノウハウ、ネットワークなど、資金以外の面でも事業成長に向けた強力なサポートを受けられることは、事業会社からの調達ならではの魅力です。中でも、生産設備のように、自前で持つには多額の投資が必要なアセットを借りられるのは、スタートアップにとって大きなメリット。バイオベンチャーなどのディープテック系は、事業会社からの調達と相性のよい領域の代表格です。

商品開発や実証実験を進める際にも、事業会社は有力なパートナー。「M&Aクラウド」での成約事例の中にも、IoTデバイスの開発会社がペットショップ運営会社と組み、ペットのトラッキングシステムの開発に取り組んでいるケースがあります。実証実験も、特にネームバリューのある会社に協力してもらえると、その後の市場導入を進めるうえで大きなアドバンテージになります。

また、販路や調達ルートを持っている会社と組み、拡販やコストダウンにつなげる方向性もあります。新規のプレーヤーが通常、取引先開拓に費やす大きなコストを省き、パートナーの持つ信用力のもとで取引をスタートすることができます。

シナジー期待を加味した出資判断をしてもらえる

すでにプロダクトマーケットフィットしているスタートアップであれば、場合によっては、事業会社側がメリットを享受するシナジーも期待できます。実際、大企業がスタートアップへの投資に踏み切るのは、このパターンが多いでしょう。たとえば、スタートアップが開発した技術を活用することで、大企業の製造販売する商品の付加価値アップが図れるといったケースです。

こうしたシナジー前提の出資を検討する際は、株主としてどれだけファイナンシャルリターンが期待できるかに加え、どれだけのシナジーを創出できそうかが判断の基準になります。後者の方が、むしろ比重が大きいケースも多いでしょう。このため、VCには出資を引き受けてもらいづらいスタートアップでも、相性のよい事業会社と出会えれば、高い評価を受けられることがあります。

たとえば、昨今の感染症拡大の影響で苦戦しているスタートアップは、単独で説得力のある成長シナリオを描くのは難しく、VCの受けはよくないかもしれません。そうした場合でも、その会社が持っている独自の価値と事業会社の抱えている課題感がうまくフィットすれば、出資OKを得られる可能性があります。

安定株主の確保につながる

VCは基本、投資先の上場時には保有株式を売却します。このため、レイターステージのスタートアップの中には、「上場後も安定株主になってくれる」という観点で、事業会社からの出資を望む声があります。トップレベルで信頼関係を築くことができ、互いに事業シナジーも得られるような会社と組めれば、上場後も長く株主になってもらい、安定経営を支えてもらえる可能性があります。

経営者ならではの視点で評価してもらえる

こちらは逆にアーリーステージ、特に先行する同業者がいないパイオニア的な会社に当てはまる話として、事業アイディアの持つポテンシャルがVCからは理解されづらいことがあります。この点、事業家には投資家とは異なる視点があり、とりわけ対象事業と近い領域でビジネスをしている経営者には、現場経験に基づく勘があります。「このモデルは業界の潜在ニーズにマッチするに違いない」といった、言わば肌感覚を共有してくれる人がトップにいるオーナー会社に出会えれば、信頼ベースの出資を受けられることがあります。

実は当社の創業期もこのパターンで、VCからはなかなか理解が得られない時期がありました。そのころ手を差し伸べてくださったのが、エンジェル投資家やオーナー会社の皆さん。こうした方々の存在が、資金面ではもちろん、精神的な面でも大きな支えになりました。

事業会社から出資を受けるデメリット

事業会社の“色”がつく

事業会社からの出資に関して、多くの人が真っ先に思い浮かべる懸念は、恐らくこれでしょう。特に大手同士の競争が熾烈な業界で1社から出資を受けると、業界内の忖度が働き、取引先が限られることがあります。

ただ、これは業界によって、また事業会社との関係性によって、影響範囲が大きく変わってくる部分でもあります。その会社から出資を受けた場合、受けなかった場合のメリット・デメリットを具体的にシミュレーションしてみることが大切です。

400Fが今年1月に発表した資金調達で、SBIグループと楽天証券の双方から出資を受けているように、複数の同業者を株主に迎えることでバランスを取るやり方もあります。事業内容にもよりますが、一定数以上のユーザーが集まることで価値を発揮するプラットフォームビジネスなどは、こうした株主構成になじみやすいと言えます。

事業会社の担当者が短期で交替してしまう

これも大企業あるあるです。もちろんVCでも担当者が退職してしまうことはありますが、ファンドの償還期限が来る前に異動になる可能性は低く、基本的には同じ担当者と関係を深めていくことができます。一方、事業会社の場合、社内のさまざまな事情から、本人にも予測できない人事異動があるのはむしろ当たり前です。

2社間で共同プロジェクトを進めている場合など、担当者が替われば、多少のスピードダウンは覚悟しなくてはなりません。大企業と組むなら、人事異動の可能性は常にあることを覚えておきましょう。

比較的短いスパンでの予実管理を求められる

出資決定時の計画値に沿った業績を達成できているかどうか、定期的にチェックが入るのはVCでも同じですが、事業会社の場合、計画値から大きく下振れると、減損損失を計上しなくてはならなくなる可能性があります。会社や会計基準にもよりますが、VCよりも比較的短いスパンで計画との差異を追及されるケースがあることは、頭に入れておきましょう。

事業会社に出資交渉するプロセス

大企業は検討プロセスが長い

VCの場合、早ければ数週間で出資を決めてもらえる場合もあります。一方、大企業の場合は決定までのステップが煩雑で、期間も長くなります。目安としては半年程度はかかることが多く、逆算して動き始める必要があります。

初めは事業提携からスタートし、一定の関係値を構築してから出資を持ちかけるのも一つの手です。この場合、大企業側の思惑としては、事業提携のみで成果を出したいと考えがちですが、実際は出資もしてもらった方が、事業提携もスムーズに回ることが多いようです。

理由としては、まず事業提携をうまく進めるにはスタートアップ側に専任担当者がいることが望ましい一方、少ない人数で回しているスタートアップにはなかなかその余裕がありません。そこで大企業側から出資を受けられれば、人件費や採用コストをカバーすることができます。

また、大企業側から見ても、事業提携のみのプロジェクトは優先度が低くなりがちです。より重要度の高い案件が発生したタイミングで、優秀な人材をそちらに回されてしまうような展開もあり得るでしょう。出資を引き出せれば、大企業側も必然的に本腰を入れてくれます。

さらに言うと、大企業とスタートアップの提携では、スタートアップの成長は加速した一方で、大企業側の業績には期待したほどのシナジーが現れなかったというパターンがしばしば見られます。たとえば、スタートアップの開発した技術が当初想定していた用途ではなく、別の業界で役立つことが分かった、といったケースです。この場合でも、もしスタートアップへの出資もしていれば、大企業は第三者に株式を譲渡することで、ファイナンシャルリターンを確保できます。

なお、出資検討プロセスが長いのは主に大企業の場合であり、事業会社でもオーナー会社の場合は、比較的スピーディーに進みます。「M&Aクラウド」で成約した事例の中には、面談から数日でOKが出て、2カ月足らずでクロージングに至った例もあります。

1社あたりの出資額は小さめ

レイターステージのスタートアップは調達規模も大きくなりますが、事業会社の場合、1社で数億円台後半を出してくれるケースはあまりありません。一般には3億円程度が1回の出資額の上限と言われています。「Japan Startup Finance 2021」(INITIAL)によると、2021年の事業法人によるスタートアップ1社あたりの投資額の中央値は9,000万円です。

このため、事業会社だけのラウンドは、参加する社数が多くなりがちです。ということは、クロージングに至るまで、多くの会社との交渉を並行して進めざるを得ません。事業会社の場合、VC中心のラウンドでいうリードインベスターの概念も通常はなく、発行体であるスタートアップ自身で各社と調整していくことになります。

株主の社数が多くなれば、クロージングまでの手続きだけでなく、クロージング後の株主コミュニケーションにも手数がかかります。すでにコーポレート部門の体制が整っている会社は問題ないですが、少数のメンバーが複数部門を兼任しながらコーポレート業務も担っているようなケースでは、通常業務に支障が出ることもあり得ます。

事業会社のラウンド=ラストラウンド⁉

事業会社によるラウンドを進める場合の懸念点として、「以降はVCが入りにくくなるので、事業会社のラウンドは実質ラストラウンドになる」という俗説があります。主にVCサイドから語られることが多い話です。

実際には、事業会社によるラウンド後も、VCから出資を受けた事例はあります。2021年に香港の機関投資家などから53億円を調達したタイミーのケースも、前回ラウンドでは物流施設会社が中心となっていました。

事業会社の場合はシナジーを加味したバリュエーションになることが多いとはいえ、事業会社から得られるメリットも駆使しつつ、事業を急成長させることができれば、次回ラウンドで前回を上回るバリュエーションを獲得することは可能です。「事業会社ラウンド後、次回ラウンドのハードルは上がるものの、成長力に自信があれば問題ない」と私は見ています。

重要技術やノウハウの流出リスクに注意

出資交渉に来たスタートアップから重要な技術やノウハウを聞き出し、出資は断ったうえで、入手した情報を他に流してしまう――いわゆる「パクり」問題です。対VCでも聞くことはありますが、やはり対事業会社の方が多い印象です。

よく言われるように、自社事業の中でもコアとなる領域、すなわち競合との差別化につながる独自のノウハウや技術に関わる情報は、極力流出させないようにすべきです。事業会社とオープンイノベーションにチャレンジする場合も、コア情報は大切に守りながら実務を進められる領域に限って連携することが望ましいでしょう。プロダクトマーケットフィットするまでは、自社のコア領域とノンコア領域も見極めづらいため、この段階で事業会社との出資交渉をすることは控えた方が安全です。

逆にまだプロダクトもないような初期の段階であれば、何かを「パクられる」心配もないでしょう。最もリスクが大きいのは、プロダクトはローンチしたものの、まだピボットの可能性もあるといった微妙な時期です。何気なく話してしまった情報に目を付けられ、他社で先に事業化されたり、特許を取られてしまったりしたら、取り返しがつきません。

具体的な交渉に入る前に秘密保持契約を結ぶなど、情報の出し方に注意することはもちろんですが、「今の自分たちは、コア領域を把握できているか?」と自問してみることも大切です。

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